嫌われたくないし好かれたくもない
保健室に入って悠里は養護教諭の先生に見てもらうことになった。
恋がいつも使っているカウンセリング室に座らせて話を聞いたりしてとりあえず落ち着かせる。
その間恋は先生の椅子に座り足をプラプラとさせながら暇を潰していた。
時たま教室で見ていた野次馬が恋の顔を覗きに来たが、恋は完全に無視
どうでもいいと言わんばかりの無視を決め込んだ。
〈キーンコーンカーンコーン〉
昼休み終了のチャイムがなった頃に、先生がカウンセリング室から出てくる。
「はぁ...って何座ってんの」
疲れた様子の彼女はとりあえず人の椅子に座ってる恋に注意する。
本当にとりあえずの注意。どうせ聞かない
「どうでした?」
それを証明するかのように恋は無視して返す
「あの子、喧嘩したって言ってたけどあそこまで精神的にボロボロにするってよっぽどね。全く、どんな喧嘩をしたのか」
「...」
恋は平気な顔をして黙ったまま話を聞く
「早退したほうがいいね。まぁとりあえず高杉、あなた仲良いでしょ?話をして気分を戻してあげて。あたしは担任と授業の先生に伝えてくるから」
あえて多くは語らず保健室から養護教諭の先生は出ていった。
深くは入り込んで来ないところがあの先生の良いところだなって恋は再確認しながら、椅子から降りるように立ち上がりカウンセリング室に入る
「悠ー里!」
満面の笑顔で恋は悠里を見つめて隣に座る。
ここに来た時よりだいぶ落ち着いていて養護教諭のそういうメンタルケアの技術に恋は少し驚かされる。
「恋先輩。ありがとうございます」
悠里は座ったままペコリとおじぎをする。
恋は少し優越感というか、貸しをまた一つ作った気分になり嬉しくなる
「先生も言ったけど、本当にどんなことを言ったらここまでなるのかしら」
恋はそれでも夕夏を責める気にはならなかった。
「わたしが悪いんです。調子に乗っちゃったから…」
「…?どういうこと?」
悠里は出会った頃のように視線をあちこちに向けて恋に目を合わせようとしなかった。
そこが少しむず痒くなって悠里の心にまた踏み入ろうとする
「あ、あ、いや」
悠里は一層戸惑った様子を見せる。
それでも拒む様子がなさそうな悠里に恋はまた安心してしまう。
自分を受け入れてくれたんだって思える。
そう思う。本当に、嬉しい。
きっと出会った頃に同じように踏み込んで話を聞こうとしたらきっとまたビンタを食らう。
あれは痛かったな。そんなことを恋は思い出す
「聞かせて」
「…聞いてくれる?」
タメ口にドキッとする。
悠里は何かを思い出すように恋に語りかける。
恋はまだ、悠里の底知れない魅力のようなものに心をまた掴まれる。
ただ悠里は磨耗している。親友に嫌われた。この人しかいないと思えた人に嫌われた。
まただ。またなんだと思いながら。
心が締め付けられて、潰されて、何か、コンクリートのようなザラザラとしたものに大切なものを目の前で思い切り擦り付けられ、削られていくような苦しみが、ずっと悠里の内側にはあった。
「好き」これが嫌い。いや、「好き」は、好き。大好き
ただ、踏み込まれることが嫌いになった。
だから、悠里は全てを晒したくない。
だから、嫌われたくないし好かれたくもない
でも今は、どうしたらいいか分からない
だから恋の目を見つめて、恋に救いを求めるように、ゆっくりと口から晒したくない自分の思い出を溢す。
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