真似
帰ってくるのはあっという間だった。
ただ目を閉じて開けただけだったがけれど、その邪毒神と暗い空間は跡形もなく消えた。その代わりに見えたのは平凡な空。その時になってようやく、私は自分が第一練習場の地に倒れていたことに気づいた。
そしてまだ模擬戦は終わっていないということも。
「――!」
すぐに体を起こした。
でも私の考えとは異なり、お姉様は私を攻撃してこなかった。ただ数歩離れた所で私を見守っているだけ。目が合うと私に笑ってくれた。
「目覚めたわね」
「……待ってくれたんですか?」
「ええ。気絶している貴方を攻撃しても意味がないからね。別に命を奪う戦いでもないじゃない?」
ゆったりとした言葉。しかしお姉様の魔力は張り切っていた。今にも戦いを再開しようとするように。
いや、ようとするっていう軽い感じじゃなかった。
「行くわよ。緊張しなさい」
その言葉と共に、お姉様はすぐに近づいて剣を振り回した。私は反射的に魔力を集めて剣を作った。けれど、その剣は今まで通りあまりにも簡単に破壊された。
その瞬間、私はお姉様の剣……正確にはその剣を成す魔力の感触を感じた。
〝自覚できれば、どう扱うべきかは自然に思い浮かぶよ〟
突然浮かんだのは『隠された島の主人』の言葉。その言葉のせいか。どうりで何をすればいいのか分かるような気がした。
その気持ちが導くままに魔力を動かした。
「……へぇ」
お姉様は目を細め、もう一度剣を振り回した。私は今回も剣を破壊されることを覚悟して防御姿勢を取った。けれど、新しく作り出した剣がお姉様の剣とぶつかった時、私は驚きで目を丸くした。
私の剣は紫色を帯びていた。
色だけじゃなかった。表面に流れる雷電の力も、ピリピリした感じも、全部お姉様の剣と似ていた。それにお姉様の剣をちゃんと受け止めていた。
「これ、は……」
「……到達したわね。ようやく」
お姉様の言葉を理解したかった。けれどそれよりも先に、お姉様の剣撃が私を襲った。これまで以上に強い攻撃だった。今度は剣が壊れてしまった。しかも激突の瞬間、爆発した魔力が私を吹き飛ばした。
「くっ……!」
でも私は飛ばされながらも歯を食いしばって力を集中した。さっきは半分無意識のうちにやったことだったけれど、今度は意識的に同じものが欲しかった。
そして……とても簡単に成功した。
――『万魔掌握』魔力複製『紫光技・万壊電』
お姉様のものと同質の魔力を抱いた魔力剣が私の手に握られた。
力の使い方が自然に浮かんだ。この剣だけでなく、今私がどんなものを使えるかがまるでリストのように頭の中で整理された。
「はあっ!」
――天空流〈三日月描き〉
お姉様と私が同時に巨大な斬撃を放った。二つの斬撃がぶつかり合った。その結果、勝利したのは当然お姉様のもの。けれど、耐える時間が以前より微妙に長くなった。
お姉様はその姿を満足そうに眺めた。
「そろそろペースを上げるわ」
お姉様が目の前に現れた。
また剣が振り回された。初めのように目に見えないほどの速度だった。魔力剣は強くなったけれど、私自身は相変わらず対応すらできなかった。私は斬撃を受けて地面を転がった。
でも今は対抗する手段がある。
――紫光技〈選別者〉
紫色の眼光が私の右目に宿り、体から力が湧いた。
体が何倍も軽くなったような感じだった。筋繊維一つ一つに力が充満し、まるで何でもできるような全能感が頭を埋め尽くした。そしてすべての感覚が鋭くなった。
これが、お姉様の属する世界。
しかし油断はしなかった。私はあくまでもその領域に足一本をかけただけ。これ一つでお姉様と対等になるとは期待はしない。
その証拠として、お姉様は相変わらず私より早かった。
「っ!?」
「反応がいいわね。よくできているわよ」
お姉様の剣が、見える。そして対応できた。数十回も浴びせられた剣撃のうち、半分ぐらいは防御に成功し、剣も壊れなかった。
でもそれだけ。相変わらずお姉様は私よりずっと強かった。
「はああああ!」
――天空流〈月光蔓延〉
体を急激に加速させ、空間を埋め尽くす斬撃の乱舞を放った。でもお姉様は同じ技を使うこともなく、最低限の動作ですべての斬撃を受け流した。気づいてみるとお姉様の剣が私の首を斬っていた。
「くっ……!」
このままじゃいけない。
お姉様の技と魔力を真似したおかげで、お姉様の攻撃にある程度は対応できた。でも私のものはあくまでもの真似。魔力の密度と質も、技の精度と鋭さもお姉様がはるかに優位だよ。
お姉様が積み上げてきた研鑽そのものについていけない限り、お姉様の技だけでお姉様を相手にするのは不可能だ。
「うぐっ、はあっ!」
力だけで剣を押し付けた。お姉様は剣でそれを防いだ。剣同士が摩擦し、力比べが始まった。
……いや、比べじゃない。私は必死に力を入れているけれど、お姉様はそよ風に吹かれるような平静さで受け止めているだけだった。
「アルカ」
まるでその状態がチャンスだと言うのように、お姉様が声をかけてきた。
「力を出せるようになったのはおめでとう。でも貴方も知ってるわね? 私の力を真似するだけでは勝てないということ」
「……はい」
「だから私の技だけに埋没しすぎないで。貴方にできるのはそれだけじゃないじゃない? 貴方にできる限りのことを動員してみて。私に貴方にできることが何なのか全部見せて!」
お姉様はどこまで知っているのかな?
その瞬間、畏敬の念が頭をもたげた。けれど私はすぐにその気持ちを抑えた。今はそんなことを考える時じゃないよ。
お姉様が望んでる。それなら私はその期待を満たしてあげないと!!
沸き立つ心が導くままに、私は自分にできることすべてを解放した。
―――――
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