彼の裏面

「ジェリア、魔力」


「……ああ、悪い」


「精密な制御はまだまだだね」


 しばらく苦笑いしたけど、すぐに私も真剣な気持ちで邪毒陣を見た。


「どんな陣なのか分かるのか?」


「いや、あいにく邪毒陣の知識はまだ足りないからな。ボクの特性は邪毒陣の把握には役に立たない能力だ。君はどうだ? 浄化能力者は邪毒に敏感だろ?」


「ちょっと待ってね」


 しばらく邪毒陣を見ているふりをしてあちこちをのぞき込んだ。


 率直に言えば、この邪毒陣の機能や設置した犯人が誰なのかなどは当然知っている。この邪毒陣はゲームから出た重要な要素だったから。


 もちろんそれをそのまま言うわけにはいかないから、少しでも調べるふりくらいはしてあげないとね。


「確かではないけど……空間に影響を及ぼす部類みたいだね。空間の邪毒濃度を高めるタイプみたいだけど」


「邪毒濃度を高める?」


 またジェリアから冷気が漏れた。すぐに注意を与えたけれど正直、ジェリアの気持ちには私も共感する。


「ちなみに、どうやら連携型らしいわよ。これ一つでは弱いけど、他の邪毒陣と連動して増幅するの」


「敷地内にもっといる可能性もあるということだな?」


「多分ね」


「いたずらのレベルじゃないぞ。テロの可能性も念頭に置くほどだ」


 さすがジェリア。ゲームの記憶を努めて説明することを悩まなくてもいいわね。


 邪毒神がこの世界の存在ではない神であるのと同じく、邪毒とはこの世界の外から流れ込んでこの世界とは合わないエネルギーだ。


 そのため、あるきっかけで世界外の力が大量に流れ込むこともありうる。その中でも一番大きいのが時空亀裂で、亀裂を通じて莫大な邪毒が流れ込んで邪毒災害というのが発生することもある。


 頭に痛いのは、一度発生した亀裂は縫合はできるけれど完全になくなることはできないということ。始祖様のオリジナル浄化神剣なら完全に無くすことができるけれど、それ以外には方法がない。そして邪毒濃度が過度に高くなると縫合されていた亀裂がまた開き、災害が起きる可能性がある。


 アカデミーはかつて巨大な亀裂が開かれた場所だ。本来、その亀裂の跡形を研究していた場所が拡張されて教育機関になった。すなわち災害が再発する危険がある。


 そのようなアカデミーで、邪毒の濃度を高める邪毒陣が発見されたということは普通のことではない。


「テリア、自分で考えるにはその判断はどのくらい信頼できるのか?」


「さっきも言ったけど確かではないわよ。あくまでも私の個人的な感じだからね。でも私が感じたことだけ正直に言えば……確率は百パーセントだと言えるの」


 実際には私の個人的な判断ではなく、『バルセイ』に出ていたんだけどね。


 ジェリアは唇に指を当てて考え込んだ。


 まぁジェリアとしては恐らく半信半疑だろうか。それなりにジェリアにアピールしてきたとは思うけど、だからといって十分な信頼を築く時間があったわけじゃないし。


 たとえ友達としては信じるとしても、能力を信じることは別の話だ。外見から見れば私はただ異常に強いだけの十一歳だから。邪毒陣を分析するのは戦闘力とはまったく違う問題で。


 私がそのような考えをしている間、ジェリアも考えを終えたように手を離して、また私を見た。


「テリア、聞きたいことがあるんだが」


「何?」


「君、最初からこの邪毒陣を見つけるのが今日の目標だったな?」


 あれ? これは予想できなかった質問だけど。


 一瞬偶然だってしらを切ろうかと思ったけれど、ジェリアの真剣な顔を見ると通じるとは思わなかった。


「なんでそう思ったの?」


「第一、今日の模擬戦は君が今朝急にやろうと提案した。第二、この前と違って今日は妙に地面に大きな技をどんどん飛ばす感じがした。それだけだったらともかく、地をこんなに大きく壊して邪毒陣を掘り出しただろ?」


「ただそれだけで?」


「……まぁ、説明できる根拠は大体これくらいで、あとはただの勘だぞ」


 意外と鋭いね。


 あまり完璧な論理ではなかったけれど、取調するわけでもないから徹底した論理まではいらないだろう。それに私の意図はジェリアの言う通りだった。


 もちろんゲームの記憶について率直に話すことはできないけど、それなりに言い訳は用意しておいた。


「詳しいことは言えないけど、実は父上に頼まれたことがあったの」


「頼まれた? この邪毒陣についての情報とかあったか?」


「詳しいことは私も知らないわ。私が聞いたのは〝危険なことがあるから疑わしい所を探してくれ〟ってことだったわよ。候補になる座標と一緒にね」


 申し訳ありません、父上。いきなり名を使って。


 率直に言って曖昧で粗末な話だけど、知らないという言葉で情報自体を曖昧にすればバレる余地が少ない。


 もちろんこんな重要な問題なら父上に直接確認することもできるけれど、娘である私の言うことを疑って父上に聞いてみるのもおかしい。常識的に公爵の名前を下手に使うとは思えないだろうし。


「オステノヴァ公爵家の情報網は格が違うから、当主である公爵閣下が直接そのような指示を下したなら理由があるだろう。この邪毒陣の正体についても聞いたか?」


「いや、残念だけど父上も何か危険なものがあるという匂いを嗅いだだけみたいよ。私がアカデミーの中で直接探すことにしたこと自体が、その正確な正体を知るためだった」


「なるほど。まぁ、オステノヴァ公爵閣下の目と支援があると思うとむしろ心強いぞ。悪いことはない。ただ……これすぐ閣下に送らなければならないのか?」


「ううん、そんな必要はないわ。邪毒陣そのもののデータを伝送する方法があるの」


「ふむ、じゃあ修練騎士団にこれを見せてもいいか? とにかく部外者のオステノヴァ公爵閣下に全部任せておくわけにはいかないからな。どうせデータは別に閣下に送ると言ったし」


