第79話 特訓終了!(※アイギス視点)

 ――アイギスSIDE――


 ランスくんとミリィちゃんの秘密の特訓という名のパワーレベリングを始めてそれなりに時間が経ったけど、2人ともレベルを上げるためにすごく頑張っていたわ。


 その中身は、私が盾を構えてから【盾術】スキルの『引き寄せ』を行い、敵を引き寄せてからランスくんとミリィちゃんが、1人で1体ずつ攻撃して倒していくという至極シンプルなものね。


 けど、侮るなかれ。『引き寄せ』によって敵のヘイトはこっちに移っているので、2人はとにかく攻撃し続ければいいの。そうすることで安全に、そしてあっという間にレベルが上がるという寸法よ。


 たまに2人の方に敵のヘイトが向いたときは、私が【護衛術】のスキルである『ターゲットマウント』を使って再びヘイトを私の方に向ける。このスキルは同格以下の敵に対して強制的にヘイトを取るという効果だから、こういうときに便利ね。


 その間、私は攻撃を受けても大丈夫なようにずっと盾を構えているから、スキルの使用と合わせて、自ずと騎士のジョブレベルや【盾術】と【護衛術】のアビリティレベルが上がっていくという、お互いにウィンウィンなレベリング方法ってわけ!


「はぁ……はぁ……」


「………………」


 因みに今の時刻はリアルの時間だと17時を回っていて、休憩やログアウトを除けば、丸一日分はずっと戦いっぱなしになる。ログアウト時はこの坑道のセーフティーエリアを使わせてもらったのでモンスターの攻撃は気にしなくてよかったわ。


 普通なら夜時間になると、同じ場所でも数レベル高い敵と戦うハメになるのだけど、この『棄てられ坑道』は何故か夜時間の影響を受けない場所となっているので、一日中同じレベルの敵と戦うことができる。


 多分、洞窟になっているからだと思うけど。ダンジョンも多分同じ理由で、時間に関係なく一律の強さなのよね。まぁ、あっちは先に進むほどレベルが上がっていく仕様だけど。


 なので、レベル12相当まで上げるのにはちょうどうってつけな場所だったのだ。ここも、先に進めば更に推奨レベルとかは上がるのでしょうけど、先が崩れてて行きどまりなのよね。


 ただ、流石に連戦しすぎたのか、2人のステータスにはずっと『疲労』の状態異常が発生している。こまめに休みはしたものの、それでも疲れというものは蓄積されていくもののようで、取れきれなかった疲れがドッと押し寄せてきたのだろう。


 幸いにも、2人のレベルは既にレベル12に到達しており、目標は達成していたのだけど。私の方もそれなりに育成できたわ。【盾術】もレベル12を越えたしね。


「お疲れ様! 2人とも、よく頑張ったわね! 凄いわ! 偉いわ!」


 私は2人に労いの言葉をかける。あまりに疲労困憊すぎて返事も返せなさそうだったが、取り敢えず顔が綻んでいたので問題はなさそうね。


 それから、私達はしばらく休憩することにした。このまま ログアウトしても良かったのだが、せっかくならもっと強くなりたいという2人の意見を尊重して、特訓は続行することとなった。


 とはいえ、これ以上のレベル上げとなると、効率的には夜時間での外での戦闘というかなり危険な場所での戦いとなるので、正直あまりオススメはできない。私も言ってレベル13なのでこの子達と大差なかったりする。


 なので、ここからはジョブレベルやアビリティレベルを中心に鍛えてあげることにした。それなら、この洞窟に出てくるモンスター相手でも十分に達成できるでしょう。


 そんな時、ふと洞窟の入口に人影が映る。この坑道は『棄てられ』と言われているがまだまだ普通に採掘可能であり、時折採掘をしにプレイヤーが足を運ぶことがある。


 ここは『北の鉱山の麓』の次に採掘の採取スポットが多いエリアだし、さっきまでのレベリングの最中も何人か通って行ったわね。こっちの方が麓よりはまだ安全だから、人気があるのよね。


 今回もそんなプレイヤーかしら――と思っていたら、それは見覚えのある姿だった。


「あら、ウルカじゃないの! 久しぶりね! 元気してた?」


 そこにいたのはかつてベータテストで共にプレイすることがあった知り合いのウルカだった。その横には同じく知り合いのコトノハの姿もある。2人ともベータで見覚えのある装備を身に着けていた。


 その更に横には鉱夫のような格好をした女子と忍者のような格好をした女子が並んでいる。え? コスプレかしら? そういう格好、お姉さん嫌いじゃないわ!


 因みにウルカとコトノハの2人は、ベータからの付き合いなので呼び捨てで呼んでいる。その点はオキナも同様だ。


「まぁ、元気にはしてたわ。それにしても、どこにいるのかと思ったらまさかこんなところで特訓してたなんてね」


「いいでしょう? ここなら籠もっていればすぐにレベル12まで上がるわよ?」


「まぁ、私たちはもうレベル13だから必要ないけど……まぁ、この子たちには必要かもね」


 そう言ってウルカは先程の鉱夫っ子と忍者っ子に視線を移しながら説明する。成る程、この2人は今のウルカたちの新しいパーティーメンバーってわけね!


「それにしても、よくその装備を手に入れられたわね? ベータだと確か高難易度ダンジョンで手に入れられた装備でしょう?」


「あー、これね。一応同じ装備だけど、性能はあれ程高くないのよ。一応、ダンジョン産ではあるけどユニークじゃないし」


 彼女らが着ている『銀竜の鎧装』に『戦剣の鎧装』は、ベータだと管理されている高難易度ダンジョンを踏破しないと手に入らない装備で、かなり高性能な防具だったのだけど、どうやら本サービスでは大きく機能が下げられてしまったらしい。お陰ですぐに手に入ったみたいだけど。


 まぁ、本サービスではダンジョン産などのドロップ系装備も装備強化ができるのだから、後にはあの時と同じくらいの性能になるのだろう。ベータだと生産品しか装備強化できなかったから、ドロップ系は結構ピンからキリまでって印象だったのよね。


 しかし、何故ウルカはわざわざここに来たのでしょう? 私に会いに来たらしいけど、特に用事があるわけでは無いだろうし。


 一応、フレンドなら大体どのエリアにいるのかっていうのは分かったりするのよね。


 そう疑問に思っていると、ウルカは休憩していたランスくんとミリィちゃんの方に向かって歩いていく。


「えっと、あなたたちがランスとミリィね? 私はウルカよ。弟が世話になったみたいね」


「えっと……どうもです」


 確認するとウルカはにこやかな笑みを浮かべる。へぇ、ウルカってリュートくんのお姉さんだったのね。それにしてはあまり歳が変わらないようだけど……。


「……それで、ウルカお姉さんは私達に何の用ですか?」


「えっとね、これをリュートから預かってきててね…………よいしょっと」


 そう言うと、ウルカはアイテムボックスから木製の長槍と、何やら灰色に染まった木製の杖を取り出す。


 ハハーン。これを渡しに来たわけね。おそらくリュートくんに私が彼らの世話を焼くだろうと推測されて、私を探しに来たわけか。成る程、推測通りよ。リュートくん。


 長槍の方は色的にナプタ堅木を使ったやつかしら? そして杖の方は……先の方にあるのはもしかして、魔核?


 槍は相当な出来みたいだし、杖は少し色褪せて見えるけどそれでも見たことのない感じの武器だから、結構強そうなんだけど。


「これは……?」


「リュートがあなたたちの為に作った武器らしいわよ。是非とも使ってくれって言伝を貰っているわ。因みに返品は認めないからそのつもりで……とも言っていたわ」


 どうやらあの2つの武器はリュートくんが作った武器のようね。確かに生産技能を持ってるって言ってたけど、【加工】を取っていたのね。まぁ、【鍛治】よりも扱いやすいから妥当だとは思うけど。


 それにしては、槍の出来良すぎない?


「えっ、これ……店で売ってた木の槍より強い……しかも鉄の槍より武器耐久値が高い……」


「……こっちは全然見たことのない性能、してる。しかもランクが星5つ……」


「はぁぁぁぁぁぁ!?」


 そんなランスくんやミリィちゃんの呟きを聞いて、私は思わず叫んでしまう。ウルカは同情するように頷いていた。


 長槍の方は百歩譲って、リュートくんが器用だから出来たっていうのなら理解できる。材料とかもあるだろうしね。


 ただ杖の方は、ランクが星5つ? ダンジョンとかで手に入れられる装備系なら☆5程度は見たことはあるけれど、生産品だと今の時点でまともに出てるのってオキナとかその辺りの生産職が作ったものくらいの筈……。それを生産に関係ない特殊職らしいリュートくんが作ったってこと? ホントに?


「信じられないかもしれないけど、それは真実よ。私も昨日受け取ったときに目を疑ったもの……」


「まぁ、確かに彼はLUKがかなり高かったから、本来生産できないものもその幸運で作れてもおかしくない……のかしら?」


 ウルカと私は互いにうーんと考えてみたものの、「まぁリュート(くん)だから仕方ないか」と結論づけることとなった。


 ランスくんとミリィちゃんはどうするものかと扱いに困っていた様子だったので、ちゃんと使ってあげるといいとアドバイスする。せっかくの好意を無碍にするのは失礼になるもの。


 その後、ウルカたちは目的を果たしたと言って坑道を後にしようとする。本当にこの武器を届けに来ただけだったのね……。一応、私のレベルの確認もしにきたらしいのだけど、フレンド欄を見れば分かるでしょ、それは。


 すると、ふと何かを思い出したようにウルカは私達の方向に向けて振り返る。


「そうだったわ。リュートから、リアルで夜の時間にはログインできるから、2人に伝えておいてって言われてたの。……だから、時間があれば一緒に遊んであげてね?」


 そう言ってウルカたちは坑道を後にする。ふと気になってランスくんたちの顔を見ると、嬉しそうに破顔していた。ホント……嬉しそうね。

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