過去の真実

「ネスティ」


「は、はいっ」


 リディアが生まれて初めて見せる姿に、ネスティは思わず背筋を伸ばして答えた。しかしリディアはそのようなネスティを振り返らず、短く尋ねた。


「さっき言ったこと、確かなの?」


「はい、少なくとも私から見るとですね。似たような形をしているのと勘違いしたかもしれませんが」


「リシオさん」


 うつぶせになった使用人の一人がビクッと震えた。彼が顔を上げると、リディアは再び身の毛がよだつほど静かな顔で尋ねた。


「今言ったこと、責任取れますの?」


「は、はいっ。もちろんです。今まで申し上げられなくて……」


「それは後で聞きます」


 次のターゲットは……私か。


 あんなに無感情なリディアは初めて見る。その目から揺れる魔力は尋常ではなかった。心の中で渦巻く感情はきっともっと激しいだろう。


「テリアさん。さっきプレゼントと言いましたよね。この人たちを集めたのはテリアさんですの?」


「その通りです」


「そしてテリアさんはその魔道具の使い方を知っていましたよね?」


「直接お見せした通り」


「説明お願いします。どういうことか……テリアさんが言っていた〝プレゼント〟が、どんなものなのか」


 恐らくリディアの頭はまだ整理されていないのだろう。ここで私が疑惑を否定することを言うなら、そのままあの感情を捨てるかもしれない。


 もちろん、私がディオスを擁護する理由は全くない。むしろ正反対にリディアを刺激して爆発させた方が決闘にはもっと有利だ。その上、私が今から明らかにすることは捏造ではなく事実であり、ディオスは天罰が下るに値する奴だ。


 ただし……ゲームでリディアの〝変わった〟状態を考えると、ここで彼女を刺激してもいいのか少し迷った。


【ゲームでは今よりずっと抑えられて積もったものが多くて爆発したんじゃない? 今はそれほどじゃないでしょ。むしろこの辺で爆発させた方が長期的にはもっといいと思うわよ】


[私もそう思うけど……少し不安でね]


【大丈夫。どうせそれを被る奴はディオスでしょ。自業自得じゃない】


[そうかしら]


 確かに、そもそもここまで仕事をしておいて突拍子もなくためらうのもつまらないことだ。ジェリアなら今更何をしているのかと文句を言っただろうね。


 私は心を整理して口を開いた。


「この魔道具は自己強化の魔道具です。邪毒は有害なエネルギーですけど、ごく少量なら強化用に使うこともできますわ。ただし、魔力を許容量以上に注入すると過度な邪毒を身体に浸透させるのを防ぐために超過分を外に放出します。まぁ、放出のせいでもっと大きな事故が起こるかもしれないということを考えると失敗作ですわね」


 ネスティがその事故の生き証人だ。


 私の説明を聞いたリディアはしばらく考え、質問をした。


「その放出方向は決められますの?」


「はい。中央の宝石が向かう方向ですわ」


「では……兄様がわざとネスティに撃った可能性は?」


 私は返事の代わりに使用人たちを見た。私の視線を正面から受けた数人がまたビクッとして口を開いた。


「た、多分ネスティをそうさせたこと自体は故意ではなかったと思います。あの時はその魔道具の原理をよく知らずにただ出力を上げてみるとおっしゃったので。ただ……」


「ただ?」


 まれに催促するように眉をつり上げるリディアを見て、数人の使用人が冷や汗を流した。


 ……いや、実は冷や汗ではなく平凡な汗もあった。先ほどから応接の間の温度が微妙に上がっていたから。


 あと少しかしら。


「ネスティがそうなってから……最初は戸惑いましたが、すぐに良い状況だとおっしゃいました」


「……いい状況って?」


「そ、その……ネスティが倒れたのを利用できると……」


 その瞬間、リディアを中心に恐ろしい熱気が吹き出した。


 まるで目の前に火をつけたようだった。熱気が瞬く間に部屋を埋め尽くし、リディアの足元カーペットに火がついた。熱気がさらに激しくなる前にトリアが素早く風を起こしてくれたおかげで熱気は広がらなかったけれど、その代わりリディアの周りに熱気がたまった。近くにあったソファが燃えたり、装飾が溶けてしまった。


 やっぱりこうなったのね。私はため息をついてトリアの風の壁を越えた。


「リディアさん、落ち着いてください」


 ――紫光技特性模写『冬天』


 ジェリアの力で熱気を中和した。すでについた火は氷で消した。そしてリディアの肩に手を置くと、彼女はビクッとして熱気を止めた。しかし、私を見上げる目には複雑な心境が如実に表れた。


