隠された場所に向かって

「ジェリア! 後ろ!」


「どけ、クソモノが!」


 ジェリアの氷波が廊下の裏側を一瞬で掃いた。追いかけてきた安息領の奴らは氷に身動きもできないように閉じ込められてしまった。


 中央講堂に進入した私たちを歓迎したのは安息領の雑兵たちと魔物の群れだった。魔物を合成して作ったキメラ、ローレースアルファだ。


 レースシリーズ。安息領がいろいろな魔物を合成し強化して作る魔物キメラ。『バルセイ』では末端兵士から切り札まで幅広い役割を果たした。


 ローレースはその中で最も低い等級で、アルファは各等級の成功体。『バルセイ』の設定通りなら、今の時期にきちんと完成したのはローレースシリーズだけだけれど、これが出た以上上位ラインナップも間もなく開発されるだろう。


「直線区間よ! すぐ突破するわ!」


 ――天空流〈彗星描き〉


『万壊電』を纏って突進して廊下を丸ごと焼いた。食われたローレースアルファたちはすべて焼かれて砕け散った。


 よし、これで一区間突破した……。


「おい! この狭い廊下で『万壊電』をそんなにまき散らしたらどうするんだ!!」


 ……あ。


 振り返ってみると、私を追いかけてくるジェリアが立ち止まって氷片を払い落としていた。私の攻撃の余波を氷の盾で防いだようだった。余波程度で怪我をする人ではないと思ったため、配慮が足りなかったようだ。


「ごめんね、チームプレーには慣れていなくて」


「はぁ、気をつけろ」


 そんな風に進んでいたけど、ローレースアルファはあちこちから湧き出た。それに問題は奴らを処理するだけでは足りないということだった。


「テリア! あそこ!」


 ジェリアが指した所には二人の女子生徒と彼女たちに近づくローレースアルファ二匹がいた。そして少し離れた所に解放用宝石を追加で取り出す安息領雑兵もいた。


「ジェリア、あいつ処理してちょうだい!」


 雑兵を指してそう言い、力を散らさないように調整した〈彗星描き〉でローレースアルファたちに突進した。突進の勢いをそのまま引き継いだタックルで一匹を打ち砕いた。


 ……目の前で粉になってしまった魔物を見て女子生徒たちが「ヒッ」と息を呑んでしまった。ごめんなさい、少しだけ我慢してください。


 生き残った一匹がターゲットを私に変えて襲い掛かってきた。人狼のような腕を避け、そのまま真ん中に〈一点極進〉を打ち込んで撲殺させた。


 ジェリア側を見ると、そちらも雑兵を無力化して拘束したところだった。


「お二方、大丈夫ですの?」


 女子生徒たちは私より何歳か年上だったけれど、二人とも制服が騎士科ではなかった。もう少し遅れたら大変なことになっただろう。


 二人は少しためらいながらも頷いた。


「あ、ありがとう……ございます」


「貴方は怪我をしていませんか?」


「ご心配ありがとうございます。私は大丈夫ですの」


 目の前でスプラッター展開を見てしまった割には拒否感が少なく見えた。まぁ、パニックを起こすよりはいいけど。実際、来る途中で救出した生徒の中には怯えたり混乱に陥った生徒もいた。


 この女子生徒たちはもしや補助や事務の役割で騎士科の現場派遣に同行した経験でもあるのだろうか。


 のんきにそんな考えをしていると、廊下の向こうからまた三匹のローレースアルファが顔を出した。女子生徒たちがまた縮こまった。


 私はちょうどすぐ近くにあった部屋の中を確認した後、紫光技で硬さに特化した特性を模写してそこに結界を設置した。


「もうすぐ連絡を受けた警備隊が来ますわ。あちこちにあのバケモノたちが歩き回っていますから、生半可に逃げるよりここに隠れている方が安全だと思いますの」


「貴方は?」


「私はやるべきことがありまして」


 気持ち悪い鳴き声を吐きながら、ローレースアルファたちが走ってきた。奴らの腕を弾き出し、そのまま攻撃して頭や首を破壊した。


「お姉さんたち、警備隊が来るまで部屋から出てはいけません!」


「ありがとう! あの、お名前が……?」


「テリアですの! では!」


 


 ***


 


 傍で並んで走るテリアの姿がどこか焦って見えた。


「ジェリア、残った生徒は?」


 聞く顔もやや硬い状態いた。やはり目的地に直行できない状況が焦っているのだろうか。


 探索の魔道具を見ると、幸いにももう残った生徒がいなかった。


 ボクたちは講堂の中を歩き回りながら生徒たちを救助していた。講堂に人自体があまりいない時間帯で良かったが、それでも突然のことで避難できなかった生徒がいた。


 ただでさえ廊下が狭い方だから、テリアもボクも剣を使わず素手で戦っている。それなのに救助までするために迂回したのは痛恨だった。もちろん人の命に比するところではないが。


「早く行こう。ここから方向が……」


「すぐつながった通路がないぞ。少し遠回りしそうだが」


 そう答えればテリアは突然立ち止まって壁に顔を向けた。ちょうど目的地がある方向だった。


「ジェリア、戦時や非常事態で建物の損壊についてはどう判定するの?」


「必要な戦闘行為で破損が発生した場合には当事者に責任を問わない。過剰行為だった場合でも費用を一部請求する程度で済む。……待って、君まさか……」


 ボクが話を終える前にテリアは〈魔装作成〉で双剣を作ってから力強く振り回した。強力な魔力の斬撃が壁を破壊し、厚い壁越しに反対側の廊下が現れた。


「……おい」


「テヘッ?」


「テヘッじゃないぞテヘッじゃ!!」


「でも一刻を争うでしょ!」


 テリアはすぐに穴を通って反対側に出た。あのバカ逃げるつもりか!!


