混じり合わない者たち

 私がそのように話し始めると、ジェリアは口元を引き上げてフンと鼻を鳴らした。


「そうだと思ったぞ。やはり君ならじっとしているはずがない」


「褒め言葉なのかどうか分からないわね。……とにかく、選挙日程は分かるよね?」


「正確に一ヶ月後に選挙がある。そして選挙がある一週間前に候補者とその支持者を集めた討論会がある。今度はボクとテニーの奴しかいないから、双方の陣営が対決することになるだろ」


「そう。そして投票自体と討論以外には決まった日程はないわ。伝統的には討論会の前まで公約広報と選挙遊説を行い、討論会で決着をつける……という感じだったわね」


 当然だけど、その流れ自体に逆らうつもりはない。あえて逆らう必要もないし。


「大事なのは結局、討論会の時の前までにどんな印象を残すかということよ」


「ふむ……広報と遊説に尽くすのは当然のことだが、その過程で印象を残すことができるのか? どうせボクのイメージは固着しているはずだが」


「それが問題なのよ。その固着したイメージを変えるのが必要ね」


 バルメリア王国の四大公爵家は事実、もう一つの王家と言っても遜色がない。実際、各公爵領では王族さえもむやみに行動することはできず、王家と公爵家はそれぞれの分野で最高の位置を占めている。当然、この国で各公爵家がどんな家柄なのかを知らない人はほとんどいない。……そんな中、他の公爵領で大騒ぎしたディオスはある意味大物だ。


 問題は、公爵家出身のイメージがそのせいで固着するということ。


 それが個人の特質と合致するなら問題ない。実際、私は父上から受け継いだオステノヴァの特徴と母上から受け継いだアルケンノヴァの特徴をほぼそのまま持っているから。でもジェリアは自分の父親と反目しており、性向も大きく違う。


 しかも相手であるテニー先輩は性向上、フィリスノヴァ公爵家の対蹠点に立った存在。ジェリアのイメージをうまく変えることができれば、テニー先輩の支持層を一部奪ってくることもできる。


 そのような内容を要約して伝えると、ジェリアは腕を組んだまま眉をひそめた。


「素晴らしい戦略ではあるが、それほど難しい道だな。テニーの票を奪おうとして反対にこちらから離脱者が出ることもあるぞ」


「もっともね。だからあまり過激に出るつもりはないわ。貴方のイメージをあまりひどく変えないように、適度に包容できる方向でね」


 もちろん理想的な結果など望まない。どんな方法を使っても新しい支持者が流入し、既存の支持者が離脱することは避けられないだろう。重要なのは、その割合をどれだけうまく調節するかだ。


 そして、それは今回の選挙だけのためじゃない。


「貴方にも遠ざけたい人くらいはいるんでしょ?」


 私の言葉にジェリアは渋い表情で頷いた。


 ジェリアと親しい子たちはみんな良い子だ。けれど選挙という観点から見れば、投票するのは親しい子たちだけじゃない。よく知っている間柄じゃなくてもただイメージで、あるいはどんな政治や打算的な目的で特定候補を支持することもできる。


 当然だけど、フィリスノヴァ公爵家の令嬢であるジェリアなら政治的な目的で支持する人も多い。中には性格的にジェリアとは相性が全く合わない……というか、ジェリアの嫌な奴もいる。特にジェリアの気持ちなど気にせず政治的に接近してくっつく奴らがね。


 そしてジェリアは……。


「どうせ新しいイメージで先入観を消すのなら、ついでにイライラする奴らを振り払うのも悪くないだろ」


 ジェリアの言葉に今度は私が頷いた。


 ジェリアのイメージを刷新し、新たな支持者を確保する。そして、その過程で気に入らない者を振り払う。選挙後……いや、卒業後も続く縁を考えると、嫌な奴らは早く整理する方がいい。


「……ただ正直、ボクはまだいい方法を思いつかなかったぞ。テリア、君はどうだ?」


「いい方法……ね。その前に、今勢力図がどうなっているかは知ってる?」


「大体はな。保守能力主義はだいたい伯爵以上の高位貴族が多い。反面、純粋能力主義は平民と男爵級貴族が主軸じゃないか。伯爵以上の高位貴族は少数だけ。ただ……最近辺境伯たちが純粋能力主義側を支援しているそうだな」


「そうよ」


 バルメリア王国の貴族制度は少し独特だ。伯爵たちは各公爵領を分けて統治し、そのように分かれた伯爵領をまた男爵たちが分けて統治する。前世で言えば知事と市長のような形というか。王室直轄領は伯爵がいないけど、結局男爵が市長のような存在になって治めるのは同じだ。


 ただ……辺境伯はこのような構造から例外だ。


 バルメリア王国が成立して以来、長年にわたる領土拡張で服属した土地。本来の支配層だった者たちが辺境伯爵位を受けてその土地を治めている。そこは王家や公爵家の影響力が及ばない。辺境伯は中央の伯爵とほぼ同じレベルだけど、彼らは一種の同盟を形成して一つの公爵家に匹敵する力を維持している。


 そのため、中央の貴族も逆に彼らを敬遠する風潮がある。そして実際に辺境伯家出身には中央政界に進出するのが難しい。


 辺境伯の先祖はこの国の武力に屈した外地人だったけれど、ほとんどは数百年前の話。今の辺境伯は厳然とバルメリア王国の貴族であり、王国内で勢力を拡大したいと考えている。そして彼らは境遇のために中央高位職に進出しにくい人々でもある。


 そのような境遇に対する共感、そして中央の主流である保守能力主義と対立する政治的状況。そのような共通点が辺境伯たちを純粋能力主義派に飛び込ませた。


 ゲームでもそうだったし、今の現実でも同じように流れている状況。それこそ私が突き刺そうとする隙だ。


―――――


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