「いいわ」


 いや、むしろ修練騎士団に見せてくれないと私が困る。そもそもそうしようとわざとジェリアの目の前でこれを発掘したのだから。


「あ、そしてさっき候補になる座標をもらったと言ったな? なら他の所にもこういうものがある可能性もあるのか?」


「全部かは分からないけど、少なくともその一部は多分あると思う」


 私は指パッチンをした。すると、まるで待っていたかのように私の後ろにトリアが現れた。まるで瞬間移動のようだ。


「お呼びですか?」


「トリア、座標情報を集めておいた資料あるよね? 貸してくれる?」


 トリアはすぐにポケットから紙束を取り出して私に渡した。事前に伝えてよかったわね。


 そして呼んだついでにトリアにも邪毒陣を見せた。


「トリア、これどういうものか分かる?」


「ちょっと見てみます。……何ですかこれは? テロですか?」


 やっぱりトリア。一発で調べたね。


「何だ、邪毒陣のことは知らなかったのか?」


「何かをお探しになると言われただけです」


 トリアはジェリアの質問に簡単に答え、また邪毒陣を見つめた。そして突然尋ねた。


「お嬢様、これ壊しましょうか?」


「ダメ。修練騎士団に見せる証拠物だよ。適した容器に入れて保存してね」


「はい。その座標のリストはどうしますか?」


「これは……」


 ジェリアを振り返ると、彼女は苦笑いしながら頷いた。


「修練騎士団に正式に案件を上げて協力を要請しよう。校内の地理についてもよく知っているし、頭数で早く見つけることができるからな」


「ありがとう。協力お願いするわよ」


「何を。これが本当に君の言う通りの物なら、むしろアカデミーが対処すべきことだぞ。ちょうど明日修練騎士団の定期会議があるから、その時案件に上げよう。それでいいよな?」


「うん。ありがとう」


「何を。むしろボクが協力に感謝すべきだぞ」


 よし。ゲームでもこの時期の修練騎士団は有能な人が多かったから、恐らく会議で有益な結果が出るだろう。


 それより……この邪毒陣がここにいるということは、やっぱりゲームであった事件が現実でも起きるということだろう。


 この邪毒陣は攻略対象者全員にとって最も重要な事件と関連している。正確にはその事件の原因だと最も強く疑われた要素だ。


 疑われた、つまり百パーセント確定ではなかったけれど、ゲームでは他の原因が提示されたことはなかった。だからこれを処理することを優先した方がいいだろう。


 その後、ジェリアは仕事があって先に去った。私は練習場を魔力で収拾した後に去った。


 寮の部屋に到着した後、トリアに手招きすると彼女は部屋に防音結界を展開した。そしてわざと部屋に待機させておいたロベルも呼んだ。


「計画通りになりましたね。おめでとうございます」


「まだよ。邪毒陣を全部処理するまでは安心できないわ」


「でも……それは、本当にあの人の仕業ですか?」


 ロベルは当惑した様子を隠せなかった。トリアも楽ではない表情だったけれど、それでもロベルよりは冷静に見えた。


「まだ信じられません。その資料、本当に確実なんですか?」


「私も同感だけど、これは実家の組織を直接動かして確保した資料だね。間違った情報である可能性はほとんどないよ」


 二人が話す資料はロベルを通じて実家に頼んで、数日前に渡されたアレだ。


 その内容はピエリが引退したきっかけであるアルキン市防衛戦について。具体的には、当時ピエリのなかった南部方面軍の配置記録および南部戦線の犠牲者名簿、そしてその背景を調査したマスコミ資料だ。全部極秘資料だから、多分得るのにかなり苦労したのだろう。


 当時、南部戦線は近くにレアメタル鉱山があった。その利権にはフィリスノヴァ公爵家とバルメリア王家が絡まっていた。そして防衛戦を担当した月光騎士団の団長がフィリスノヴァ公爵だ。


 南部戦線の被害が大きかった理由は、その鉱山を守るために民間人地域の防御を疎かにした結果。そして、それによって犠牲になった人々のリストに、絶対に見逃してはいけない名前があった。


 ――ユーフェミア・ラダス、リタ・ラダス


 結婚そのものが秘密だったピエリの妻と娘だ。


 調査していた人はいたけど、強力な権力の力がそのすべてを隠蔽した。 その上、南部方面軍の司令官が突然死に、背後や真相を暴く道さえ閉ざされてしまった。


 それがピエリが堕落した理由だった。今回発見した邪毒陣も彼の仕業だ。


「ジェリア公女はこれを知っているのでしょうか?」


 トリアの問いはもっともだ。ジェリアは事件と関連したフィリスノヴァ公爵の娘だから。


「そうだね、多分分からないと思う。そんなことをそのまま見過ごす性格でもないし」


 実際、ジェリアはゲームでその事実を知らなかった。父と仲の悪い彼女なら、たとえ知っていたとしてもかばう可能性は少ないだろう。


 だけど……ゲームでは結局、ジェリアがその事実を突き止める場面は出てこなかった。とにかく家のことだから、それを知ったときのジェリアがどう出るかは私にも分からない。


 ジェリアには申し訳ないけれど、この部分だけは慎重に考えなきゃ。


 もしかしたらいつかバレたとき、ジェリアに怒られるかもしれないけど……多分そんなことはないだろう。


 多分そんな日が来るより、私が……、……。


 ……いや、こんな考えはやめよう。


―――――


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