案内された場所
とはいえ、どこへ行くのかは俺にも気になった。
「リディア様。失礼でなければ……」
「あまり硬くなる必要はないと言ったでしょう? どこに行くのか気になるんですよね?」
「……はい」
「リディアたちは真剣に修練する時はアカデミーの外に行きます。いろいろ場所が必要なんですよ」
「アカデミー外……ですか?」
これはちょっと予想外だ。
しかし、もう一度考えてみると納得はできた。テリア公女様と友人の方々がアカデミーの中で見せてくれた鍛錬姿に比べて、実力は明らかに変だったから。特に三年生の頃からはアカデミー内の練習場では魔力をほとんど使わない剣術鍛錬のようなものしか見えなかった。
そして今急に修練の話をしたということは、あのお二人は別々に修練や模擬戦をしに行ったということだろう。
しかしアカデミーの外なら時間が少しかかるのではないか。
「ご心配なく。移動する時間はあまりかからないんです」
ジェフィス様が俺に視線を向けてそう言った。
しかし、アカデミーは非常に広い。歩くだけなら単にアカデミーの敷地から抜け出すのにあと三十分以上はかかるはずだけど。その上、リディア様が先導する方向は人気の少ない路地の方だった。
……路地?
「ここくらいでいいですね」
内心警戒心を高める俺と友達の気配を知っているのかないのか、リディア様は平気で話し、胸の中から何かを取り出した。俺はそれが何であるかをすぐわかった。
「転移の魔道具でしょうか」
「そうです。そこはそもそも普通の移動手段では行けない場所なんですよ」
一瞬拉致のようなことを疑った。でもリディア様はそう言うだけで、魔道具を起動させる気配はなかった。むしろ俺を見ながら質問を投げかけた。
「ついて来ますの? 拒否するならあえて連れて行きません」
罠なのか、ないのか。
一瞬疑ったけど、すぐそんな自分がおかしくてぷっと笑ってしまった。
考えてみると呆れる。公爵家の令嬢がどうして俺のような奴を罠にかけるんだ? それだけの価値がないのに。
皮肉なことに、俺自身の価値をそれほど高く見ていなかったので、頷いても抵抗感はなかった。
「お願いします。ついていけば、テリア公女様とジェリア公女様について知ることができるんですよね?」
「間違いなく。……でもあの二人にも敬称は抜いてくださいね。本人たちが聞いたら嫌がるはずだから」
その言葉と共に魔道具が起動した。眩しい光が俺たちを包み込んだ。その光が消えた時はすでに、目の前の光景が一変した後だった。
その光景に、俺は息を呑んだ。
「こ……こは……」
「驚きましたよね? 初めて見ると、そんな反応が出るしかない所なんでしょう」
そう言うリディア様の声は平然としていた。いや、むしろ茶目っ気さえ感じられた。
巨大な屋敷と庭。ここまではいい。しかし、庭を離れたところからはひどい邪毒に侵されていた。まるで世界そのものが邪毒で構成されたようにすべてが真っ黒に染まっていて、形もめちゃくちゃだった。それさえも半透明な結界が邪毒を防いでくれたため、庭には侵犯できなかったことだけが慰めだった。それさえも分かったのは、森のようだということくらいだった。
……待って、森?
「ここは呪われた森ですか?」
「その通りですの。以前、オステノヴァ公爵閣下がこの森を研究するために作った拠点だそうです。結界はオステノヴァ公爵家が誇る特製なので安全は確実です。……結界の外に出るとすぐ邪毒に浸食されますので、決して出ないでくださいね」
こんな所で修練をする?
まさか外に出るのかと思ったけど、リディア様たちは結界ではなく邸宅の方へ向かった。
「リディア様? なんでそっちに……」
「邸宅の中に特殊な結界があります。その中で模擬戦をするんですよ。多分テリアとジェリアもそこにいると思います」
「それはそうかもしれませんが……話をしに来たのではないでしょうか?」
「百聞は一見に如かず」
リディア様は唇に指を当てて微笑んだ。数年前までは実の兄に抑圧された人だということが信じられないほど明るくて……どこか妖艶な笑みだった。
「テリアがどんな人なのか知りたいなら、話は必要ありませんよ。直接見て判断してください」
「……はい」
問い詰めても満足のいく答えは得られないと、その瞬間理解した。どうせリディア様のおっしゃる通り、直接見る機会が得られれば申し分ないし。
そう思いながら、リディア様の案内に従って屋敷の中のある部屋に入ったが……。
「わっ!?」
「な、何だ!」
ついてきた友達が悲鳴を上げた。俺は口を開かなかったけど、心だけは同じまま目の前の光景を眺めた。
ドアを開けた瞬間、まるで俺たちを殺そうとするような勢いで目の前に迫ってきた巨大な氷を。
幸い結界のようなものに阻まれて俺たちには届かなかった。けど骨まで染み込むような冷気までは防げなかった。まるで永久凍土の地獄を目撃したような冷気と氷が一瞬俺たちを圧倒した。
そして紫色の閃光が氷を粉砕した。
吹き荒れる氷雪の嵐と、その嵐まで壊してしまうように暴れる紫色の雷光。すでに巨大な台風のような自然災害のレベルだった。結界がなかったら俺なんて一瞬にして跡形もなく消滅しただろう。だけど結界があったにもかかわらず、外見以上に吹き荒れる莫大な魔力を感知し息が詰まった。
「盛り上がったね」
リディア様は平然としていた。彼女だけでなく、アルカ様とジェフィス様も、そしてテリア様の使用人たちも同じだった。彼女たちにはこういうのが日常だというのかよ。
俺の視線に気づいたリディア様が微笑んだ。彼女の指が災害の真ん中を指差した。
「よく見てくださいね」
何を見ろというのだろうか。
疑問を感じながらも、目は災害の真ん中を見つめた。莫大な魔力の揺れで魔力の感覚も妨げられる中、そこをじっと見つめていた俺は……やがて
剣を握ってお互いに飛びかかる二人の人間の影を。
―――――
読んでくださってありがとうございます!
面白かった! とか、これからも楽しみ! とお考えでしたら!
一個だけでもいいから、☆とフォローをくだされば嬉しいです! 力になります!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます