第88話 意外な才能、周知の事実
「…………うーん、何故だ? 同じように見えるのだが、お前の焼いたほうが旨い! 旨い!!」
結果、スズ先輩に作ってもらった方は、美味しいことには美味しいのだが、僕のものよりやはり少し劣る感じの味となった。
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鳥のスパイス焼き(普通品) ☆1
分類:食事アイテム
効果:空腹値を20%回復
品質:やや低
製作者:スズ
鳥肉をスパイスで味付けして焼いた一品。獣臭さをスパイスの香ばしい香りで抑え込み、噛むと肉汁が溢れ出す。ただし、素材本来の味を引き出しきれていない。
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鑑定結果にも書かれている通り、どうやらスズ先輩は素材の味を引き出しきれていないらしい。
ということはやはり【料理】の有無が味にも影響しているのかもしれない。
……そして、これをやってみて気付いたのだが、【料理】の有無は僕がアビリティを付け外しすれば良かっただけの話だったのではないか? まぁ、結果オーライなので問題ないだろう。
後はDEXの数値も大きく関係するかもしれないな。
その後、DEXが高めのメンバーに作ってもらったのだが、彼らが全く料理をしない為かどうかは知らないが、生焼けもしくは黒焦げの肉が出来上がった。……誰が作ったのかは本人の名誉のために秘密にしておこうと思う。
勿論、それらは食べることで空腹値を回復することができるものの、食べると生焼けはVITとMIN、黒焦げはATKとINTが一定時間下がることになるようだ。
おまけに食べたあとはしばらく『食あたり』という状態異常が発生し、一定時間継続ダメージを受けることとなる。
食あたりは状態異常回復スキル等で回復できるものの、ステータス値のマイナスは他のスキル等では上書きできない仕様――どうやらマイナス効果発動中はその項目のステータス変化が一定時間中固定されているらしいので、好き好んで食べる必要はないだろう。
これらも作った本人が試していた。そこまでしなくても鑑定で確かめられたから、良かったのに。
まぁ、使うとすれば敵性モンスターを誘き寄せる餌だろうか? ただ、これをモンスターが食うかどうかと聞かれると、首を傾げてしまうな。
それにしてもこのゲーム、状態異常の数が多すぎるな。特殊なものも含めて、物理系と精神系とで数え切れないほどある。……まぁ、だからこそ状態異常のみを対象とした耐性の項目である『RES』が個別で存在しているのだろうが。
取り敢えず、採掘の時に戦闘に交じれない僕は、時間を持て余してしまい、人数分以上の料理をどんどん作っていく。
気付けばアイテムボックスの所持数ギリギリまで作ってしまったことで、アビリティレベルはいつのまにかレベル6まで上がっており、プレイヤーレベルもさっきの【調合】では1つも上がらなかったのに今回は2つも上がることとなった。この違いはなんだろう……?
