新しい集団

「アカデミー騎士科五年生、テリア・マイティ・オステノヴァ。永遠騎士団第3百人隊傘下、第5十人隊で実習配属を命じられたことを申告します」


「同学年、ロベル・ディスガイア。同じ部隊で実習配属を命じられたことを申告します」


「確認した。永遠騎士団第3-5十人隊を主管する十夫長、アルギス・メネンシアの名で歓迎する。今回の実習期間もよろしく頼む」


 改まった挨拶が終わるやいなや、私の前に立っていた騎士がニヤリと笑った。


 アルギス・メネンシア。バルメリア王国の六騎士団の一つ、首都圏地域を担当する永遠騎士団の第3百人隊傘下の第5十人隊……略して3-5十人隊の隊長だ。茶色の髪を大まかに乱れたヘアスタイルがそれなりの特徴。そしてそのヘアスタイルのように、堅苦しい格式を嫌がる人でもある。


 まぁ、そもそも我が家の雰囲気を考えると、彼がこんな人であるのも仕方ないかもしれない。メネンシア家はオステノヴァ公爵領に属する男爵家だから。まぁ、その公爵領の令嬢にこれほど気兼ねなくふるまう人は珍しいけれど。


「お久しぶりです、メネンシア十夫長。相変わらずですわね」


「そういうお前は体はすごく伸びたくせに、その固い態度は相変わらずだな」


「見習いの身分で格式を無視するわけにはいきませんからね」


 実は私、去年も現場実習の時にこの部隊に配属されていた。だからアルギスさんと会うのはほぼ一年ぶりだ。それなりに私的な席では職位名を除いてたださん付けをするほどの間柄ではあるけど、仕事もなく会うほどの間柄ではない。


「社会生活が上手な性格だな。それより今回も十人隊に配属されるとは。上のバカたちは相変わらず考えが足りないんだぜ。俺より強い見習いを指導する俺の立場をよく考えてくれと」


「やる気がなさすぎじゃないですの?」


 呆れてそう聞いた。もちろん真剣な答えは期待しなかった。


 アルギスさんは肩をすくめて答えた。


「お前、去年ももううちの百夫長より強かったじゃないか。今はあの時よりも強そうだけど」


「それは競ってみないとわかりません」


「謙遜も過ぎると病気だぜ病気。まだ卒業もしていないのにもう現役百夫長以上の実力だなんて、自慢してもいいくらいだぜ? ……まぁ、とにかくもう配属されたのは仕方ないから、今年もゆっくりやってみよう」


 言葉はこう言っても、いざ仕事は真面目な人だ。去年の実習も結構満足したし。


 案の定、アルギスさんは雑談が終わるやいなや真剣な表情を浮かべた。


「それにしても、今年は去年よりもっと忙しいかもしれない」


「問題が起きましたの?」


「まだだ。しかし、状況が穏やかではないぜ。どうやら先日起きた安息領事件に刺激を受けたようだ」


「まさか安息領が報復を準備しているんですの?」


「いや、そうじゃなくて……ああ、そういえばお前はまだ分からないんだ」


 アルギスさんはロベルを見た。するとロベルは眉をひそめ、首を横に振った。


「お前の情報通も知らないのを見ると、まだ情報統制がよく守られているようだね」


「それを堂々と話してもいいですの?」


「どうせオステノヴァ公爵家がその気になれば分からない情報はないだろう? それにお前は騎士団上層部でもかなりの有望株として注目されているぜ。秘密厳守に対する信頼もあるし。そんなお前にこの程度の話ぐらいはしても懲戒は……まぁ、弱いよ。多分」


「あはは……」


 こういう部分を適当に見過ごすなと言いたいけど、とにかく情報をくれるってことに断る必要はないだろうね。


 それでも大声で話すには負担になるようで、アルギスさんが近づいてきた。声も精一杯低くした。


「実はさ、邪毒神を崇拝する集団がまた現れたぜ」


「また……というのは、安息領じゃなく別の集団ということですの? 安息領の分派じゃなく?」


「そうそう」


 私は思わず眉をひそめた。


 ゲームでは安息領以外にそのような集団が現れたことがなかった。理由はいろいろあるけれど……何より最も大きな理由は、安息領がすべての邪毒神を包括するという点だった。


 安息領は崇拝の対象が邪毒神でさえあれば、詳しいことは問わない。その一方で、自分たち以外に邪毒神に仕える集団を認めない。そのため、他の集団はできてもなく、せいぜいできても結局は安息領に吸収されるだけだった。


 ところが今こう話すということは、安息領にすぐ吸収される小規模ではないということだろう。


「新しいテロリストですの?」


「それがまだ曖昧だぜ。あいつらは存在は確認されたが、これといった対外活動はしないんだ。だから騎士団でも生半可に存在を公表するよりは、まだ秘密裏に調査する段階だぜ」


「ああ。つまり父上……オステノヴァ公爵の力を借りたいということですわね? だから今私に話しているんですし」


「やっぱり気が利くね。その通りだぜ」


 いくらなんでも、まさか存在するかどうか以外に何の情報もないというわけではないだろう。そこでアルギスさんの顔を見ると、彼は私の疑問を察したかのように説明を始めた。


「奴らは安息領と違ってただ一人の邪毒神に仕えるそうだ。そして奴らの教理も独特だぜ。〝邪毒神と安息霊は人類の敵だ〟、〝人類に害悪を及ぼす行為はすべて許すな〟とか。


「矛盾ですわね。邪毒神に仕えながら邪毒神が人類の敵だなんて。それに害悪の定義は見るまでもなく自分たちの勝手でしょう?」


「多分。まだそこまではわかってないけどさ」


「彼らが仕える邪毒神が誰なのかはわかりましたの?」


 それだけ分かればある程度は見当がつく。もちろんゲームで邪毒神のことを詳しくは触れなかったけど、ある程度の情報はあるからね。


 ……まさかそれもまだわからないのかと少し心配したけれど、アルギスさんの表情を見るとそうでないようで安心した。返事もすぐしてもらった。


「『隠された島の主人』だぜ。数年前から少しずつ信者を確保し始めたそうだ」


―――――


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