可愛い女の子はうんこをしない

うなな

第1話 臭い匂いに対する妄想

 鈴木は思った。女体とは何と美しいものか。そんなことは世間一般に当たり前のことのように思われるかもしれない。しかし、鈴木の場合は、さらに一歩踏み出していた。言うなれば美しさの観点が違うのだ。他人は言うだろう、顔が綺麗だ、胸が大きい、くびれが素晴らしい、しかし、鈴木にはそのあたりの興味が希薄であった。もちろん顔は綺麗な方がいい、それは鈴木も同意見であったが、問題はその他のパーツに関する部分である。「おっぱいが綺麗だ」、何を持って綺麗と言うのか、「くびれが素晴らしい」、そこは本質的なものなのか?鈴木にとって女人は女神であった。神々しく眩しく、そして美しい。そしてその美しさとは、一切の臭い汚い物質を排泄しないこと。それが鈴木の考える美しさであり、いくら胸が大きくあろうと臭い匂いを発する女人には何も興味を覚えなかった。


 臭い物、汚い物の代表と言えばうんこであろう。鈴木は女人のうんこの存在を否定した。より正確に言うと美しい女のうんこを否定した。そして、こう主張する。

「うんこをしないのであれば肛門もないはずだ。」

これが鈴木を構成する女に対する全て、期待する全てであった。


 鈴木には好きな女性がいた。その名は綾子、お淑やかで可愛らしい、仲間内では皆の憧れの的であった。鈴木はこの綾子こそ、真に美しい女ではないかという期待を込め、日々妄想を繰り返していた。鈴木は毎夜、ベッドの上で綾子のことを妄想する。セックスを想像するのではない。鈴木はセックスに興味がなかった。あるのは女人に対する匂い、またその排泄物であった。鈴木は想像した。便意に悶絶する綾子の姿を。そしてトイレに駆け込み排便をする姿を。しかし、鈴木には矛盾があった。真に美しい女である綾子が糞をするはずがない。全く論理的整合性が取れていない。糞をしないはずの存在が排便を行う。これは鈴木にとって一種のカタルシスであった。


 また鈴木は思った。綾子の足の匂いはどうなんだろうか。通気性の悪いブーツを履かせ一日連れ歩いたところを想像した。

「ああ、このブーツの香り。一体どんな素晴らしい匂いが…。」

臭い匂いを発しないことは確かである。少なくとも鈴木の中では。妄想は膨らみ続ける。


 臭くないはずの物が臭かった場合、一体人はどのように感じるのか。人一倍、女人に対する感度の高い鈴木にはそれはとてつもないことであろう。とりあえず臭いという設定でベッドの上で一人、事を終えた。


 賢者になった鈴木は思い出した。明日、飲み会で綾子に会うことに。一体どんな顔して顔を合わせればいいのか。空想とはいえ排便まで見てしまった女に対してまともな受け答えができるのか。いささか心配ではあるが、夜も遅かった。鈴木は明日に備えて早く寝ることにした。綾子に会うことだけを楽しみに。今日はいい夢が見れることだろう。

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