元から料理はよくやる方だったので単純に慣れている為なのか、【調合】や【加工】よりも身の入りが良く、レベルの上がりも良かったし、やはり経験の差だろうか? うーん、分からないな。
一応、僕は【炸裂魔術】という攻撃手段を得たので戦闘そのものは可能な筈だったのだが、それがこの閉鎖空間に適しておらず、何回か使った際に危うく味方を巻き込みかけた事から、途中でウルカたちに使用禁止を言い渡されることとなった。
なので、僕の戦闘でのレベルアップはレベル9でストップしていた。なので、今回の【料理】を含めるとレベル11になったことになる。
因みにレベル10に到達した際に、再びドラゴン召喚コストの低減化と召喚時の貢献度割合の変更が発生し、ボーナスアビリティポイントを3ポイント獲得した。
もしかすると、5の倍数レベル毎にこのドラゴンに関連する項目の変更や、ボーナスアビリティポイントの配布などがある感じなのだろうか。
コストや経験値関連の方はともかく、レベル毎にボーナスAPを得られるというのはありがたいな。
「しかし、【料理】のアビリティというのは持っておくと便利そうだな。うちも誰か習得しないか?」
「それなら、言い出しっぺのユートピアが習得すればいいと思うよ?」
戦闘はローテーションで行っていた為、休憩中のメンバーは生産活動中の僕と一緒に座っている形になる。
僕が料理でどんどん食事アイテムを作っていくところを目撃したユートピアがそんなことを言うものだから、一緒に休憩していたメイヴィに釘を刺される。まぁ、そうなるのは仕方ないだろう。
ただ、ユートピアは割と本気で取ろうかどうか考えているようで、レイドイベントが終わってからAPが残っていれば取得するつもりのようだ。まぁ、あると便利なので止めるつもりはない。
僕がわざわざ作るのはこれがプレイヤーレベルの経験値を稼ぐ方法でもあるからというのが大きいし、そもそもこういう作業があまり好きでなければNPCショップあたりで安くて美味しい料理を購入したほうが良いとは思う。
バフ効果さえ気にしなければ、それなりに安いわけだし。まぁ、 それはオート生産も同じか。
まぁ、取った後にどう思うかはユートピア次第なので僕はそれ以上は気にかけないことにした。
その後皆が集まったタイミングで、経験の竜玉を含めて生産アイテムをかなりの量を作ってしまって持ち切れないという名目で、他のメンバーに分配することになった。
まぁ、みんなそれなりに食事アイテムは持っているだろうからあんまり貰ってくれないかなと思ったが、予想外に食いつかれてしまい、経験の竜玉もろともあっという間に無くなってしまった。
どちらも最低限自分の分は取っておいたものの、まさか食事アイテムの方も全部はけるとは思わなかったな……。
「それにしてもリュートの作ったアイテムって、品質がとてもいいのもあるけど、それ以前に効果が凄いわよね。【鑑定】持ちじゃなくても流石に分かるわ……」
そう言ってウルカは経験の竜玉を眺めながら呟く。品質が良いと言っても、やや良って感じだから実際はそうでもないぞ?
「いや、十分凄いわよ。そもそも、狙って品質のいいアイテムを作れるのって意外と生産職でも難しかったりするのよ?」
オキナもそうだとアイギスは言っていたが、流石に俄には信じがたいな。だって、普通に作ってこれだぞ?
「リュートはそろそろ自分の店を構えても良さそうよね。この初級ライフポーションなんて、レベル制限に引っかかってもまだ70も回復するんだもの。これを売れば儲かるわよ」
そう言ってウルカは前に渡しておいた初級ライフポーションをアイテムボックスから取り出す。確かHPを80回復する効果の奴だったな。自信作だ。
そういえば初級ポーションの回復量のレベル制限なんてあったな。鑑定ルーペで僕はようやく知ったけど、ウルカは知っていたのか。まぁベータテスターだから知っててもおかしくはないか。
元々80回復だった効果は、70回復とおよそ10ポイント分減ってしまっている。まぁこればかりは仕方ない。初級の次のランクのポーションは流石にまだ作り方がわからないので作れずにいた。
だが、それは普通の店売りのものでも同じくらい減少しているのだろうと言ったら、ランスがブンブンと首を振る。大丈夫? 取れない首?
「いやいやいや! NPCの店で買ったやつとか、普通に50回復のが25回復まで減りましたからね! それに比べたらリュートさんのは段違いで高いですよ!」
「えっ、NPCの店売りのやつってそこまで下がるのか?」
それだと回復量が半減してしまって、ほとんど使い物にならないんじゃないか?
「……因みに調合スレで自慢してるプレイヤーの場合、質が優秀でも最大の回復量が70ポイントで、レベル制限時に55ポイントって感じになってるわよ。リュートくんは知らないだろうけど」
アイギスがそう言って掲示板で何やら調べ上げてから読み上げる。
……ん? いやちょっと待ってほしい。その掲示板、調合スレなんて名前なのだから、そのスレの住民はおそらくだが生産職の調合士が多いはずだよな? しかしそうなると、僕は調合士よりも効果の高いものを作ったってことにならないか?
