第13話:ヤンデレ&女神ギャルの好きな物トーク

「フラッペって……何?」

「え”っ、フラッペ知らん? マジで??」


 まさかの返しに衝撃を受けた佳鈴が横で歩く美夜子の表情を覗う。そこに偽りなど微塵もなく、本当に知らないといった雰囲気しかなかった。


「コンビニでも売ってるじゃん。アイスとか氷があるエリアでさ、こーゆうちょっと大きいカップに凍ったのが入ってて、あっついミルクで溶かす――」

「??? ……凍ってるのに溶かすの?」


 ――あ、これガチだわ。

 そう判断した佳鈴はスマホを取り出して高速操作。フラッペが載っているページと、それを飲んでいる自分と友達が写っている写真を見せる。


「これ。こういうヤツよ」

「……美味しそうに吸って飲んでるようね」


「間違いなく美味しーからね! ジュースとアイスの中間っていうか、冷たくて美味しい飲むアイスみたいな? 初めて飲んだ時は感動したわ~、こんな甘くて美味しいもの生み出した人は天才じゃんねって」


 大仰な身振り手振りを交えた佳鈴のフラッペ語りを聞いて、美夜子の喉がこくりと鳴る。俄然興味が沸いてきたのは明白であり、その時点で美夜子は佳鈴の好きな物トークに引きこまれたといっていい。


「今度飲んでみなよ。コンビニにも、カフェにもあるし」

「き、気が向いたらね」


「うんうん。んじゃ次はあんたの番ね、何か食べたい物は?」

「…………はちみつたっぷりのハニートースト」

「ハニトーとか重いのキタァ!! え、なに、意外と某カラオケ店とかに通ってたりするん?」

「いいえ、そういう場所には行かないわ。ただ前に甘味屋さんで食べたことがあって、それはとても美味しかった」


「甘味屋って和風じゃない? なんで洋風のハニトー??」

「どっちも扱ってるお店なのよ。ケーキとかゼリーも絶品よ」

「へぇ~、そんなお店もあるんだ。どこにあるの、教えてよそこ」

「嫌よ」

「この流れで拒否するフツー!?」


 などと表面上は驚いてみせたが、佳鈴は美夜子から店名を教えてもらえるとはあまり思っていなかった。そもそもコレだけ話が続いてるのも珍しいのである。校内で会う時は多少あれど、大概はスルーされるか無言で通り過ぎるか。

 そうでない時というのは専ら近くに空也がいる時であり、良くも悪くもお互いバチバチにやりあっている印象が強い。そのどれとも違う今の状況は、そんなことをする気が起きないレベルの疲労によって美夜子の頭が回っていないからだろう。


 だから、和風美人的な美夜子が割と洋菓子系を好んで食べているという情報は、佳鈴にとって新鮮でもあり純粋に意外でもあった。


「まあいいけどー。でも美夜子は和菓子ばっかり食べてるイメージあったわ。見かけだけじゃ好物は判断できないって事か」

「よく食べるわ、家でたくさん出てくるから。……だから、外でしか食べない洋菓子が好きなの」


「あー……もしかしなくても美夜子ん家の闇に触れた感じ? 安心して、あたし黙ってろって言われれば口は硬い方だからさ」

「単に家族みんなが和菓子好きってだけよ。洋菓子ばっかり食べてるであろうあなたにはわからないでしょうけど」


「いやいや和菓子食べますけど? むしろ羊羹とか好物だって」

「……意外だわ。てっきりケーキばっかり食べて体重と闘い続けてるとばっかり」


「え? 確かに色々食べてる気はするけど、みんなが想う程そんな簡単に太らないしょ? その分動けば減るし」

「●ねばいいのに……世の中の女子たち全員の怨念をその身に受けてぶくぶくブタになってしまえッ」


「うわこわ~、そんな怨念とんできたらバリアではじき返すわ。あんたに」

「それで本当に太ったら、あなたをピーーー(※とても空也には聞かせられない言葉なためピー音が入っております)するわ」

「そんな無駄な労力使う前にさー、無駄にお肉ついちゃったところを減らせばいいじゃーん」

「どこを見ながら言ってるの!?」


 佳鈴の視線が集中しているのは、少し前に通り過ぎた男子達がちらちら見てたのと同じ場所だった。


「……でっかいよねぇ」

「しみじみセクハラしないで欲しいんだけど!?」

「女同士なんだからそんなに気にしないでいいっしょ。あー、あたしもそれぐらいあったらな~」

「それは無い人の浅はかな考えね。私がどれだけ苦労してると思って…………っ」

「いやありますし? これでも平均以上はよゆーですけど?? でも美夜子が言ってるような苦労はいらないかな。あーでもクーちんはそっちのが好きだろうしな~」


「……今なんて?」

「そこは喰いつくんだ……」


「当然でしょ。クゥちゃんの好みだもの、知りたいに決まってるわ。そもそもあなたはその情報をどこから得て――あっ!」


 疲れている美夜子が距離を詰めようとした際に転びかけ、その身体を佳鈴が「おっと!?」と支えた。


「ああほらほら、ただでさえ足元おぼつかないのに急に早口でまくしたてるから~。この坂登りきったら休憩所あるっぽいから、そこで一回休もっかね」

「……そ、それより、クゥちゃんの好みを…………」


「思いっきりセンシティブな話になるけど、それはいいの?」

「く、クゥちゃん関連なら、どんなものであろうと我慢する覚悟が、あるわッ」


「お、おもっ……さすがというかなんというか」

「どーせ……《重愛なヤンデレ》だもの。ねぇ《NTR好きの女神ギャル》さん?」


「いや、そっちの重さもあるけど、あたしが言いたいのは物理的な重さだし。そのでっかいものの分だけ重力がヤバミ……」

「じゅ、重力はあなたも私も同じ分しかかからないでしょ!」 

 


 そんなこんなで坂を上りきって、マラソン大会道中はようやく半分程度。

 まだまだ二人一緒にコースは続く。



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