意外な姿

 ケイン王子の舞踏会当日、私たちは舞踏会に出席するために身支度をした。


「わぁ、すごくきれいですお姉様!」


「すごい。傾国美女ってこんなことなのかしら?」


 アルカとリディアの大騒ぎに私は苦笑いしてしまった。


 ゲームでは私が美人だと描写されたけれど、正直主人公のアルカの可愛らしさに比べれば何でもないのに。しかも中ボスのカリスマが強すぎて。


 褒めてくれるのはありがたいけど、あえて誇張してまでお世辞を言ってくれるのはちょっとアレだ。自分自身が一般的な基準で美人だということくらいは自覚しているけど、絶対的な比較基準が目の前にあるのに過大評価されてしまうと微妙な気分になるのよ。


「二人とも大げさじゃない。もうやめてね」


「大げさじゃないです!」


「そうです、お嬢様。多分今日の舞踏会に来るレディーの中でお嬢様よりきれいな人はいないと思いますよ?」


「むしろお嬢様こそ自分に対する過小評価がひどすぎます」


 トリアとロベルまでそんなことを言った。もう、そこまで褒められるとかえって負担になるわよ。


 私の体を見下ろした。年齢の割に高いものを超えて、すでに成人女性の平均身長さえ超えた身長。そして早くも膨らむところがかなり膨らんだグラマラスな体つき。露出が過度ではないけれど微妙に色気が強調される、青い刺繍入りの白いセクシー系のドレス。私の目には見えないけれどメイクもかなり大人っぽい感じになっている。


 何ていうか、よく似合うけど、ちょっと恥ずかしい。いやこれ、肩はともかく胸が強調されすぎだと思うけど。ロベルも口では褒めているけれど私をまともに見つめられずにいる。顔も真っ赤になってるし。


 一方、アルカは金色基調に露出が少なく、レースで作った花のようなものがついた可愛いドレスだ。しかもリディアは色は私と同じでも可愛いフリルが適当についていてとても良い。これ、私だけ比較されすぎじゃない。


「貴方たちの方がずっと可愛いわよ。きっとたくさん愛されるわよ」


「えへへ、ありがとうございます。でも人は必要ありません。そもそもその王子殿下の舞踏会じゃないですか」


「きっと悪い人が多いはずよ」


 いや、些細なデマを流したからってイメージが落ちすぎじゃない? この子たちがずっとこういう状態だとケイン王子を抱き込むのが難しくなるんだけど。


 むしろケイン王子の信任を得るより、この子たちがケイン王子に抱いた悪感情を解くのがもっと難しいのではないかしら……?


「そんなこと言わないで。そして主催者が誰であれ、舞踏会に参加する人はみんな色とりどりだから、あまり画一化しないでね」


「類は友を呼ぶよ。いくらでもかかってこい。全部リディアが相手にしてあげるから」


「その王子殿下と親しい人も多いですよね? 私は信じられません」


 社交界自体が初めてのリディアはともかく、経験がないわけでもないアルカまで無理を言うね。将来が心配だ。


 とにかく準備を終えた私たちは舞踏会場に向かった。会場……というか、実は王城の宴会場で開かれるので王城に行く。


 考えてみたら王城に入ってみるのは私やアルカも初めてだ。リディアは言うまでもなく。そのためか、二人はケイン王子に対する敵対感とは別に、少し浮かれていた。こう言う私も率直に言って心が落ち着くわけではない。


 王城か。そういえばゲームでは王城で行われる戦闘もあったよね。その時、王城マップの構造が確かに……。


 私がそのように思考を脱線させている間、二人はまるで都会に初めて上京した田舎の少女のように目を輝かせながら王城の中を見回していた。本ッ当に可愛い子たちなのよ。


 そんな感じで宴会場に到着した私たちは、すぐに中に案内してもらった。


「わぁ、有名な人がたくさんいます!」


「あうぅ……ひ、人が多すぎぃ……」


 貴方たち、さっきとは話が違うじゃない。


 王城はとにかく、舞踏会に対して不信感を顕わにしたアルカは、いつそうしたのかというように目を輝かせていた。反面、立ち向かうならかかってこいと鼻息を吹いたリディアは、人数を見て久しぶりに以前のように気後れした。


 この子たち、私がいなくても社交界で生き残れるのかしら? ちょっと不安なんだけど。


 一方、ロベルとトリアは使用人が待機する別室に行った。もちろん仕方なく時間だけ過ごすのではなく、他の貴族の使用人たちといろいろな会話をしたり、情報を掘り出しているのだろう。


「二人ともしっかりしてね。ここに来た目的や目標はともかく、公女として社交界で他の有力者に見下されたら困るわよ」


 そう言ったけれど、この子たちがうまくできるかしら?


