決闘宣言
私の話を聞いたリディアは微動だにしなかった。
急にこんなことを言っても受け入れるのは難しいだろう。長年刻まれた自己卑下と劣等感をわずかこのような言葉で無くすことができたなら、ゲームで彼女を攻略する時も苦労しなかったはずだから。
もちろんゲームでは他の誰でもない私のせいでもっと状態が深刻になっていたけれど。
「ふざけんな……!!」
その時、ディオスの魔力が膨らんだ。彼はまるで私の威圧感を押しのけるかのように魔力を吐き出し、少しずつだけど確実に体を起こして私の前に立った。大変そうに足が少し震えて頭も完全に上げられずにいたけど、彼の能力でここまで抵抗したことだけは褒めてあげてもいいだろう。
「偉大なアルケンノヴァの名を継ぐのはこの俺だ! こいつではない!」
喚き立てる姿がゲームでの彼の姿と重なって見えた。
……可哀そうな人。
自分ではどんな名誉も価値も見つけられず、ただ偉大な名前に依存するしかなくなってしまった人。自分のものではなく、虚像に自分の誇りを求める人。彼が妹のリディアを執拗に苦しめたのも、彼はそれなりに必死だからだ。
もちろん彼の卑劣なやり方も、クズの心構えも認めないけれど。こんな人間を同情する気なんて微塵もない。
「本当にそう思うなら堂々と競いなさい」
「なに?」
「可能性がないからといって妹を嫉妬してけなすなんて、恥ずかしくもないの?」
私の言葉にディオスは一瞬かっとなったけど、すぐ表情を収拾してニヤニヤした。
「堂々と競う? ちょうどいいな。俺も今日それをするために来たぜ」
それを聞いてやっと私は本来の目的を思い出した。
危うく危ないところだった。本来はディオスが言った〝堂々と競う〟が確定した後に現れようとしたけれど、彼がリディアをいじめるのを見てつい腹が立って威嚇してしまった。
もし彼が私に屈服していたら、むしろリディアの自信を育てるのがもっと難しくなっただろう。
そんな私の本音も知らず、ディオスは意気揚々と笑いながらリディアを振り返った。
「お前、俺と決闘しろ」
「え?」
ずっとぼんやりと状況に追いつけなかったリディアは、ようやく声を流した。だからといって理解したわけではないけど。
「け、決闘って、何を……」
「まだお前のような出来損ないに何かができると信じる愚か者が多いからな。ちょうどお前もアカデミーに来たから、この機会に愚か者に確実に見せたいんだ。父上の座を受け継ぐ者は俺だということを!」
「し、いやです。あえてそんなことしなくても……」
リディアの目がしばらくさまよってから私を見た。
恐らく私に頼ろうとするのではなく、この場にディオスと彼の取り巻き以外には私しかいないので藁にも縋る心情だろう。もしかしたら、私がいいことを言い続けたことを意識したのかもしれないし。
私は自信を持たせるために微笑んで言った。
「受け入れなさい」
「はい……はいぃ!?」
「さっき言いましたよね? この出来損ないよりリディアさんの方がずっと強くて価値のある人だと。この男は愚かすぎるので言葉では聞き取れないです。だからリディアさんが実際に見せるしかありません」
「ち、ちが、違いますの。リディアは、リディアなんか……」
「は! オステノヴァは賢者だというのに、実は夢多き夢想家だったな! 妄想は家に帰って、うぐっ?!」
「黙りなさい。今私とリディアさんが話してるの見えないの?」
ディオスの顎と口を握りしめてしばらく黙らせ、再びリディアを見た。彼女はまだ震えて途方に暮れていた。でもいつまでもアレを放置するわけにはいかない。
「リディアさん、今私どう思いますの?」
「どう、って……」
〈選別者〉の威圧的な魔力波も、ディオスを握りしめる手も相変わらずだ。ディオスは必死に私の手を振り払おうともがいていたけれど、彼が何をしても私は微動だにしなかった。
私の意図が理解できず、眺めていたリディアが突然悲鳴を上げた。
「て、テリアさん!」
リディアはディオスを指差した。でも私は目を向けることさえしなかった。
ガチャンと音が鳴り、私の頬に触れた物が壊れた。きらめく欠片が私の目の前に舞い散った。リディアも、そしてディオスも息を呑む音が聞こえた。
やっと視線を少し向けると、ディオスが途中から粉々になった鋼鉄の槍を見て茫然自失の姿が見えた。魔力で作られた鋼鉄の槍だった。
どうしても自分の手を振り払うことができず、『鋼鉄』の魔力で武器を作って私を突いたのだけど、たかがディオスなどの力では〈選別者〉で強化された私の肌さえ突き破ることができない。四年前と同じように。
それよりいくら腹が立って慌てたとしても、他の公爵家の公女に槍を突きつけるなんて。しかも顔へ! こいつ本当にバカなの?
