討論会開始

 修練騎士団長選挙の日程で最も重要なこと。


 それはまさに候補たちの討論会だ。


「緊張したの?」


 私は隣に立っているジェリアの顔を見ながらそう尋ねた。ジェリアは平静を装って微笑んでいたけど、口元が少し震えていた。


「……正直、否定はできないぞ。だが君は何気ないようだな、テリア」


「特にそうでもないわ。私も緊張する時はあるから」


「少なくともその時が今ではないようだが?」


「失礼だね。本気なのよ、私も」


 私を何だと思っているのかしら、まったく。


 まぁ、表向きは平然と見えるのは認めるけど。それでも緊張しているのは本当だ。討論会がどんなものかを考えると、やっぱり私も先を予測できない。


 前世には政治家の選挙前討論会のようなものがあった。特にいくつかの国の国家元首選挙の時は激しい討論が交わされ、それをテレビで生中継したりもした。前世の私も何度か見たことがあった。


 今回の討論会はそれと似ている。討論会場にはかなり多くの観客がいて、その他にも魔法でアカデミー全域に討論会が放送される。少なくとも選挙に関心のあるアカデミー関係者なら誰でも今回の討論会を見ることができる。


 その上、修練騎士団長選挙の討論会は前世の政治家討論会とは異なり、候補本人だけが登場するわけじゃない。候補の支持者が二人まで同席でき、発言権も同等に有する。そして私はジェリア側の同席者だ。すなわち討論に参加する当事者なのだ。


 ジェリア側の同席者は私とロベル。テニー先輩側はラウルと他の生徒一人。ラウルは修練騎士団員じゃないけど、残りの一人は総務部員だ。あまり交流がなかった仲なので、どんな人なのかはよく分からないけれども。


 雑談の時間はここまで。


「今から今回の修練騎士団長候補者討論会を始めます」


 司会者の宣言が放たれた瞬間、私たちはもちろん観客も黙っていた。


 一瞬の静寂の中、司会者の声だけが魔力で増幅され響き渡った。


「最初は各候補者の公約発表です。すでに関連資料がアカデミー内部に配布されていますが、該当資料をまだ見ていない方々もいると思います。また、資料の作成時点と現在の公約に変化がある可能性がありますので、有権者の皆様は今回の公約発表を注意深く聞いてください。公約発表後は各候補者陣営間の質疑応答の時間があります」


 来た。


 最初の公約発表。決まった内容を観衆の前で宣言するだけだけれど……不特定多数の有権者に第一印象を刻印させる重要な手続きだ。


 ジェリア側……すなわち私たちの公約の大きな流れは次の通りだ。


 一。修練騎士団執行部の質的向上とアカデミー敷地内パトロールおよび警戒強化。


 二。修練騎士団内の各部間連絡および情報交流手段の正規化。これにより、各部の連携および協業体系をさらに強固にすること。


 三。生徒たちが要求する懸案に対する迅速で信頼性のある対応体系の成立。


 もちろん各項目の具体的な施行方法も含まれており、その他にも内外のいろいろなイシューや問題点に対する対応などが追加で存在する。


 外部的には最近、王都にまでテロを行っている安息領などの敵性勢力への対応。内部的には単純な苦情事項に対する改善から校内でのいじめや暴力のような不純な事態への対処など。一言で〝安らかで安心できるアカデミー生活環境造成〟が私たちの目標だ。


 逆にテニー先輩側の公約は次の通りだ。


 一。効率的かつ合理的な予算運用および施設最適化による金銭的効率化。


 二。生徒たちの要求事項を調整して各学科の教育および活動の質を向上。


 三。騎士科の外部遠征実習生を執行部と連携し、長期的には入部を推進することで執行部の量的向上を図る。


 各項目に対する細部的な施行方案やその他の様々な公約を聞いた私は、やっぱりテニー先輩らしいって少し感嘆した。


 さすが総務部長。アカデミー内部の懸案については、私たちより詳しく効果的な戦略を樹立したようだ。特に、どの学科のどの施設が立ち遅れているとか、どんな資材が足りないとかいう部分は対応に必要な時間と費用まで具体的に提示した。


「テリア、どう思うのか?」


 ジェリアは私にだけ聞こえる小さな声でささやいた。私も声を合わせて返事を返した。


「アカデミー内部政策は見習う点が多いわね。内容だけ見れば、今すぐのアカデミー生活の質的向上は私たちよりあっちが優位でしょ。いくつかの政策はこっちも借用したいわ」


「……そう言う割には表情が自信満々だな」


「あら、そう見えたの?」


 私は冗談交じりに笑いながら舌を出した。


 実はジェリアの言う通りだ。テニー先輩の公約集を事前に確認した時から考えていた弱点が、今も依然として残っていたのだ。さらに、事前に配布された公約集より発展したにもかかわらず。


 聴衆の中にいる〝彼ら〟の姿も自信の一因だ。


 同席者として参加したラウルを除く、辺境伯勢力の他の人々。彼らの半分は緑のハンカチをつけていたけれど……残りはハンカチをつけていなかったり、藍色のハンカチをつけていた。


 この席の聴衆は誰を支持しているかを示すことができる。ハンカチの色が候補を表す。緑色がテニー先輩で藍色がジェリアだ。ハンカチをつけない人はまだ悩んでいる者、あるいは誰を支持するかを隠す者だ。


 重要なことは、本来テニー先輩の支持層だった辺境伯勢力の人々のうち、なんと半分がテニー先輩の緑色ハンカチをつけていなかったという点だ。


 ラウルとのやり取り。それで辺境伯勢力を完全にこっちに転向させることはできないと思っていた。けれど転向したり、あるいは心が揺れている人数が半分。予想よりはるかに良い成果だった。


 辺境伯勢力はテニー先輩の支持層の核心。そのような彼らの分裂は支持層自体の不安定さを意味する。


 もちろん油断は絶対にしない。


―――――


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