よわよわの甘えんぼⅡ
頭をころんと空也が見える方へと転がしながら、美夜子が弱々しく尋ねる。
「うん。あんまり長居してたら美夜子ちゃんの気が休まらないし――あ、ああ、いいんだよそんな今からマスクつけようとしなくて。ほら、僕は早々風邪になんてならないけど、美夜子ちゃんはうつるかもって気にしちゃうでしょ? だから今日はコレでおしまいにしよ。ね?」
「……クゥちゃん、ほとんど風邪ひかない体質だものね」
年がら年中空也を見ている美夜子からして、彼が風邪をひいた記憶はほぼない。ひいたとしても翌日にはピンピンしてたためだ。
ただ、思っていたよりもすぐに帰ってしまう空也に対して、美夜子はむくれた。どうせならもっと居て欲しいのにと、駄々をこねたいぐらいに拗ねてもいる。
「ご、ごめん。いまのは僕が、子供をあやすみたいになりすぎてたのと風邪ひかない自慢になっちゃって怒ったよね」
「……別に……違うもん」
半分はそのとおりなので間違っていない。
ただ、美夜子が非常に不満げなのは空也が『もっとココに居て欲しい』乙女心をまったく汲めていないためである。
(……あ、ここでもっとゴネたら、クゥちゃんに色々お願い聞いてもらえるんじゃないかしら)
などと、彼女の中で人の弱みに付け込む気満々な闇属性な思考が頭をもたげ始めてもくる。もし佳鈴が傍に居たら「な、なにこの邪悪な波動は……ッ」と美夜子の周囲に黒オーラが漂い始めたのを敏感に察知したかもしれない。
「クゥちゃん、おでこのシートを替えてもらっていい?」
「うん、いいよ」
ぺたぺた。
「熱、また高くなってきたかも。クゥちゃんから見てどうかしら?」
「そうだね……そこまでひどくは見えないけど、目はうりゅうりゅだし、ほっぺがいつもより赤いよ」
「……そう、早く治したいわね。クゥちゃんの手から元気を分けてもらえたらなぁ」
「うーん、どうやったら分けられるかな?」
「直接触るのがいいんじゃないかしら」
「それは、本人の許可がないと出来ないね」
「許可します」
「美夜子ちゃんは判断が早いなぁ」
可笑しそうにしながら、空也の手が伸びる。
とはいえ布団の外に出ている美夜子の部位は頭だけ。触るにしてもそこから選ばないとならない。完全に美夜子の思惑どおりに事が進んでいる。
しかし、外ッ面は弱った病人でありながら内心悪そうに笑っている美夜子であっても見落としていた。
(……あっ、しまったわッ)
おでこに冷えピタを貼ったばかりなので、誘導に成功したとしてもせっかくのクゥちゃんハンドの感触がわかりづらい。ちっ、と舌打ちをするぐらいには彼女はくやしかった。
でももう遅い。
空也の手は熱を測るためにおでこへと向かっている。
割と真面目に残念がっている美夜子が心の中で溜息を吐く。
しかし、その後の空也は美夜子の予想を軽々と越えてきた。
「はやくげんきにな~れ~」
「!!!!???」
なんと、空也の手が触れたのはおでこではなく頬だったのである。
この事態に美夜子の脳内では一瞬でエマージェンシーのレッドアラートが鳴り響き、体温は急上昇!
空也からすれば、おでこの冷えピタに気づいて触れる場所を変えただけだが。
軽くとはいえほっぺたをナデナデしてもらった。
そんなラッキーイベントが光の速さで美夜子の黒オーラを消し飛ばし、胸の内をトロットロッにしてしまう。
「こんな感じ……? やっぱり熱いから、しっかり休んだ方がいいよ」
「ひゃ、ひゃいい……」
空也の言動があまりにも心地よすぎて、美夜子の呂律が大分怪しくなる。
ここぞとばかりに頬に触れる空也の手に自身の手を重ね、元気になるエネルギーをさらに補充することも忘れない。
「じゃあ、そろそろ――」
「もう少しだけお願い!」
「え、でもあんまりこうし続けるのも」
「いいの! こうしてると落ち着くし、早く元気になるから!!」
傍目からすると「うわぁ……」となっても仕方のない光景だが、空也はまったく気にした様子もなく、もう少しだけ美夜子のピンク色の甘々オーラを受け入れる。
ついでに、またお見舞いに来てほしい旨を伝えて。
「あ、あした、明日も………………来てくれたら、うれしひぃ――」
「じゃあ、明日も来るよ」
再び茅実家を訪れる約束を、闇属性女子はとりつけたのだった
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