四年前は幼かった上、我が家で起きたことなのでなんとか揉み消すことができたけれど、こんなアカデミーのど真ん中であんな乱暴とは。アルケンノヴァ公爵が見たら仰天するのだろう。
もちろん顔を握りしめた私もとても無礼だけど、本当の武器を突きつけたのは格が違う問題だ。
……まぁ、これから私ももっと無礼を働く予定ではあるけれど、先攻はディオスが先に飛ばしたからね。
「つまらない力だね」
――紫光技〈魔装作成〉
私を中心に魔力光が輝いた。瞬く間に二百本以上の魔力剣が現れた。その光景を見たディオスは目を裂けるほど丸くした。少し振り返ってみると、リディアも反応は似ていた。
……こう見ると兄妹らしく似ているけどね。
「リディアさん。私の口で言うのはアレですけど、私はこんな出来損ないなんていくら襲いかかってきても圧倒するほど強いですの。今すぐこの手に力を入れて頭をつぶしてしまっても、このバカにはそれを防ぐ力もないでしょう」
手に力を込めるとディオスの頭がきしみ、苦痛に満ちたうめき声が流れ出た。ため息をついて彼を放した。正直、そのまま座り込むと思ったけどディオスは数歩下がって私を睨みつけるだけで、まだ立ってはいた。
思ったより根性があるわね。
「私の言っていることが嘘のようですか?」
「い、いいえ。テリアさんがす、すごく強いのは分かります」
「そうですよね? 一度受け止めてみてください」
「え?」
リディアとディオスに魔力剣を一本ずつ照準し、すぐに発射した。
「あ、きゃー!?」
「うおぉっ!?」
二人の反応速度はほぼ同じだったけど、結果は違っていた。
ディオスは鋼の盾を作った。その速さだけは賞賛に値する。でも私の魔力剣はその盾を濡れたティッシュのように破ってしまった。剣は私が意図した通り、ディオスの顔のすぐ横を鋭い音と共に通過した。
反面、リディアは反射的に手に魔力を集めて振り回した。小さな爆発と共に魔力剣は完全に砕けて粉になった。
「反射的な反応だけで私の魔力剣を相殺した人と、同じように反応したけれど何もできなかった人。誰が優位なのかもっと説明が必要でしょうか?」
私の話は茫然自失のリディアに言ったけれど、反応は彼女ではなくディオスの方が早かった。
「ふ、ふざけんな! 無礼者! 俺にこんなことをしても無事だと……」
「あら? 私に堂々と槍を突きつけたのは誰だったっけ? 私はわざと逸れるように撃ったのに、貴方の攻撃は私が弱かったら死ぬこともできたの。そして……」
リディアの足元に散らばった魔力剣の破片を指差す。そのためにわざと壊れた魔力剣の形を維持していた。
「貴方は何もできなかった魔力剣をリディアがさりげなく相殺したことが知られれば、貴方の体面がバカげているはずよ? それでも大丈夫なの?」
「うぐっ……!」
歯を食いしばるディオスを放っておいて、再びリディアに顔を向けた。彼女は手と壊れた魔力剣の破片を交互に見ていた。
「リディアさん。私は強いですの。そんな私の攻撃を貴方は防げました。でもディオスにはできませんね。その意味が分かりますの?」
「リ、リディアは……」
「私が保証します。リディアさんはディオスより強いですの。だから怖がらずに受け入れてもいいですの」
ずっと茫然自失していたリディアは、むしろ私の話を聞くと首を横に振った。
「う、偶然です。リディアは……」
「……いい加減にしましょう」
リディアはビクッと私を見た。
しまった、つい冷たく話してしまった。これではリディアの信頼を得にくくなる。
しかし、逃げる気配はなかった。よし、ここまでは大体予定通りだ。いよいよ本論を取り出せそう。
「いいですの。じゃあ、こういうのはどうですの?」
「な、何ですの?」
「対決は一ヶ月後にしましょう。そしてその時まで私が直接リディアさんを鍛えてあげます」
「鍛え……ですの?」
「はい。リディアさんも私が強いのは認めたでしょ。その強い私がリディアさんを直接鍛えてあげるということですの。やってみる価値はありますよね?」
まぁ、私が強いことと上手く教えることは別だけどね。しかし、完璧な論理なんてなくてもいい。この場でリディアだけ丸め込めばいいから。
「で、でも、リディアは……」
「自分を信じられないなら私を信じてください。ほんの少しの言葉を交わしただけですけど、少なくとも私が強いということは分かったでしょ」
「……テリアさんは……どうしてそこまでリディアを……」
貴方の力が必要だから。……ということを率直に言うことはできない。
もちろんそれだけではない。四年前にもアルカとハンナに無礼を犯し、リディアにあらゆるひどいことをしてきたディオスを許せないからだ。
そして前世の私はリディアの優しさと、彼女が真価を現した時の姿が大好きだった。
私はからかうふりをして唇に指を当てて笑った。
「秘密ですわ。私の提案に従ってくだされば後で教えることはできますの」
「うぅ……」
リディアは恨めしがる目で私を見て頬を膨らませた。少しだけど自分の気持ちを表わしたようで嬉しい。
【変態なの?】
[ちーがう!]
……雰囲気を壊すのが趣味の元邪毒神はさておいて。
リディアは今は押さえつけられているけど、もともとは好奇心が旺盛で、自分に不思議に関心を持ってくれる私を無視できない性格だ。これくらいで話せばいいだろう。
予想通り、リディアは小さいけれど確実に頷いた。
「分かり……ました。テリアさんの提案通りにしていただければ……受け入れますの」
―――――
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