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僕の存在は、この島の誰も知らない。ずっと昔から、僕はこの島の均衡を保つために存在してきた。海、星、そして風。それらすべてが島と共に流れるエネルギーだ。人々はそのことを知らずに暮らしているが、この島に流れる力は生きている。それを調整し、バランスを保つのが僕の役目だった。


僕がいつからこの島を守っているのか――その記憶さえ、もはや曖昧になっている。時の流れは僕にとって長いものであり、人々の文明が栄え、そして衰えるのをただ静かに見守ってきた。


僕は、人間の目には映らない存在だった。彼らの間に混じることなく、ただ自然と共に過ごし、島を見守ってきた。何百年、いや、何千年と続くこの役目に、疑問を感じたことはなかった。僕の存在は、この島の自然そのものと共鳴し、すべてが調和の中で生きている。それが僕の使命であり、僕自身の存在理由だった。


しかし、あの日――彼女と出会ったことで、すべてが変わった。


それは、今から数十年前のことだった。島はまだ今ほど発展しておらず、自然が今以上に島を包み込んでいた頃だ。僕はいつものように、風と共に島を見守っていた。すると、岬の海辺に一人の少女が泣きながら立っているのを見つけた。彼女は孤独で、深い悲しみを抱えていた。


彼女の名は瑠海――後に僕が守るべき存在となる少女だった。


僕は、彼女がそのまま自らを海に投げ出そうとしているのを見て、急いで近づいた。だが、その瞬間、海が彼女を飲み込み、波の中へと消えていった。僕は彼女を救おうと海に飛び込んだが、その時に気づいたんだ。彼女がただの人間ではなく、ケートスの力と深く結びついている存在であることを。


ケートスは、この島の海を守る精霊のような存在だ。彼女はその力を無意識のうちに宿していたが、それが彼女の運命を変えてしまった。彼女がこの島に生まれた理由は、海と星々の均衡を保つためだったんだ。


彼女を救った後、僕は彼女を見守ることに決めた。彼女が何を背負っているのか、その時はまだ理解していなかったが、彼女が島にとって特別な存在であることだけは分かっていた。瑠海はただの少女ではなく、海と星を結ぶ存在だった。彼女は、この島の未来を左右する存在だったんだ。


僕はずっと影から彼女を見守り続けた。彼女が成長し、島で暮らしていく様子を見守るうちに、僕は彼女に深い愛情を抱くようになった。しかし、僕の役目は彼女と共にいることではなく、あくまで彼女を守ること。僕は島の守護者であり、彼女のために存在するわけではない――そう自分に言い聞かせながら、距離を置いて彼女を見守っていた。


だが、彼女の人生を変える出来事が起こった。ある日、まだ幼い少年が岬で溺れかけていた。少年の名は綾瀬凪。彼は無邪気に海で遊んでいるうちに、波に飲まれた。僕はすぐに助けに行こうとしたが、その瞬間、瑠海が彼を救うために飛び込んだ。


彼女が彼を救うことは、彼女自身の運命を変えてしまうことになると、僕は直感的に感じた。彼女は凪を助けた代償として、ケートスの力を完全に受け入れることになり、この世から消えてしまう運命を背負うことになったのだ。


僕はその時、彼女が凪を助けたことが、この島の未来を決定的に変えると理解した。彼女は自分の運命を捨ててまで、彼を助けた。彼女は凪を愛していたんだ。まだ幼い少年だった凪にとって、彼女は特別な存在ではなかったかもしれないが、瑠海にとって凪は命を懸けて守るべき存在だった。


それから、僕は彼女の決断を受け入れるしかなかった。彼女は凪を救った代償として、この世界から消える運命にある。僕は彼女を助けることができなかったが、せめて彼女の願いが叶うようにと、人間の姿で凪の前に現れることを決めた。


僕が人間の姿で凪の前に現れたのは、彼に真実を伝え、彼が選択する時を見守るためだ。彼が彼女のために何を選ぶのか――それが、この島、そして僕たちの運命を決める。彼女が消え、この世界の均衡が崩れるかもしれない。でも、彼女と凪が一緒になることが、この運命の輪を変えるかもしれない。


僕の役目は終わりが近づいている。夏休みの最終日、僕はすべてを凪に告げ、彼がどんな決断を下すのかを見届けるつもりだ。僕もまた、彼の選択によって消えるかもしれないが、それが彼らの未来のためならば――

それでいい。

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