21 旅は続く

「……で、剣聖の活躍で街は守られた訳か。めでたしめでたしだな」

「そうなんですよ!」


 ボロボロの体で街に戻り、いつものように予約してからリンの治療を受けに来た俺は、そこで延々とリンによる今回の戦いの(というより剣聖の活躍についての)話を聞かされていた。

 リンの顔はアレだ。

 推しの舞台役者とかについて長々と語る、オタクと呼ばれる人種と同類のアレだ。

 どうやら、こいつは剣聖に魅了されてしまったらしい。

 まあ、子供というのは英雄譚に影響を受けて憧れる事が多い。

 俺もステラもそうだったし、ましてやその活躍を目の前で見せられれば、こうなるのも不思議じゃないんだろうな。


「しかもしかも! 私、ブレイド様にスカウトされて、一緒にシリウス王国の王都に行く事になったんです! まさかの大出世ですよ!」

「ほー」


 シリウス王国とは、俺とステラの故郷にして、人類最大の国家。

 そして、歴代の勇者達が例外なく所属していたとされる国だ。

 当然、当代勇者のステラもそうであり、人類の希望である勇者を任される程に強い、それこそ他の国とは隔絶した圧倒的な国力を誇る国でもある。

 あの老騎士と、リンが虜にされたブレイドもシリウス王国所属だしな。

 勇者に、二人の剣聖。

 更には多くの加護持ちの英雄に、星の数程の優秀な将兵が揃ってる。

 リンが所属する聖神教会もあの国の国教として取り込まれてるし、シリウス王国とは、人類の戦力を一点集中させたような超大国な訳だ。


 いくら加護持ちのリンと言えども、そんな国の王都に栄転となれば本当に大出世。

 普通なら驚愕してもいい情報なんだが……俺の感想としては「やっぱりか」って感じだ。

 多分、俺の記憶は間違ってなかったって事だろう。


「という訳で、私は準備が整い次第この街を出る事になります」

「奇遇だな。俺もそろそろ次の目的地に行く予定だ。この街での目的は果たしたからな」

「だったら尚更です! もう私に治してもらえる事前提の無茶はしちゃダメですからね!」

「ああ、肝に銘じとく」


 即回復、即修行のボーナスタイムは終わりという事だな。

 これからは、またリンと出会う前のペースに戻る訳だ。

 旅の途中の怪我は自力で治せる範囲まで。

 街に着いたら、その街の治癒術師に治せる範囲まで。

 よし、完璧だな。


「なんか曲解されてる気がします……。私はなるべく怪我しないようにしてくださいって言ったつもりなんですが……」

「安心しろ。わかってる」


 致命傷は意地でも避けるから問題ない。


「怪しい……本当に気をつけてくださいよ? それで、次はどこに行くつもりなんですか?」

「ひとまずは『ドワーフの里』だな。今回手に入れたアイテムの調整を頼みたい」

「ああ、マジックアイテムに手を加えられるのは、熟練のドワーフだけって言いますもんね」

「そういう事だ」


 ドワーフは手先の器用さや、その手の加工技術で知られる種族。

 その族長である世界最高の職人、通称『武神』に至っては、素材さえあれば伝説の聖剣すらも造り上げると言われる達人だ。

 今回は剣聖スケルトンの和服が思った以上に便利だったから、これを正式な装備にしてもらう事を目的に行く。

 だが、この先手に入れる予定のアイテムの調整も頼む事になるだろう。

 せっかく手に入れたマジックアイテムなのに、サイズが合わなくて使えませんでしたなんて話は、どこにでも転がってる。

 それを何とかしてくれるのがドワーフだ。

 できれば、何回も行く間に、武神とも会ってみたい。

 まあ、できればだが。


「さて、もう治ったみたいだし、俺は行くぞ」

「あ、はい。……もう会う事はないかもしれませんが、お元気で」

「それはどうかな。お前とは近い内にまた会う事になると思うぞ」

「へ?」

「じゃあ、またな」

「ちょ!? どういう意味ですか!?」


 騒ぐリンを放置して、俺は教会から立ち去った。

 荷物は全てマジックバッグの中に入ってるから、その足で乗合馬車の発着場まで行き、目的地方面へ行く馬車へと乗り込む。

 ちょうど冒険者ギルドでこの馬車の護衛依頼があったので、上手い事タダどころか報酬を貰える条件で乗り込めた。

 その代わり、道中で魔物や盗賊の襲撃があったら戦わなければいけないが、それは望むところだ。


 次の目的地であるドワーフの里は、とある山の中にある隠れ里。

 さすがにそこまで走る馬車はないから、近場まで行ったら後は歩きだな。

 そして、山という地の利を得た魔物と戦いながらの山登りが待っている。

 悪くない修行になりそうだ。


 そうして、俺の旅は続いていく。






 ◆◆◆






 この後も色んな事があった。

 色んな場所を旅した。

 ドワーフの里を皮切りに、暴風が吹き荒れる山脈、奈落のような底無しの迷宮、魔王軍との戦争地帯や、魔族の支配領域にまで足を伸ばした。

 行く先々で戦い、技を鍛え、装備を手に入れて強くなる。

 そんな事を繰り返す内に……リンと別れて3年、故郷を飛び出してから5年が過ぎた。


 今年は遂に、ステラが勇者として旅立つ年。

 またやって来たのだ。

 運命の時が。


 今度こそ俺は必ず勝つ。

 勝って、ステラとの未来を勝ち取る。

 俺は不退転の覚悟を改めて決め、一人、シリウス王国の王都を目指した。

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