「いや、流石にそれはおかしいでしょ!? 魔導杖だってたまたま……」
「そうでもないのよ。だって普通、生産活動にはその対象の生産キットしか使わないものなのよ?」
「あ……」
そう言われてみると、確かに僕の場合は生産キットに入ってないナイフで切断したり、布で越したりしてたから、効果が上がったんだっけ……。
意外とそういう創意工夫というものがこのゲームでは実は大事だったようで、故に僕のポーションは効果が高いというらしい。
まぁ、遅かれ早かれその事実に他の生産職が気付けば、あっという間に抜かれてしまうだろうが。
「さっき、調合の様子をチラッと見せてもらったけど、例の魔導杖も含めてリュートくんはおそらく、自分で思っている以上には生産の才能があると思うわ。品質以前に、効果が違うんだもの。……私の見立てでは異なる傾向の複数の生産技能による相乗効果や、君の覚えてる【後方支援】が生産にも作用している可能性とかもあるし、高いLUKが作用した可能性もあるわね」
アイギスがそう説明すると、周りにいたメンツ全員がウンウンと頷いている。もしかして、みんなそう思っていたの?
アイギスは異なる傾向の生産技能を複数習得している事での相乗効果があるのではと考え、それ以外で生産に補正を与えているのなら【後方支援】辺りが怪しいと挙げる。
もし、「ものを作るのも後方支援」などと運営が考えていれば、生産に隠し補正なんてあってもおかしくはないだろう、というのがアイギスの考えのようだ。まぁ、確かに『クイックメイク』なんて覚えるくらいだからな。
「そもそも普通は『これをやってみよう』、『これ使ってみよう』とか思っても、固定概念とかがあって簡単にはでできないものなんだよ。そう考えるとウルカの弟君の長所は、飽くなき探求心ってところなのかもしれないね?」
「まぁ、昔から色々手を付けるのは好きだったもんねリュートは」
コトノハとウルカはそういう感じで僕のことを評価していたらしい。割と近めで僕を見ていたであろうスズ先輩も二人の評価にうんうんと頷いていた。
「そうね。オキナと同じ――って言ってしまうとリュートくんは多少不服かもしれないけど、多分性根のところは似たような感じだと思うわ。アイツも試行錯誤大好きマンだし。まぁ、それでもこの品質……というか効果の良さはおかしいレベルだけど」
アイギスはオキナのことを褒めてるのか貶してるのか、どっちとも取れるような発言をする。そういえばオキナは完全に生産方面をやり込んでいる感じなんだよな。僕もやり込めばあそこまで……いや、ならなくていいや。
「そもそも生産職も普通は1つの技能しか育てないし、他に育てるとしても同系統の技能くらいしか上げないから、全く異なる複数の技能持ちだからこそ相乗効果で高い技術を得られる……なんてこともあるのかもしれないな」
ユートピアは僕が調合や加工、料理をしている様子をたまに側で見ていたので、そう思ったらしい。
確かにジョブ案内所でも言われたが、系統の違う生産技能は専門の生産職に就くと効果がかなり落ちるというから、専門の生産職だとあれもこれも良いものをというのは難しい話だろうな。
「それに、こうして外を出歩くからこそ、色々刺激を受けて思いつくことがあるのかもしれぬでござる」
「……うん、刺激は大事」
スミレは僕の作ったクナイに似た形の投げナイフを、ミリィは灰狼の魔導杖・序を見ながらそう呟く。
「だから、店の方も期待してるわよ? するのなら、回復アイテムはなるべく安くお願いね?」
「アハハ……」
アイギスには肩をたたかれてそう言われた後にウインクを投げかけられる。なんか色々期待されてしまったが、僕は笑って誤魔化す。
しかし、みんなしてめちゃくちゃ褒めてくるから少し嬉しくなってしまった。
それにしても自分の店か……。将来的にはいつか、とは考えていたもののここまで待望されてしまうと、もうちょっとちゃんと検討してみようかな?
まぁ、何にせよこの新エリア探索、そして邪竜討伐が落ち着いてからの話にはなるだろうけど、頑張ってみようかな?
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