ガイムスの意図
私の答えを聞いた瞬間、会議室の空気が微妙になった。
まぁ無理もないだろう。みんな私を有力な候補だと思っただろうから。でも私は出馬すると言ったことはなく、ただみんなが勝手にそう思っただけだ。それでも不出馬の事実を私に事前から聞いたアルカやリディア程度だけが残念がっただけだ。
「それは意外だね。なぜ?」
ガイムス先輩は相変わらずニコニコ笑ってそう尋ねた。
……やっぱり知ってるわね、この人。
「逆に聞いてみたいですわね。貴方たちはなんで私が出馬すると期待したんですの?」
「そりゃ……」
私の質問に明確な答えを出す人はいなかった。
当然そうだろう。そもそも有力候補と言及される人々はただアカデミーで認知度が高いだけだ。私はいろんなことでかなり有名になったから自然とゴシップの種になっただけで、団長になると言ったことはない。
私はため息をつきながらまた口を開いた。
「そんなゴシップなんかいつもあることですの。私がそのような立場だということも理解はしています。だから私は団長になるとか選挙に出馬するという話は一度もしたことがありませんでした。だから今はっきり話しておきますわよ。私は特に選挙に出馬するつもりはありません」
「なるほど。はっきりとした意思表現ありがとう」
ガイムス先輩は相変わらずニコニコ笑って手を差し出した。握手……じゃないようだね。まるで何か提案を言うような態度というか、品物を受け取ろうとしているような気もする。
しかし、彼が望むものは物じゃなかった。
「だからといって選挙を完全に無視するつもりはないだろうね?」
その質問を聞いた瞬間、私はガイムス先輩の意図を完全に理解した。
5年前はただお人好しでありながらも必要な時はしっかりしている面もある程度だと思っていたのに。やっぱり人って本当に分かりにくいものだ。
……というか、考えてみればゲームでも似た面を見たような気もする。ゲームのいろんなことを経験して、そういう性格になったんだって思ったんだけど。
彼の意図は理解したけど、結果的に私が望むこととも一脈通じるものでもあった。だから今は便乗してあげようか。
「もちろんそうじゃありません。私も個人的に支持する人くらいはいるんですの」
「失礼でなければそれが誰なのか聞いてもいいかい?」
「言う必要がありますか……と言いたいんですけど。私はジェリアを支援するつもりですわよ」
ジェリアは私の言葉に少し驚いたような目で私を見た。確かに、ジェリアには言ったことがなかった。
私の予想が正しければ、ガイムス先輩の目的もそろそろ分かる気がする。私への質問だけでなく、そもそも私たちをこの会議室に招集した本当の理由まで全部。
私の答えを聞いたガイムス先輩の笑顔がさらに深まった。
「なるほど。つまりテリアさんはジェリア候補を支持する、と理解すればいいんだよね?」
……やっぱり。
ガイムス先輩の目的は私の予想通りだったと、たった今確信ができた。
あえてゲームの設定まで考えなくても、ガイムス先輩……正確には先輩の家柄であるドロミネ伯爵家は、ジェリアを団長に推戴する理由があるから。
この国、バルメリア王国の政治は大きく三つの派閥に分けられる。身分主義、保守能力主義、純粋能力主義。身分主義はその名の通り貴族の身分と序列を優先する典型的な貴族政。そして個人の能力を重視する能力主義がまた保守能力主義と純粋能力主義に。
保守能力主義は身分と能力をすべて備えなきゃならないという立場だ。すなわち貴族の中で能力のある人を重用すると言っている思想だ。純粋能力主義は身分に関係なく能力が最優先されなきゃならないということだ。そしてフィリスノヴァ公爵家は保守能力主義の代表……というか、そもそも保守能力主義自体がフィリスノヴァ公爵家から始まったものだった。
でも……。
「なるほど。意見ありがとう。それでは今有力な候補はジェリアとテニー、この二人かい?」
「……他の候補がいるかもしれませんので、あまり不注意な言葉は控えてください」
テニー先輩がため息をついて割り込んだ。けれど、ガイムス先輩は相変わらず笑いながら肩をすくめた。
「今まで出馬した候補は君たち二人だけだよ。しかも他の団員のほとんどは直接出馬するというより、君たち二人……いや、テリアさんまで含めて三人の誰か一人を支持する意見しかなかったんだ」
「それでもまだ立候補期間は終わっていません」
「締め切りまであと三時間だけど? 原論的なのはいいけど、君も現実的にどんな状況なのかは知ってるよね?」
ということは本来三強構図になる見通しだったということね。そして私がジェリアを支持して不出馬の意思を明らかにしたのだから、もうジェリアとテニー先輩の正面対決ということになったし。
……構図が妙になった。そしてもっとガイムス先輩が望むことが何なのかもわかる気がするし。ガイムス先輩が私たちを今日この時間に呼び集めたのも、この構図をみんなに確認させたかったからだろう。
純粋能力主義はその思想の特徴のため、貴族よりは平民官僚層が主軸だ。そしてゲームでテニー先輩は純粋能力主義の次世代代表と言われるほどの秀才であり、明確にその思想を支持し主張していた人。逆にジェリアは保守能力主義の筆頭であるフィリスノヴァ公爵家の最も有力な次期後継者。
すなわち、ジェリアは
……そしてガイムス先輩が望むのは、ジェリアを団長とすることでフィリスノヴァ公爵家にもたらされる変化。
ガイムス先輩は手をたたいてからまた口を開いた。
「いいよ。もっと言いたいことがある人がいたらするようにして、いなければ各自誰の選挙運動を手伝ってくれるか悩んでみるようにして。そして……」
ガイムス先輩の目が私を見つめた。
「テリアさん。ちょっと僕ともっと話してもいいかい?」
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