「テリアさんは……全部知っていましたの?」


 もちろん知っていた。ゲームでもリディアが覚醒するために必ず突き止めなければならない重要な情報だったから。


 しかし、それをありのままに言うことはできない。それでもこの状況に知らなかったと言っても信頼度は落ちるだろう。


 幸い、この質問はすでに予想していたもので、返事も準備しておいた。


「特に知っていたわけではありません。ただリディアさんの状況上、ディオス公子が本邸の使用人を掌握したのではないかと考え、情報を掘り出そうと事前に調査を少しさせたのですの。私も初めて知った時はかなり驚きましたわよ」


「そう……ですね」


 少し罪悪感がある。


 考えてみれば、私はただゲームを通じて情報を知るだけだ。私自身がリディアのためにしたことは何もない。それでもリディアは私に恩を感じ、今でも私の言葉を疑うことなく信じていた。まるでリディアを勝手に利用するような気分だった。


【それでも貴方がリディアを助けたい気持ちは本気じゃない。そもそもそんな気持ちがなかったらいくらでも他に利用できる情報だったからね】


[慰めてくれてありがとう]


 偽善かもしれないけれど、リディアのためにも今はそぶりもなく見過ごすべきだ。


 一方、リディアは私がそのような悩みをしている間にも使用人たちに話しかけた。普段より冷たい態度に使用人たちも慎重になっていた。


「他にリディアに言いたいことはありませんか?」


「その……」


 使用人たちが一人ずつ口を開き始めた。


 ディオスに脅されたり買収されたりして彼の命令に従ったこと。リディアを冷遇したこと。リディアがしようとしたことを妨害したり、リディアの味方になってくれた使用人たちを苦しめたこと。他にも本邸で起きるリディア虐待についてアルケンノヴァ公爵に報告が上がるのを阻止したことなど。


 本当に多様にもやってしまったわねと感嘆するほど多くの話が出た。ほとんどをゲームの知識として知っていた私さえも知らない話があった。ゲームでの簡単な描写よりはるかに深刻な話もあった。率直に言うととても驚いた。


 当然だけど、彼らが自発的にこのような告白に乗り出したわけではない。


 私がハンスさんに頼んだ調査。そこから出た情報をもとに事前にある程度交渉を進めた。そして今日、私がリディアと会ってネスティを治療する間に別行動をしたロベルとトリアが交渉を終えた。


 まぁ、交渉といっても大したことはなかったけど。ディオスの報復を恐れて口を開かない使用人には私の名前をつけて庇護を約束せよと伝え、最大限多くの人員を集めてこの場を設けただけだ。


 ……最後まで意地を張る人には少し脅迫も加えたというのは小さな秘密。


【本当に面倒な事前作業だったわね】


[まぁ、でも必要なことでもあったじゃない。おかげで問題なく場を設けることができたし]


 リディアは使用人の告白をほとんど何も言わずに聞いた。たまに口を開く時も次の人を指差したり話を督促するだけだった。


 やがてすべての話が終わると、リディアは姿勢を正した。そして使用人たちを再び見回した。彼らはまるで判決を待つ罪人のように頭を下げたままリディアの視線を避けた。


「まず、お話をいただき誠にありがとうございます。皆さんも大変だったでしょうね」


 そう言ってリディアは頭を深く下げた。使用人たちが目に見えて当惑して引き止める声を高めたけれど、リディアはしばらく動かなかった。


「責めたりはしません。雇用された使用人に過ぎない皆さんが兄様に逆らうのは難しいということは知っていますから。むしろ今の告白で苦境に陥るのではないかと心配されるのも理解できます」


「リ、リディアお嬢様……」


「ただし」


 そこで話をやめたリディアは目を閉じて深呼吸をした。心を落ち着かせるというよりは、引き締めたようだった。


 しばらくして再び目を覚ました時、その眼差しは普段とは違って冷静で威厳が感じられた。


「リディアは皆さんのすべてを許すことはできません。……リディアにしたことは構いません。しかし、ネスティがそうなったことを傍観し、誰の仕業なのか知りながら隠したのは……到底容認できません。それでもそれは結局リディアが無能だったからでしょう」


「ち、違いますお嬢様! それはお嬢様の過ちが……!」


「いいえ。もしリディアが兄様から貴方たちを守れるほど強かったら、貴方たちを安心させることができる人だったら、貴方たちがそんなに兄様に振り回されることはなかったでしょう」


 幼少時代からディオスに抑えられ、洗脳されてきたリディアにそれを要求するのはあまりにも過酷なことだ。しかし、リディアはその過酷を自らに強要していた。


 結局、彼女の根本は優しい人だ。ディオスに振り回された彼らを心から憎むのはできないだろう。


 そして彼女は行き場のない恨みで自分自身を焼くバカではない。


「皆さんがリディアとネスティにしたことについては、次に戻ってきた時に締めくくります。今はただ……皆さんが勇気を出してリディアにすべてを話してくれたとだけ思います」


「リディアお嬢様……」


「では、リディアは一ヶ月ほど後にまた戻ってきます。……今日の仕事はありがとうございました」


 リディアはもう一度頭を下げて挨拶した。その言葉を最後に今日のすべてのことが終わった。


―――――


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