修飾語

「他には? 何か他にはないですの?」


「えっと……そんなに詳しい話が必要なんですか?」


 しまった。尋問しすぎたかしら。


 私を大きく疑っている様子ではなかったけど、警戒しちゃったら話を中断しちゃうかもしれない。それだけはダメだ。


「どんな存在なのかはっきり分かってこそ、どう接するかも決められますからね」


「どう接するか……ですか。邪毒神は基本的に認識が良くないと思いますが」


「それを知っているセリカ先輩も『隠された島の主人』は友好的に考えているでしょう? 正直、私も興味はあるんですの。ただ邪毒神という理由だけで全部悪いと断定することはできませんからね」


 半分くらいは本気だ。


 私はほとんどの邪毒神は悪い奴らだと思っている。何よりも、ゲームでは善良な邪毒神が登場したことがなかったしね。


 けれども……ゲームではなくこの世界の歴史を考えると、話が変わる。私の中にいるイシリンが邪毒神の一人だったから。たとえあまりにも強大な自分を抑えられず害を与えちゃったけれど、イシリン自身は善良な存在だった。


 そして『隠された島の主人』はゲームでは名前が登場しただけで、世界に介入したことがなかった。だから悪い奴だと断定するのはまだ早い。


 ……九十九パーセントの確率で悪い奴だとは思っているけれども。


 一方、セリカ先輩は何か思い込んでいる様子だった。何かお話しできることがあるか思い出してみるのかしら。でも考えを終えて出た言葉はそれほど希望的ではなかった。


「すみません。特に話すことはないようです」


「大丈夫ですわ。ないことを無理に話せというわけにはいきませんから」


 私は失望した様子をできるだけ見せず、笑顔で答えた。幸いセリカ先輩も微笑んでくれた。


 セリカ先輩との出会いが終わった後、私はすぐに次の場所に向かった。


「今度はどこに行かれるんですか?」


「アイドウェル教授の所に行くわ。あの御方ならもっと詳しいことを知っているかもしれないから」


 ロベルはすぐに納得したかのように頷いた。


 キャサリン・アイドウェル。邪毒研究学を専攻した教授だ。私が一年生の時、図書館で邪毒神について探してみることになったのも、あの人の邪毒神関連授業を聞いて疑問が生じたためだった。


 アイドウェル教授は突然の連絡にもかかわらず喜んで訪問を許可してくれた。


「こんにちは、テリア生徒。お久しぶりですね」


「その間ご無沙汰しておりましたでしょうか、アイドウェル教授」


「フフッ、いつものようにご丁寧ですね。それで、今日は邪毒神について聞きたいことがあるんですか?」


「はい」


 アイドウェル教授は長い黒髪を一つにまとめて肩にかけた妙齢の女性だ。服装も雰囲気も知的な雰囲気が漂う美人でもある。


 私は教授の勧め通り椅子に座るやいなや用件を取り出した。


「『隠された島の主人』についてお聞きしたいことがありますの」


「『隠された島の主人』……ああ、確かに最近の騎士が注目に値する名前ですね」


「知ってますの?」


 少し意外だ。まだ騎士団で情報統制をしているはずなのに。もちろん生徒の中にも布教師がいるから、ある程度は知られていてもおかしくないだろう。騎士団でも積極的に言及を禁止しているわけではないから。


 しかし、教授は私の表情を見て首を横に振った。


「私は邪毒神を研究するのが本業なので、そちらの消息にはそれなりに敏感ですよ。まだ一般の人はよく知らないと思います。『隠された島の主人』の修飾語が変わったのも、その邪毒神を崇拝する集団ができたのも」


 ちょっと待って。何だって?


「修飾語が変わったんですって?」


「はい、もしかして知りませんでしたか? 『隠された島の主人』は修飾語が変わったことがあります。邪毒神の修飾語が変わったのは初めてなので、かなり印象的でした。ちなみに変わる前は〝すべての歩みを見守る者〟と呼ばれていました」


「……それは」


 私はとても驚いて言葉が詰まってしまった。


 邪毒神の修飾語というのは、人々が勝手につけるものではない。邪毒神がこの世に認識される瞬間、その存在に自動的に付く証明書のようなものだ。邪毒神が存在する限り修飾語は変わることができず、修飾語が違うということはすなわち存在自体が違うということだ――というのがゲームに出てきた説明だった。


 ところが『隠された島の主人』が変わったということは、その身の回りに何か大きな変化が起きたという意味だろう。


「修飾語が変わったのはいつだったか知っていますの?」


「多分十五年前だったと思います。おまけに言いますと、その邪毒神が啓示夢を下しながら活発に活動し始めたのもその時からです」


 ということは十五年前から少しずつ勢力を作り始め、騎士団がそれを捉え始めたのが三年ほど前だということだ。


 しかし邪毒神の修飾語が変わるほどのことだなんて、それが何なのか全然わからない。


「修飾語が変わった理由やその他に『隠された島の主人』についての情報などはありますの?」


「残念ながらあまりありません。修飾語が変わったのは最初で唯一の事例であり、邪毒神についてこちらで主導的に調べる方法はあまりありませんから。あの邪毒神の能力についても同じです。ただ……」


「ただ?」


「あの邪毒神の能力に対する学界の推測はあります。その中で最も主な推測は時間と関連があるということです。〝すべての歩みを見守る者〟という修飾語の意味は、この世のこれまでの時間をすべて観測したという意味だ……という推論です。そこからさらに平行世界を司るという理論もあります」


 平行世界、か。修飾語に相応しい要素ではある。そして……ゲームの様々なルートを思い出させる単語でもあった。


 もしかしたら、その邪毒神の正体は。


 ……いや、これは根拠が貧弱すぎる憶測だ。矛盾する点もあるし。


 それでもかなり有益な情報だった。特に啓示夢を積極的に撒いているという点はなおさらだ。けれども、それ以上得られる情報はなかったので、アイドウェル教授との面談はこれで終えることにした。


 そして、それが今回の現場実習の最大の収穫だった。


―――――


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