お見舞いにきたギャルⅢ
「ヤミ女!」
「NTRギャル!」
(襖を開けて顔を出す)「美夜子ちゃん、おかゆに梅干しは落とす? それとも別にして持ってきた方がいいかな」
空也が戻ってきた瞬間。言い合っていた二人は秒速で相手をイラつかせるために特化させた表情を、瞬時にイイ笑顔へと変えた。
「別にしてもらった方が嬉しいわ♪」
「いやいや、そこは最初から上に乗ってた方が嬉しいっしょ。美夜子、すっぱいもんが大量に食べたいらしいから、この際どっさり入れちゃえ入れちゃえ☆」
「あらあら、光笠さんってば。クゥちゃん、光笠さんもさっきまでお腹さすりながら『最近梅干し食べたくて仕方ないんだ~☆』って言ってたから、梅干しの瓶ごと持ってきてもらえる?」
「そう? それじゃあ瓶で持ってくるね。おかゆはまだ時間がかかるから、ゆっくり待ってて」
「ええ、ありがとう」
襖を閉じて空也がいなくなる。
途端に第二次女の口バトルが始まった。
「誰が梅干し食べたくて仕方ないんだ~☆ つったのよ!? しかも、お腹さすりながらとか意味深すぎるし! 宇宙のどっかにいるかもしれない梅干し星人だってそんな動作しないわ!!」
「先にすっぱいもん大量に食べたいなんて嘘を語ったのはどちら様かしら? たくさん食べて塩分の過剰摂取でむくめと? 遠回しに人を殺しにかかるのは止めてほしいわね!」
ぜえはあ、ぜえはあと両者共に息を切らす。
普段の調子であれば空也が仲裁するまでこの諍いが続いてもおかしくないのだが、今日の美夜子は半病人だ。
興奮しすぎたのか、声をあげすぎたのか。
少しだけクラっときた。
「……うっ」
「うおっとぉ!」
よろめいた美夜子の身体を、慌てて佳鈴が支える。
奇しくもそれで口喧嘩は終幕となった。
「どうせ支えてもらうならクゥちゃんがよかった……」
「はいはい、めんごめんご。あたしで悪うござんしたね★」
ゆっくりゆっくり、佳鈴の補助によって美夜子の身体が布団に寝かせられる。
先程の口喧嘩が本当に相手を嫌っているものであれば、この隙をチャンスとみて追撃のひとつやふたつ(※物理攻撃含む)を喰らわせるだろうか。しかし、佳鈴がそんな事をしでかす様子はない。
ちゃんと、偽る事なく彼女は美夜子を心配してお見舞いにきたのだから。そんなふざけた事をするはずもなかった。
「……あなたと話してたら身体が熱くなったわ」
「え、マジ。あんたあたしにムラムラしたの?」
「バカ、ほんとバカ。ゴリラでももっと上品な話を振るわ」
「もっとノリのいいメガネザルにネタ振ればよかったと後悔してんよ★ 冗談はさておき、飲み物でもとってこようか? それとも汗でも拭く? 一人じゃ背中とか拭けないっしょ」
「………………」
「あによ。言いたい事があるなら言えば?」
「必要もないのにあなたに優しくされると気味が悪い。何か企んでるのかしら?」
「企んでないし、純粋な人の好意を踏みにじるとかド失礼すぎでわ」
「……ごめんなさい、さすがに私が悪いわね。出来たらお願いしたいところだけど……クゥちゃんがいるから」
「そこは恥ずかしいんかいッ」
自分ちにお見舞いにきた少年に『おかゆ作って』と言える癖に、という続く言葉を佳鈴は一旦呑みこんだ。自身も異性が近くにいる状態で身体を拭いて欲しいとは、よほどの事でなければ頼みづらいからだ。
ただ、だからといって必要な時があれば頼むわけで、それは例えば自分の匂いが気になるとか――。
(鼻を近づけながら)「すんすん」
「ちょっと突然犬みたいにならないでくれるかしら。足でも舐めたくなったの?」
「流れるように人を踏みにきてるとこ悪いんだけど、ちょっと匂いが気になるね」
「し、失礼ね!? 言い返すにしてもデリカシーが無さすぎない?」
「るっさいなぁ~、そんなに嫌がるならあえてやってやるっての。お風呂場はどこ? 身体拭く準備してくるから早く教えて」
「べ、別にいいわよッ」
「よくない。気になる男の前で匂いがアレなんて絶対よくない。……クーちんには部屋に入る時はちゃんとOKが出てからって伝えておくから大丈夫だから! ほらほら早く早く」
「まったく、強引ね……」
とはいえ、佳鈴の強引な行動は美夜子を気遣ってのものだ。
だから美夜子が折れるのは早かった。
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