ホイップクリームと仮面

 悠里は甘いものが好きだ。


 ご飯よりお菓子の方が好きという見た目や内面の暗さに反してファンシーな悠里は目の前のパフェに目を奪われている。


「あたしのおごりだから、好きに食べて! 付き合ってくれたお礼」


 色々考えた後に文具店で一時間ほど頭を空にして活動を止めたり再開させたりで疲弊しきった悠里の脳は糖分を求めていた。

 一口、長めのスプーンで淡く溶けるホイップクリームをすくって口に運ぶと自然と顔がほころぶ


 こんな美味しいものを奢ってくれるならもっと仲良くしてもいいかもとも思えたが

 そんな甘い考えはクリームと一緒に口と頭ですぐ溶けてなくなる


「んーーー!」


 鼻から抜ける甘い香りがとても幸せな気分になる。頭まで真っ白になりそうなくらいふわふわする。


「いい顔ね。その顔が本当の顔?」


 恋は悠里に顔を近づける。

 一度悠里からビンタをもらっているというのに懲りる気配を全く感じない。悠里は緩んだ頬を締め直す。


「…」


 無言でパフェを口に運ぶ。緩みそうになる頬に気を張って


「なんでそうなってしまったのかしら?私はそれが気になって仕方がないの」


 なんのことを言っているのか、悠里はわからなかった。何を聞きたいのか、たった二週間ほどしか出会ってから経ってない恋が何を知っているのか。反論はいっぱいあったけど黙っていると恋は続ける。



「悠里。なんで私があなたに構うか、あなたが好きなのか。聞いたよね』



 悠里はスプーンを止める。恋が真剣な話をしようとしているのはその口調と顔ですぐ伝わった。



「私ね。実は知ってるんだよ」



 それまで黙っていた悠里は口を開く。



「何を知ってるって言うんですか」



 気づけば言葉に詰まることもない。普通に会話をする



「あなたの本当の顔。その仮面の下のあなたの、片桐悠里の本当の顔を知っているの」



 悠里の前髪で隠れている眉毛がピクリと動く。悠里には恋の話が嘘なのか本当なのか分からない。

 だからこそ無神経に体を弄られた気分がして悠里はイラっとしてしまう。


 わかってないのにわかったふりをして理解者のフリをするのは


「何を…」


 それ以外の言葉が悠里には思い浮かばない


 悠里はどう反論していいのかわからない。適当に言いくるめようと思っても恋には多分嘘が通じない。

 仮面がどうのは一切信用していないが恋が心を見透かしたように感情の機微に敏感なのはこの二週間でわかっていた。


「それに私、実は悠里に会ってるんだよ。保健室の廊下で会う前より、ずっと前に」


 悠里は前髪の奥で訝しげな瞳を恋に向ける。

 それに対応するように恋は腕を頭の上に持って行き伸びをする。


 その一連の動作からふぅと息をついてゆっくりと恋は喋り始めた。

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