リディアの話
「貴方は誰ですの?」
彼女たちの中で一番小さな少女が警戒するような顔で前に出た。アルケンノヴァ公爵家の令嬢、リディア公女様だ。体格は小さいけど、実際には今ここにいる公爵家の令嬢令息の中では一番年長者だ。
「自分は騎士科五年生、アレン・ロンドと申します。お聞きしたいことがありまして無礼を冒して訪ねてきました」
リディア公女様はアルカ公女様とジェフィス公子様の顔を順に見た。彼らが頷くと、リディア公女様もそっと頷いた。そしてまた俺の方を見た。
「あまり固まっていなくてもいいです。呼称もいちいち公女とか公子とかつける必要はありませんし。リディアたちはそういうことをいちいち気にする者じゃありませんから。それで、どうしたんですの?」
「……ご配慮ありがとうございます。デリケートな問題かもしれませんが、ここで話してもいいですか?」
「構いません。とんでもない虚言でなければ」
さて、これから何の話をしようか。
当然だけど、露骨にピエリ様のことを聞くつもりはない。礼儀もない行為であるだけでなく、聞いても率直な答えが期待できそうにない。そもそもあの御方を告発した主役はこの場にいないし。
今はやっぱり間接的に接近する方がいいか……と思って口を開こうとしたけど、その前にリディア様が先手を打った。
「貴方、ピエリ卿を尊敬する方ですね」
「!」
……ミスした。瞬間的に表情が固まってしまった。
反射的に表情を収拾したけど、それがむしろ相手の疑いを確信にさせることは俺も知っている。
しかしリディア様は平然としていた。
「心配いりません。それに関して非難するつもりはありませんから。……今はそうなったとしても、長い間国と民のために献身した事実まで消えるわけじゃないでしょう。ただ……」
リディア様の目が鋭くなった。まるで俺の心を見抜くように。
「指名手配の根拠への疑念を語ろうとしているのなら無駄です。リディアも去年のその場で直接彼と剣を突き合わせた一人だから」
リディアだけでなくこの場のみんなが同じです、と。それを聞いた瞬間、俺は目を丸くしてしまった。
こっちも当事者だったなんて。そんな話は聞いたことがないんだけど。
……といっても、主役が誰なのかは変わらない。
「そんな話をしに来たわけではありません」
「でもそれと関係がある話のようですね」
……この人が本当にリディア様なのか。
よく知っているわけではないが、それでも噂を聞いたり、遠くから見たことはあった。でも俺が持っていた印象と今のリディア様の姿は全く違う。
編入したばかりの時は兄のディオス公子に抑圧された可哀想なお嬢様だった。そうだったこの方を変化させたのがテリア公女様。
ただし、外的な印象が大きく変わったかというと……意外とそうではなかった。
四年前には食堂で騒ぎを起こしたとか、そういうこともあった。でも基本的には公爵家の令嬢。前であれ後であれ、どうせ俺のような平民には縁のない相手だ。
しかもリディア様は基本的にテリア公女様といつも一緒にいる傾向が強かったし……無礼な考えだろうが、テリア公女様の友人というよりは取り巻きに近い印象だった。そのため、自主的に前に出るというイメージがあまりなかった。
……バカみたいな考えだったんだね。ただテリア公女様に隠されただけだった。
「……どうしてわかったんですか?」
「特にわかって言ったわけじゃありません。ただ……」
リディア様が苦笑いした。どこかはかなくて可憐な……。……いや、今そんなこと言う時じゃない。
もちろん、俺の考えなど分からないリディア様はそのまま言葉を続けた。
「リディアたち……特にテリアとジェリア関連ではその話がよく出てきますので。
「……そうでしたか。否定はしません。だからといって直接聞くつもりはないのですが」
「それじゃどんな話をしようと来たんですの?」
リディア様の顔に警戒心がこもっていた。俺を強く敵対したり警戒する感じではなかったけど……油断できない、程度の感じというか。
それが性格のせいなのか、それとももともと公爵家の令嬢に必要な素養なのかは分からない。しかし、個人的には悪い感じはしなかった。過度な敬称は嫌だと言いながらも、バカみたいに安心もしない態度。遠すぎず近くもない、ちょうどいい距離感。むしろ気に入った。
こんな人の友達なら、少しぐらいは信じていいんじゃないかと思うくらいには。
「テリア公女様とジェリア公女様について知りたいです。あの方々が……どれだけ信頼できる方々なのかをです」
聞くところによっては無礼だと感じることもあるが、リディア様なら気にしないだろうと思った。
……後ろで不満そうに頬を膨らませたアルカ様は少し気になったけど、その気配に気づいたリディア様が先にアルカ様を止めてくれた。
「話は構いません。けれどずっとこう立ってばかりいる話ではないようですね。時間大丈夫ですの?」
「むしろ俺が時間を奪った方でした。俺は大丈夫です」
「後ろの方々は?」
俺は後ろを振り返った。今まで一言も言っていない友達。顔だけ見ても分かるほど緊張した状態だった。ああ、だから何も言わなかったんだね。
俺はまたリディア様に目を向け、ニッコリと笑った。それなりに鍛えてきた外見だけの笑顔だ。
「大丈夫だそうです」
「全然そうじゃないように見えますけど……関係ないでしょうね。ついてきてください」
そしてリディア様は返事も待たずに振り向いて歩き出した。他の方々も彼女の後を追った。
後ろから友達が小さな声で話しかけてきた。
「おい、大丈夫かよ? どこに行くと思って……」
「少なくとも陰湿なことをする方々ではないから大丈夫だろう」
「だからそれをどうやって……」
「……少なくとも周りの目がある」
俺たちがやり取りをしたのはアカデミーの真ん中。周りを通りすがりながら俺たちをちらりと見ていた生徒たちがかなり多かった。中には俺と知り合いの奴らも結構いたし。
何よりも……万が一の事態に備えた保険も用意したから。
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