綺麗を独り占め

 あたしは島崎夕夏、女の子


 小さい頃から髪が短くて走るのが好きで男の子とよく遊んでたから、女の子っぽくないとか言われるけど立派な女の子。


 少女漫画にキュンキュンするし犬を見たら可愛くて触りたくなるし真っ白なワンピースだって着るし綺麗なアクセサリーだって大好き。


 小さい頃、とても綺麗なビー玉をもらったことがある。


 あまりに綺麗で透き通るような青色。お父さんに連れてってもらった水族館の水がそのままガラス玉になったような綺麗なビー玉。


 毎日眺めた。


 毎日手に取って光に当ててそれが綺麗なことを確認した。


 クルクル回して、傷がないかチェックした。


 口の中に入れて、自分が海になった気がしたり、転がして海を操ってる気分になったりして、そうしたら汚れないように何度も水で目に見えない汚れも洗って大切に他のビー玉とは別の箱にしまってた。


 そんなある日、口の中に入れて遊んでいたら小さい頃のあたしは間違えてそのビー玉を飲み込んじゃった。

 別に身体には異常はなかったんだけど、もうビー玉は触ってその綺麗な青色を見ることはできない。


 見れなくなっても別にあんまり悲しくはならなかった。むしろ、綺麗なビー玉を飲みこんだあたしはこの綺麗なビー玉を綺麗なまま独り占めした気分になった。


 独り占め、子供の頃はいけないとよく言われるけど、あたしのは別に悪いことじゃないよね?


 一つしかないものは一人しか所有出来ないんだもん。仕方ない話だよね。


 だから綺麗なビー玉も一つしかないからあたしだけしか所有できない。

 それにあたしの中に入っちゃったんだから、あたしだけのもの



 綺麗なもの、大好き。なんでも好き。



 中学生の頃、近所のアパートにハーフの大学生の男の人がいたことがある。

 とても綺麗だった。

 美形ですらっと背が高くて、髪を赤く染めていた。こんなに綺麗な人いるんだってあの時は思ったな。



 綺麗な人、大好き。 綺麗ならなんでも大好き



 高校の入学式で偶然同じクラスになった、本を読んでるフリをしてるお茶目な可愛い女の子。

 髪で自分の顔を隠して自分を隠す女の子。

 隠していてもあたしには分かる。綺麗が大好きだから。

 ただビックリしたのは彼女は見た目だけじゃなくて心の中まで綺麗だったこと。


 彼女は一人、孤独かもしれない


 けど近くに親友のあたしがいればきっと寂しくなんかさせないよ

 綺麗な彼女をあたしが独り占めする。



 独り占め、大好き。悠里、大好き



 ただ困ったことに別の綺麗があたしの綺麗を横から取ろうとしてる。

 保健室の先輩が、あたしの親友を。


 許せない


 でもその距離感はダメだよ。あたしだってその距離から悠里を見たことないのに。

 悠里はその距離に入ってほしくないんだよ。

 そんなに踏み込んだら綺麗な関係が壊れちゃう。


 そう思ったのに、綺麗な関係は壊れなかった。

 それどころか、もっと綺麗な関係を築いていた。


 ずるい。その距離であたし悠里を見たい。

 あたしがそこにいたい。

 悠里のすぐそばで笑いたい



 大嫌い。綺麗な人は好きだけど、あたしの綺麗を取る人は大嫌い。



 状況が違えば先輩も好きでいれたけど、こんな状況じゃ先輩は嫌いになっちゃうよ。

 先輩もすごい綺麗な人なのに。困ったな。


 どうすれば独り占め出来るのかな

 そんなことばかりを最近は考えちゃう。


 ただこうして、手を繋いで一緒に走ってどこまでもいけたら幸せなのにな

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