模擬戦の終わり
来る。
アルカの魔力が蠢動するのを見ながら、私はゲームのシーンを思い出した。
アルカの……『万魔掌握』の覚醒。一度意識を失って入った心象空間で自分の力に向き合ったアルカは、力の本質と使い方を理解するようになる。
『万魔掌握』の力は魔力を集めて自分のものにすること。そしてその真髄は他人の魔力を吸収して習得することだ。習得に求められる魔力量がかなり大きいので、傍に長く滞在したり何度も戦ってみる程度にはならないと能力が得られないのが短所。しかし、一度習得した能力は絶対に失われない。
それはまさに〝主人公〟に相応しい力。
「行きますよっ!」
アルカが踏み出した足から永久凍土の冷気が吹き出した。
――『万魔掌握』魔力複製『冬天』
――『冬天』専用技〈剣の冬森〉
巨大な氷の刃が数十個現れて私を狙った。私はそのすべてを剣で破壊した。砕ける氷の破片をかき分けて近づいてきたアルカが剣でまっすぐ突き出した。その剣を受け流した瞬間、接触した刃から魔力が浸透してきた。『冬天』の専用技、〈氷縛砕〉だ。
私は侵入した魔力を自分の魔力で圧倒し消した。そしてアルカの体を狙って数十回の斬撃を浴びせた。さっきまでのアルカならまともに対応できなかった攻撃。
けれど、今のアルカはすでにさっきとは違う。
――『万魔掌握』魔力複製『加速』
ジェフィスの特性を模写したアルカは、私の攻撃をすべて打ち返した。それだけでなく反撃までしようとした。アルカが振り回した剣が私の肩を狙った。
「生半可だわ」
速いだけの軽い攻撃。私はそれを受け流し、すぐにアルカのお腹を刺した。アルカは息を吐きながら退いた。続いて私が放った〈三日月描き〉の巨大な斬撃がアルカを吹き飛ばした。
私は飛ばされたアルカよりも速い速度で走り、アルカが地面に墜落する前に背後を取った。そして剣を振り回した。アルカは空中で振り向いて私の方に手を伸ばした。
――『万魔掌握』魔力複製『結火』
『冬天』の氷壁が出現した。そしてその中には赤い光を放つ宝石、リディアの〈爆炎石〉が刺さっていた。私の剣が氷壁を突き破った瞬間、中に刺さっていた〈爆炎石〉が一斉に爆発した。
「ふん!!」
私は『万壊電』の雷電を大量に放出した。それで爆炎とアルカを同時に圧倒した。けどアルカは剣を中心に黒い魔力の円を展開した。そこに触れた雷電はまるで消しゴムで消したかのように消滅した。
「〈黒点描き〉まで身につけたなんて、結構頑張ったわね」
そろそろもう少しきちんとしてもよさそうだね。
私は今までの
「!?」
まるで私自身が『万壊電』の雷光に化したような速さ。『加速』を使っているアルカも追いかけられないほどだった。でも彼女はなんとか私の斬撃を防御するために努力した。けれど、私はそんなアルカの隙を執拗に突いていた。
するとアルカは歯を食いしばった。
――『万壊電』専用技〈雷神化〉
アルカは本当に雷光になった。速度では私と対等なほどだった。でもあまりにも急激な加速のせいか、アルカ自身もその速度をコントロールできずにいた。剣を振り回す動作も、私の動きを観察する目も不安定になった。
「まだまだなのよ」
私は最低限の動きですべての剣撃を受け流した。そんな中、アルカの剣を力で殴り飛ばした。アルカの腕が大きく外れて隙を露呈した。
――天空流〈流星撃ち〉
強烈な突きがアルカを吹き飛ばした。
「本当にいい状態ねアルカ。力を覚醒してすぐに私の身体能力をここまで追いかけてくるなんて、それなかなかすごいことなのよ?」
「……全然届かないんですけどね」
「もちろん。技術も技量もまだ下手だから」
「それはそうです。私は『加速』に〈雷神化〉まで使ってこそやっと追いかけるのに、お姉様はまだそんなものを使ってもいないし」
まぁ、まだハンディキャップマッチではあるよね。
でもアルカはそう言っている割には不満がないようだった。その眼差しから感じられるのはあくまで純粋な闘志だけ。
その目が何を見つめているのか私が気づくと同時に、アルカは手を私の方に伸ばした。
「はああああ!」
――『万魔掌握』専用技〈万魔支配〉
第一練習場内部の魔力全体が蠢動した。
たった一つの意志に応え、一つの流れで動く魔力。私が噴き出した魔力も、アルカが噴き出した魔力も、そして自然の魔力まで全部同時に動いた。
〈万魔支配〉。周辺一帯の魔力全体を思い通りに操る技。爆弾で言えば戦術核程度にはなりそうな量の魔力が一度に動く姿はかなり壮観だった。
でもその中に
――天空流奥義〈三十日月〉
私が剣を振り上げた瞬間、魔力の動きが一変した。
「えっ!? ど、どうして………!?」
すべての魔力がアルカの支配から抜け出し、私の剣に集まった。第一練習場結界中の魔力が全然なくなるまで一秒もかからなかった。
散らばった自分の魔力を媒介に一帯の魔力を強奪する奥義、〈三十日月〉。大量の魔力が必要だという短所があるものの、条件さえ成立すれば〈万魔支配〉とも力比べが可能な数少ない技だ。
「残念だね、アルカ」
私はアルカの方に一歩踏み出した。そして見た。絶望していたアルカの顔が一変し、微笑むのを。
その直後、パンと。私の肩でごく小さな爆発が起こった。
「へ?」
私は思わず肩を見下ろした。
前世のおもちゃの銃よりも小さな爆発。煤一つ残せないほど弱くてつまらない爆発に過ぎなかった。
けれど。
「確かに
そう断言するアルカの顔は、今までで最も茶目っ気たっぷりだった。
……あんな小悪魔みたいなアルカは初めて見た。
しばらく現実逃避をしたけど、とにかく結果は結果。何であれ、私に届くとアルカの勝利だと言ったから。
つまり、アルカの勝ちだった。
―――――
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