前を眺める視線
ジェリアは純粋能力主義に近い思想を持っている。そして保守能力主義者のフィリスノヴァ公爵を敵対している。
そんな彼女が公爵になれば、フィリスノヴァ公爵家が保守能力主義派の筆頭役割を果たせなくなるだろう。フィリスノヴァ公爵という強力な求心点を失った保守能力主義派が以前のような威勢を見せることができるのか?
その疑わしい質問で首を振ることができれば……次はこのような疑問が出る番だ。
純粋能力主義の浮き彫りにおいて、
そもそも辺境伯家と純粋能力主義派がテニー先輩を支持するのは、別にテニー先輩の勝利が純粋能力主義派の勢力に大きく役立つためではない。ただ保守能力主義派の筆頭の末裔であるジェリアの勝利を防ぎ、政界に進出する純粋能力主義者を一人でも増やすことで、少しずつ発言権を増やしていくということだけだ。
そのような状況で、派閥により大きく確実な役に立つ選択肢が与えられたら……テニー先輩の支持基盤自体が揺れるのはもちろん、その票を私たちの方に持ってくることもできる。
「……とても魅力的な話だということは認めます」
ラウルは低く沈んだ声で口を開いた。
さっきよりは勢いが衰えたような様子。やっぱり私が、いや私たちが提示したメリットが魅力的に見えたんだろうね。けれど、まだ完全に承服してはいないようだった。
私の話が完全じゃないということは、誰よりも私自身がよく知っているわよ。
「ですが、そこには問題がいくつかあります。まず一つ目は……だからといって、ジェリア公女が今回の選挙で必ず勝たなければならないわけではないということです。すでに最も有力な後継者とされるジェリア公女に、修練騎士団長という経歴が必ず必要ですか? いっそテニーを当選させることで、その後テニーの役に立つ経歴を作ってあげた方がいいでしょう。両方を得た方がいいというのは当然ですから」
間違ったのじゃない。ジェリアが公爵になるために修練騎士団長の席が必ず必要なわけじゃないし、平民のテニー先輩が政界に進出するための経歴として使うのがもっと効果が大きいかもしれない。
けれど、それはすでに予想しておいた質問だった。
「フィリスノヴァ公爵閣下はまだ全盛期が続くと言われるほどの大物ですわよ。ジェリアが公爵位を継承するのはかなり未来のことでしょう。まさかその時までただ待つだけじゃないですわね?」
「修練騎士団長になったからといって爵位継承が繰り上げられるわけではありません」
「繰り上げることはできませんけれど、
公爵領内の勢力にとって、次期公爵を確保することは極めて重要である。そして逆に後継者もまた、自分の勢力を作っておくことが大いに役立つ。
今のフィリスノヴァ公爵が公爵領で保守能力主義の強硬派首長であるように、ジェリアも自分の勢力を確保する。それでさらに立場を固め、ひいては公爵の勢力と対立する役割を果たすことになれば。
「そのような関係を、勢力を作ることさえできれば……他の公爵家の
中立に近い消極的な純粋能力主義であるオステノヴァとアルケンノヴァにとって、フィリスノヴァ内部から発芽する純粋能力主義の芽は魅力的だ。私があえて頼まなくても、父上ならとても喜んでドロミネ伯爵家の勢力を支援するだろう。ひょっとしたら今も私の知らないところでやっているかもしれないし。
公爵位を継承する前から一つの勢力を率いるための踏み台。まだ明確なセールスポイントがないジェリアにとって、修練騎士団長という地位はその足場として適している。
ラウルもそのような部分をすべて理解したようだった。
「いいです。一つ目の答えは認めます。ですが……二つ目があります」
ラウルはジェリアを見た。その視線には若干の戸惑いと……疑いが宿っていた。
「俺たちがその言葉通りになるとどう信じられますか? ジェリア様が本当に保守能力主義を弱体化させることができるのかを……俺たちと似た思想を持っているのを、俺たちがどう考えられますか? いつも強圧的だったフィリスノヴァが、単純にオステノヴァの傍でもっと隠密な陰謀を企てているというのがより信憑性があるでしょう」
「何ですかそれ! 今までジェリアお姉さんは一生懸命頑張りました!」
「わからないのなら教えてあげる。ジェリアがどんな仕事をしてきたのか、そして誰と一緒にいたのか……」
アルカとリディアが割り込んだけど、彼女たちを制止したのは私じゃなくジェリアだった。
「止め。あえてそんなことまでぶつぶつ言いたくはないぞ」
ジェリアの視線がラウルに向けられた。なかなか好戦的な笑みだった。でも何て言うか……五年前、私が入学してすぐ挑発した時の表情と似ている。
ジェリアがあんな表情をする時は、相手がかなり気に入ったという意味なんだけど。
「質問への答えだが、今出せる証拠はない。だがボクと交流して一緒に働いてきた奴らに聞いてみれば、大体答えが得られるだろう。気になるならそちらを調べてみるように」
そう言ったけど、ジェリアの目はテニーに向けられていた。まるで彼に〝君なら知っているんだろう?〟と言うように。
「もちろん、そういうレベルの話でいけば差別化することはあまりないだろう。団員としての献身と実績はテニーも侮れないからな。いや、総務部の仕事を考えると、執行部であるボクよりも生徒たちのアカデミー生活に大きな影響を及ぼしたのかもしれない。そんな役割をうまくこなすのは尊敬に値することだ」
「敵を褒めるなんて、余裕が溢れていますね」
「は? 何を言う」
ラウルは皮肉を言ったけれど、ジェリアは心から分からないって言うように首をかしげた。
言葉を続けるジェリアの表情は、まるで当たり前の事実を物語っているようだった。
「ボクは敵を褒めないぞ。そんなことは一度もしたことがない」
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