お見舞いに来たギャルⅡ
「…………」
「もー、そんなあからさまにムクれなくてもいいじゃんかー」
(ぼそっと)「ほんと気の利かない
「あんた病人になっても全然しおらしくないね……」
「佳鈴さん。美夜子ちゃんは体調が万全じゃないから、ちょっと不安定なだけだよ。風邪でひとりの時って気持ちが落ち込みやすいし」
「クゥちゃぁん……」(※うるうるしている)
「でも、佳鈴さんがいるからもう大丈夫だよ。その場にいるのが誰であろうと明るい雰囲気を生み出す人だからね!」
(その女が余計なのよぉ……私はクゥちゃんだけでよかったのに)
「あたし、今なら美夜子が何考えてるか手に取るようにわかっちゃうなー☆」
ことわざで『目は口ほどに物を言う』とあるが、今の美夜子は正にそれ。なんなら目どころか顔全体で物を言ってるレベルであった。布団から上半身だけ起こしている半病人とはとても思えないくらいだ。
「ま、今回は勘弁してね。美夜子が何日も学校を休んでるって聞いてさ、何か困ってたりしてるかな~って顔出そうとしたら、その辺でたまたまクーちんとバッタリ会っただけなんだから」
つまり、狙って美夜子と空也の逢瀬を邪魔したわけではない。
佳鈴がやや遠回しに伝えようとしている事を、美夜子は割とハッキリ感じとった。少なくとも嘘はついていない。物事を誤魔化すことに関しては経験豊富な美夜子はそう判断できた。しかし、それはそれとして。
「あなたと私が、お見舞いに来てくれるような間柄になっていたのが驚きだわ」
「辛辣かYO。お見舞い甲斐のないヤツぅ~」
素直に「お見舞いにきてくれてありがとう」とも伝え難い。
発端はどうあれ、美夜子が楽しみにしていた空也の単身お見舞いを佳鈴が邪魔してしまったのは事実なのだから。
(クゥちゃんと水入らずで話したかったな……)
「まあまあ、そんなに照れないでくださいよ。昨日用事で来てた僕と違って、佳鈴さんは自分から美夜子ちゃん
「そだけど?」
「ほらやっぱり。つまり、誰か……先生か同級生から美夜子ちゃん家の場所を教えてもらったわけで、佳鈴さんがひどく心配してるのが目に見え――」
「た、たんまたんま! ち、違うからね!? そこまでじゃないから!!」
「…………へぇ?」
「ちょっとあんた! 何その『驚いたわ、意外ね』って言いたげなむかつく顔わぁ!!」
「あらごめんあそばせ。でも、病人がいる部屋であまり大声を出さないでね。近所の人が勘違いして通報しちゃうかもしれないから……けほけほ」
「あたしゃ強盗か何かか! ああ、ほらあんまり喋ると体に障るよ」
一見騒がしいながらも、佳鈴のツッコミボリュームは普段に比べたら大分小さめであり、美夜子の身体を手で支えながら寝かしつけようとする。そんなギャルの配慮にすぐに気づいた美夜子は、くすくすと笑みをこぼしながら横になった。
そんな二人のやり取りをにこにこ見守ったまま空也が、美夜子にとって都合のよい言葉を発したのはそれからすぐだ。
「もし、なにかして欲しいことがあったら言ってね」
「あたしも何かあればやっちゃうよ~」
(佳鈴に向けた心の声)(じゃあ、二人っきりにしてくれる? いますぐに)
(表面上)「ありがとうッ。あの、それじゃあ図々しいお願いになるけれど……今日はまだ何も食べれてないから、台所にある物で“おかゆ”なんて作ってもらえると嬉しいわ。食材や道具は適当に使ってもらっていいから」
「わかった! じゃあちょっと台所を見てくるね」
美夜子のおねだりに、意気揚々と空也は部屋を出て行く。
その背中に向けて手を振りながらご満悦そうにしている美夜子に対して、佳鈴は恐ろしいものを目の当たりにしたために若干引いていた。
「あんた……自分がやべー女だって自覚ある?」
「あら、何のことかしら。私は『して欲しいことがあったら』と言われたからお願いしただけよ。それとも何? 光笠さんは私の心の声が聞こえたとでも言うのかしら」
「美夜子があたしを邪魔に感じてるのなんて、誰でも気づくっしょ。つか、さっきあたしを睨んでたじゃん。どうせ『二人ッきりになりたいから早く帰ってくれない?』とでも考えてたんじゃない?」
「そこまで想像できてるのに帰る素振りもみせない、光笠さんの神経はずいぶん太いのね」
「今の美夜子とクーちんを二人だけにするのが心配だからね。大体、病人とはいえ自宅に男と女がひとりずつってのがもう不健全、ノー警戒にも程があるでしょ」
「女神なおギャル様の癖に貞操観念がしっかりしてるわ。頭の中でどんな想像したのかしら、いやらしい」
「弱々しい様子でわざとパジャマはだけてるヤンデレの方がエロの権化だっつーの! なーに淫靡な自分の恰好をクーちんの網膜に焼きつけようとしてんのかなー。それとも自撮りで送り付けようという魂胆だったり?」
「…………さすがにそこまでは考えもしなかったわ。あなた、NTRエロの素質あるんじゃない?」
「うそつけ最初の間は何よ、その妄想してましたといわんばかりの間・は!」
何日か分の溜まった闘争心を発散するように、美夜子と佳鈴の間で罵詈雑言が乱れ飛ぶ。空也が席を外している分、悪口のレベルもどこか上だ。
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