 ドカン、ドカーンと魔力が爆発する音を聞きながら渡ってみると、すでにテリアが二匹の魔物を処理しておいた状態だった。


 それはいいが、また壁壊そうとしてるじゃないかこいつ……!


「おい!」


「遠回りすれば安息領に遅れをとるかもしれないわよ。直線距離で……」


「待ってよ!」


 慌てて叫んだら幸いテリアは動作を止めた。ビクビクしてはいたが。


「どうしたの?」


「君こそ急ぎすぎじゃないか? その魔道具が重要だということは分かるが、すでに邪毒陣をほとんど除去した今は大きな脅威にはならない。もし魔道具を逃しても、性急に行動して君が怪我をするのがもっと大きな問題だぞ」


「とりあえず行きながら話そうよ」


 テリアは問答無用のように壁を壊してしまった。


 おのずとため息が出た。しかし、実際にこのようなことでもしなければ遠回りしなければならないから、この道は早い。それはそうなんだが……。


「一体どうしてそんなに急いでるのか? また隠しておいたものでもあるか?」


「発見された邪毒陣は必ずしも特定の魔道具が必要なタイプではなかったわよ」


 一つ目の壁が壊れた。


「それはそうだったな。それがどうした?」


「逆算してみれば魔道具も同じなのよ。その魔道具はただ同じタイプの邪毒陣と共鳴して起動させる役割にすぎないわ」


 二つ目の壁も豪快に壊れた。


「つまり、事前に撒いておいたのではなくてもいいという意味か?」


「そうなの。私が修練騎士団にサンプルを見せたように別に持ってこようか、それとも混乱に乗じて新しく設置しようか方法はあるの。そうでなくても今侵入者は人数だけは多いからね。もし魔道具を抜き取ったりしたら、いつまた悪いことをするか分からないわよ」


 ドカン、三つ目の壁は盛大に粉々に砕けた。


 ……何かテロリストになった気分だな。


「急いでいる理由は分かった。まだ問い詰めたいことは多いが、それは後で話すようにしよう」


「ごめんね。でも私たち共犯なのは知ってるよね?」


「ボクまで巻き込むな!」


「でも貴方も一緒に来たでしょ? じゃあ共犯なのよ」


 本当にこんな奴を信じてもいいのか?


 そろそろ懐疑心を抱く。しかし、それよりもテリアがまだ焦っているのが気になった。今話したことも嘘ではないだろうが、別の理由がもっとあるような気がした。


「早く仕上げて人をもっと助けに行きたいのか?」


「……早く行こうってば」


 テリアはそのようにごまかして速く走った。いいことだから恥ずかしがる必要はないがな。


 もう少し行くと、目的地とつながっている廊下が出てきた。もう壁壊さなくてもいいからよかったな。


 しかし、その曖昧な安堵は目的地のドアの結界を見た瞬間吹き飛ばされた。


「アカデミーの結界じゃないわ。壊そう!」


「クソ、なるようになれ!」


 魔力を込めた蹴りでドアを吹き飛ばして中に入った。


 一方の壁に封印された時空亀裂の虚像がある広い部屋。数日前にテリアがガイムス先輩の案内で見学したそこだ。魔道具が隠されたとテリアが言った所がここだった。


 部屋に入ったボクとテリアは同時に目を丸くした。立体映像の後ろの空間が大きく歪んで開かれていたのだ。まるで潰れたドアのように。


「あれは……!」


「もう入ったみたいわね! 私たちも行こう!」


「おい待って!?」


 テリアは止めることも聞かずに〈彗星描き〉で空間のドアに突進してしまった。


 えいっ、せっかちな奴だな本当に!


 だがボクもついて行こうとした瞬間、空間のドアが突然揺れ、急速に消滅し始めた。


「なっ!? おい!」


 思わず大声を出して走ったが、ボクが到達する前に空間のドアは完全に消えてしまった。遅れてそこに到着して空中を触ったり壁、床などを拳で叩いてみたが、何も起きなかった。むしろ部屋の中ではなく外から何かが近づいてくる気配が感じられた。


 この感じは……まさかテリアの開いた穴から押し寄せるのか?


「ちっ」


 まさかテリアが罠を――とかの疑いがあったが、首を横に振って振り払った。たかがボクや講堂に残った生徒数人を罠にかけるためにこんな煩わしい過程を経る必要がないから。


 愛剣である『冬氷剣』を抜いて姿勢を整えた。そしてまるで待っていたかのように部屋のドアを壊しながら魔物があふれ出た瞬間、〈竜の咆哮〉で魔物たちと共にそちらの壁を吹き飛ばした。外の状況を簡単に確認するためだから問題ない。


 ……ボク、まさかテリアに染まったんじゃないか?


「フィリスノヴァの小娘だ! 捕まえろ!」


「できればやってみろ、クソザコが!」


 氷錐の波を部屋全体を覆う規模で放った。魔物が蜂の巣になって倒れ、安息領の奴らは適度に調節して氷に閉じ込めた。命さえあればいくらでも生け捕りできるぞ。


 空間のドアがあった所を氷結界で包み、前に出る。氷を越えて押し寄せる魔物たちを剣で斬り、傷から四方に氷の棘を成長させて体内を破壊した。やはり普通の魔物よりは硬くて強いが、だからといって大きな差があるほどではない。


 だがまさかこんなキメラのような魔物を作って、それを宝石に入れて携帯までするとは。最悪の場合、都心に魔物だけを投げて逃げても立派なテロ手段だ。これは調べる必要がある。


 グズグズしている安息領の奴らと理性なしに暴れる魔物たちを睨みながら、ボクは剣を取り直して魔力を高めた。


「死にたい順にかかってこい。先着順で地獄に送ってやるぞ!」


―――――


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