 私たちに話しかけてくる人はまだいない。でも密かに見守る視線があちこちで感じられた。


 私たちが誰なのか……というより、私たちがどの家柄の出身なのかも分からないバカはこのような席にはいない。早くから探索が始まったと見てもいいだろう。アルカとリディアはまだ気づいていないようだけど、そろそろ先に話しかけてくる人も出てくるかもしれない。


 正直、アルカは今は少し田舎の少女のように振る舞っているけど、小規模ながら社交界の経験くらいはある。でもリディアは本当にこのような席が初めてだ。すぐに知らない人と話して何かミスが出るかもしれないから、ここでは一応知り合いと先に合流する方が楽だよね。


 周りを見回すと、幸い私が目的としていた人はすぐに発見された。二人を率いてそちらに近づくと、相手も私たちに気づいて挨拶した。


「来たな、テリア。今日はすごくきれいだぞ」


「こんにちは、テリア」


 フィリスノヴァの姉弟も二人とも端正で、令嬢令息らしく着飾った。特にジェリアには本当に驚いた。


 普段はドレスのようなものに一切関心を示さなかったし、ゲームでも着飾る姿をまともに見せたことがなくて、実は私は彼女が騎士科の制服をそのまま着てくるのではないかと思っていた。実際に職位がある人たちは関連した制服を着てきたりするから。それに私自身も社交界経験が少ないけど、ジェリアはそれ以上に顔自体をあまり出さないので、今までこんな場で見たことがなかった。


 ところが、ジェリアが着てきたのは非常に強烈な真紅色のドレスだった。私よりずっとおっぱいが強調され背中も破格的に開いた上に、すらりとした脚は深いスリットの外にガーターベルトとストッキングに包まれたままセクシーさを誇った。様々な意味で強烈で刺激的だ。首の上まで髪を結い上げてマイクまでして、ただ別人のようだ。


 そうでなくてもすでにこの国の成人年齢である十八になった彼女は、今の私より高い身長といろいろな意味で凄まじい体つきを持っている。それが服装と合わさってどうだという勢いで官能美を誇っている。同じ女の私まで顔が熱くなるほどだ。アルカとリディアも目を丸くした。


 いざ本人は私たちの反応を見て苦々しく笑った。


「何だ、そんなに意外なのか? それとも似合わないのか?」


「い、いや、すごく似合ってるわよ。似合ってるのに……その、本当に予想できなかったというか……」


「仕方ないな。日頃はこんな姿なんか見せないからな」


「これはギャップほどではなく、完全に変身じゃない」


「ハハハッ! よく言ったな!」


 あ、ジェリアだ。


 奇妙なことに、肩をパンパンと叩きながら笑い出すのを見ると安心できる。


 傍にいたジェフィスは微笑んでいたけれど、姉のそんな姿を見て口元が少し固まった。


「姉君、それくらいにしておいてください」


「まったく頭が固い奴だな」


「今はジェフィスの言うことを聞いた方がいいと思うわよ。ジェフィスもこんにちは。素敵ですわね」


 ジェフィスも公爵家の令息らしく、端正で素敵な紳士のようだった。でもジェリアから衝撃を受けた直後だったためか、特に感興がなかった。本人も知っているのか笑みにほろ苦い様子が混じった。


「姉君が決心して飾れば、僕なんかはどうでも構わないほど注目を集めてしまいますよ」


「正直同感ですわよ。日頃からこう着飾っていればすごくモテると思いますが」


「そんなことは期待もしていません。このゴリラがそんな面倒くささに耐えるはずが、グハァッ」


 ジェリアの手が一瞬にして動き、ジェフィスの腹を殴った。感嘆するほどきれいな一撃だった。


 とにかく私たちはそんな感じで合流した。合流する前からかなり視線が感じられたけれど、合流した後は露骨に男たちの視線が集中した。私の持ち分はないと信じたいけれど、これまでの社交界の経験から、男性が私もかなりよく見てくれるという自覚ぐらいはある。その上、私よりはるかに強烈で美しいジェリアや可愛くて可愛らしいアルカ、リディアまでいるから仕方ない。


 でもほとんどは遠くから見守るだけで、近づく人はいなかった。たまに近寄ろうとするような人もいたけれど、知り合いと見られる人が耳打ちをするとびっくりして止まった。なんで?


 私の視線がどこに行っているのか見たジェフィスが苦笑いしながら説明した。


「以前、姉君にナンパをしようとして厳しくやられた男がかなりいたんですよ。噂では〝ジェリア被害者の会〟とかもあるとか何とか……」


「余計なこと言うな」


「プッ……いや、貴方も苦労だね。男探し難しそうよ」


「そんなの興味もないから良いぞ。こんな恥ずかしいざまも周りが無理やりさせたことだ」


 そう言ってため息をついてはいるけれど、いざジェリアはそれほど不快ではないようだった。まぁジェリアも一応女の子だからね。こう言う私もこんなに飾って少しでももっときれいに見えること自体は好きな方だ。


 そんなことを考えながら談笑していると、内側から出てきた布告官が魔力で増幅した声で宣言した。


「ケイン・ダイナスト・バルメリア第二王子殿下がご入場になります」


―――――


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