其ノニ 七輪

「さて、後はお酒をかんにして、この鯖をあぶれば出来上がりね。里芋の醤油あんかけと、小松菜のあぶらげえはもう出来上がって居ますし。」


 割烹着かっぽうぎ姿の安子様は、手際良く夕餉ゆうげの御準備をされていらっしゃいます。


「七輪の炭も良い感じにおこっておりますね。あなた、取り敢えずこのや(常温日本酒)と小松菜和えで一杯って居て下さいね。」


 七輪の上の油の乗った塩鯖をぱたぱたと団扇うちわで仰ぐと、酒呑みには堪らない香ばしい煙が上がりました。安子様は縁側で団扇うちわはたきながら、居間で晩酌を始められたご夫君ふくんに、この様に申し上げました。


「あなた。前にもお話ししましたけれど、本日これから大奥(PTA)のお集まりが御座いまして。すみませんが、もうじき出立しゅったつさせて頂きますので。」


「なに、今からか? もうななはん(午後5時)を回って居るではないか。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る