第22話:実は、けっこー上手かったりする

「あ、次はあたしの番だわ。ふふっ、よく聴いててよねクーちん♪」


 軽い足取りでお立ち台に移動する佳鈴。彼女が歌ったのは誰もが一度は聴いているであろう最新の流行曲だった。


 明るくてノリノリな曲調は場の空気を暖めるにはもってこい。その手のノリが苦手な美夜子以外は手拍子やタンバリンを用いて、佳鈴の歌を盛り上げていく。


《落ち込んでばかりじゃつまらないから、無理矢理にでもテンション上げていきましょう~♪ それがあたしの生きる道~♪》


 女神ギャル様は持ち前の明るさも上乗せして、上手いとか下手とかそういうのは関係なしに見事に歌いきる。とても楽しそうにとても満足そうに。

 

(……うっ、溶けそう)


 あふれでる光のオーラに美夜子だけがダメージを受けそうだったが、されど毛嫌いしてるわけではない。むしろうらやましそうに彼女の歌う姿を眺めていた。


「は~~、この歌やっぱいいわぁ~♪ ほい、次あんたの番ね」

「え、ちょ……」

「いいから一回歌ってみなさいって。別に何歌ったっていいんだからさ、ね? クーちんも聴きたいよね」

「ええ、もちろんですよ」

「……そ、そこまで言うなら」


 背中を押されまくった美夜子が、タッチペンを持ってしばし悩んだ末にデンモクに入力していく。流れてきたのは超有名なアニメ映画曲のイントロだった。


「おっと、めちゃくちゃ有名なのじゃないっすか」

「意外なチョイスだわ」

「あ、これなら僕もわかりますね」


 三者三様の反応の中、お立ち台に移動せずにその場に座ったままマイクを手に取る美夜子はかなーーーり緊張しまくっていた。ガチガチとは正にコレ、といわんばかりに。


(……で、出だしはどうだったっけ!?)


 表面上は平静そのもの。むしろクールに見える程なので、内心と外見のちぐはぐさが半端ない。このままだと確実にミスってしまうだろう、それは嫌だがどうすればいいのかわからない。


「大丈夫だよ、美夜子ちゃん」


 そんな気持ちを何を持って察したのか。

 隣の空也がそっと声をかける。


(あ……)


 それだけで、美夜子は落ち着きを取り戻した。

 ちょうど始まろうとしている歌の出だしも、つっかえることなくスムーズに声が出せる。普段はぼそぼそと喋ることの多い美夜子の口から、耳に心地よいメロディが紡がれていった。


《優しい木漏れ日のようなあなたに包まれるのは~~♪ まるで幾万の愛のメッセージを伝えられたようでした~~♪》


(うまいっすね!?)

 初めて美夜子の歌を聞いたあやちーがとても驚き。


(すごいわ。ま、まあ負けるつもりはないけどッ?)

 佳鈴は内心で負け惜しみを口にして。


(やっぱり美夜子ちゃんの歌はいいなぁ……)

 彼女の歌声を知る空也は、その心地よさに身体を任せた。


 ◇◇◇


「……ふぅ」


 慣れないことをして疲れたのか。曲の終わりと同時に美夜子が一息吐く。

 周りからはパチパチパチと静かな拍手が送られていた。


「いやー、よかったっすねー!」

「そ、そうね……よかったわね」


「あ……ありがとう?」


 光属性のギャル達に素直に褒められ、美夜子は困惑しながらマイクを置いた。


「うん、よかったよ美夜子ちゃん!」

「ありがとうクゥちゃん♡」


 一方で、空也に褒められた途端にデレデレに顔を崩すあたり、美夜子もイイ性格をしていると言えよう。


「ちょっとアタシらと対応違いすぎないっすかね」

「ね~? もうちょっと可愛げがあってもいいっしょぉ?」


 その不満げな声は、空也に褒められて嬉しさ爆発している美夜子の耳にはもう届いていないようだった。


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