第30話 生産技能のレベル上げ

「だから、2人にはそれらのアビリティがおすすめかな。……とはいえ初期はAPが少ないから、まずはステータスアップ系のアビリティレベルを上げたり、他の戦闘技能や効果アビリティを覚えてからになるだろうけどね?」


 そう言って2人の方を見ると、何やらメニューを見て操作している姿が見えた。えっ、まさか。


「「…………えっと、もう取っちゃいました」」


 テヘッと笑いながら、それぞれ【鍛冶】と【錬金】を習得したことを報告してくるランスとミリィ。その光景に僕は思わず額に手を当ててしまった。


「その……2人共。判断が早いのは結構だけど、こういうのはもう少し考えてから行動したほうがいいと思うよ……?」


 まぁ、一度習得したアビリティは特殊なパターンを除いて『忘れる』ということができないので、取ってしまったものはもう仕方がないと割り切るしかない。


 AP――アビリティポイントは先ほども話したが、アビリティを習得する際やステータスアップ系のアビリティのレベルアップに必要となるポイントとなる。


 プレイヤーはゲーム開始時にボーナスAPとして1ポイントを既に持っており、そこからレベルアップ毎に1ポイントずつ得られるようになる。なので序盤はレベルの数がAPの総量と思っても問題ないだろう。


 他にはアビリティレベルが最大になれば、その最大レベルに応じてポイントが貰える仕様になっている筈だ。まぁ、ベータテストの時は戦闘技能や生産技能の方は最大まで上げられなかったのでどれだけ貰えるか不明だが、レベル10までのアビリティだと確か1ポイント貰えた筈だ。


 ただ、それだけだと入手手段が少なすぎるので、一応公式からは後々、他の手段でも入手できるようになると発表されているが、どうなるのかは今の所は分からない。


 今回の場合、ランスたちはレベル3なので3ポイントある形になる。


 アビリティの習得には基本的に2ポイント必要なので、もしさっきの生産技能以外に使っていなければ、あと1ポイントは残っている筈だ。


 まぁ、その残りは取っておくか、ステータスアップ系のアビリティレベルを上げるのに使えばいいだろう。基本的にレベルを上げる場合は、1ポイントで1レベル上げることができる。


「……あれ? リュートさん、『パワースマッシュ』覚えてないんですけど……」


「いや、うん……それについてもちゃんと説明しなかった僕も悪いけど、実はさっき説明したスキルやアーツは、覚える為にある程度アビリティレベルを上げる必要があるんだよ」


 そもそも、最初から戦闘系のスキルやアーツを覚えていたら、それは生産技能ではなくて戦闘技能の部類になる。あくまで戦闘にも使えるというスキルになる。


 確か、ベータテストで『パワースマッシュ』を覚えたのはレベル5の段階だった筈だ。【錬金】はもう少し早いがそれでもまずはレベル2に上げる必要がある。


「だから、使えるようになるにはまず『鍛冶』スキルや『錬金』スキルで生産活動をして、地道にレベル上げする必要があるんだよ」


 僕がそう言うと2人はショックを受けたような表情で項垂れる。一喜一憂が激しすぎて、側で様子を見ていたルヴィアがとうとう腹を抱えて笑いだしてしまった。


「……まぁ、生産活動自体は生産キットを使えば、スキルを使う形で半自動で生産できるし、品質は悪いけど回数を重ねれば、それでも経験値は得られるから、夜時間みたいに外を出歩くのが危ない時とかにこまめに上げてみるといいよ」


 まぁ、ベータテストの通りならば、という逃げの言葉は付くのだが。かくいう僕も生産技能による レベル上げはその夜時間にでも行う予定だった。


 さっきのファスタの街の門は夜間は封鎖され、門番に特別な許可を貰わなければ通行できなくなるらしい。


 また、宿屋の話の時にも触れたが、夜時間のときにはモンスターの分布やレベルも変わって、あのファスタの草原でも森の奥に近い推奨レベルとなるらしい。


 まぁ、敵が強くなることで獲得できる経験値も多くなるということで、敢えて夜間に戦闘してレベル上げに勤しむプレイヤーも少なくないだろうが、夜間は暗くて周りも見えづらい事もあり、ベータテスターたちですら終盤になっても夜間の探索では命がけになることが多かったらしい。


 まだその夜間が来てないのでなんとも言えないが、おそらくその点は変わっていないだろうと思われる。


 このゲームでは時間加速の影響もあって6時間フルでログインすれば必ず夜時間が来るので、序盤の育ちきっていない状態では、宿屋に泊まってスキップする以外だと、街の外に出ずに引きこもって生産技能などのレベル上げに勤しむか、ログアウトしてリアルで3時間程待つしかない。


 因みに時間帯は細かく分けると早朝・朝・昼・夕方・夜・深夜の6つに区切られており、それらが4時間毎に切り替わる形となる。


 早朝が3時から7時まで、朝が7時から11時まで、昼が11時から15時まで、夕方が15時から19時まで、夜が19時から23時まで、そして深夜が23時から翌3時まで、という風になっており、それぞれの時間帯が現実世界の1時間に割り当てられている。


 これらの時間帯の中で、夜時間に該当するのは夜と深夜と早朝の時間帯となる。なので、夜時間になって現実で3時間待てば、早朝になるというわけである。まぁ、これも宿屋のときに触れたことだが。


 今はゲーム内で15時になろうとしており、ちょうど昼から夕方の時間帯へと切り変わろうとしているタイミングだった。つまり、現実の11時前くらいになる。


「分かりました。取り敢えず、俺たちも時間のある夜時間のときとかに試してみます」


「そうするといいよ。因みに【鍛治】の場合、素材には鉱石が絶対に必要だから、露天で買うか採集で調達する必要があるよ」


 そう言うと、ランスは既に特殊技能の【採掘】を習得済みなので、後で集められるときに自分で集めると言っていた。


 まぁ、地図によると南門の方では鉱石を得られる採集スポットは少ないようなので、量や質を求めるのなら北門以降に行く必要があるのだが、その点は後で自分で地図を買ったときにでも気付くだろう。


「そんなことよりも主殿」


 ふと、今までは笑ったりする以外は無反応だったルヴィアが急に声をかけてくる。


 何かあったのだろうかと周りを見たが、特に何てことはない。森に少し近づいた程度だ。


「どうかしたのか、ルヴィア?」


 僕が心配してルヴィアの方を見ると、彼女はお腹に手を当ててから、こう言った。


「――腹が減ったぞ!」

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