第77話 大学の新歓と先輩

 さて、ドラクルの中ではおそらく邪竜復活が話題になっているであろうその頃。


 本来なら発見者の1人である僕はレベリングをして、最低限の実力をつける必要があったのだろうが、残念ながら今日は1日用事があって貴重な昼間の時間はログインできない。


 ランスたちの様子が気になるところだったが、先程アイギスから『2人は任せて』というメッセージが届いていた。ホントにちょうど良かった。これならウルカに任せた『アレ』も届けられそうだ。


 さて、今僕がいるのはこれから通うことになる大学の構内にある広場だ。そこでは大学の新入生歓迎集会が開かれており、僕はその活気に終始圧倒されていた。


 今回の新歓はうちの学部だけでなく、希望する学生全体を対象にしたもののようで、めちゃくちゃに人が多い。その人たちが互いに大学生活を共に過ごす上で仲のいい友人を作ろうと頑張っている。


 多分、ドラクルの中でもここまで混雑してなかったと思う。まぁ、向こうは混雑防止の為に色々な対策が練られているので、比べるべくもない。


 この日は色々なオリエンテーションが行われており、昼過ぎからは各種サークルや団体によるもてなしが披露される。なんとなく小さな文化祭のような感じだが、あくまで新入生を歓迎するための催しなので新入生と在学中の生徒、学校関係者以外は基本的には立ち入り禁止となっている。


 僕の場合、まずは同じ学部や学科の人が集まっているであろう場所で、これから学友になるであろう人たちや先輩と歓談を進めていた。同期には元クラスメートも何人かいる為、そこまで仲間づくりには苦戦することは無さそうだ。


 すると、先輩らしき無精髭の生えた男性から話しかけられる


「そういえば、朝倉くんはドラクルってやってないの? 俺の後輩とか、ドラクルやるからって今回の新歓すっぽかしたんだよね。こういうのって、最初が肝心なのにねぇ」


「あー……僕は一応やってますけど、そういう線引はちゃんとしてるんで」


 本当は先輩から誘われなければ行かなくても良いかなと思っていたのは内緒だ。結果としてなんだかんだ楽しめてるし。


 もし、そのドラクルを優先して今回の新歓に来るのをやめた人とは、大学が始まればどこかで出会う機会はあるのかもしれない。まぁ、その人がちゃんと大学に来ればの話だけど。


「あっ、そうなの? 偉いねぇ。でも、一時出荷で手に入るなんて凄いねぇ。俺とか二次出荷だからさ。他にも、向こうの方の新入生とかも二次出荷から始めるんだってさ。始まったら頼りにさせてもらうよ!」


 その先輩が言うにはここに来ている人で、ドラクルをプレイしている人は僕を除くと誰も居ないらしい。居るのは一時出荷を手に入れられず、二次出荷やそれ以降から参戦するという人くらいだ。


「あはは……そうですね」


 僕は苦笑いで返答し、紹介された二次出荷から始める同期の人と話をしに行く。どうやらさっきの先輩との話が聞こえていたようで、その卓に向かうとあっという間に質問攻めにあってしまう。


「えっと、琉斗って呼んでいいか? なぁ、ドラクルってどんな感じ? やっぱり魔法とかバンバン使えるのかな?」


「あの世界だと食べ物食べても太らないって本当?」


「やっぱり、剣士とか槍使いとか結構多い感じなの?」


 3人から一斉に質問されて困惑してしまうが、それとなく答えることにする。まぁ、僕としてもあまり知らない事も多かったので、全部が全部答えられた訳では無いが。


 まず最初の質問をしてきたのは茶髪のツーブロックヘアーの男性、澤田幸村さわだゆきむら。爽やかイケメンって感じで女性にモテそうな感じの好青年だ。


 次に質問してきたのは黒髪のショートボブの女性、三森恋華みもりれんか。凛とした表情からはゲームをしそうには見えないものの、結構やり込み勢らしい。まるで潤花みたいだな。


 そして最後が眼鏡をかけたスポーツカットの男性、花守晶はなもりあきら。こっちは背も低く、可愛らしい感じの顔つきをしており、私服も中々にジェンダーレスな風貌をしていたので、 最初は普通に女性と間違えた。


 全員、二次出荷予約済みのいわゆるセカンドプレイヤーと呼ばれる面々で、それぞれクラスは違うが同じ高校の出身らしい。


 それからしばらく話をしていると、この3人はさきほど話をしていた先輩――どうやら彼らの高校の先輩で吉田賢人よしだけんとという名前らしい――と一緒に始めるつもりのようだ。


「もし良かったら、その時にドラクルの先輩として琉斗も手を貸してくれると助かるぜ」


「そうだね。手助け程度なら、快く引き受けさせてもらうよ」


 雪村からの提言に乗り、僕は二次出荷勢に手助けをする約束を結ぶ事となった。それくらいはしても問題はないだろう。


 とはいえ、二次出荷がサービス開始するまでゲーム内では4ヶ月程度の時間があるので、その間にどこまで進むことになるのかは定かではないのだが。 


 まぁ、大学が始まってしまえばそこまでのめり込む事もないだろうから、僕自身がそんなに突き放す程先に進むことも無いだろうけど。


 その後彼らと別れて、まだ昼前ではあるが中央の広場の方でビュッフェ方式で料理が置かれているので食べに行ってみたのだが、これがまた美味い。


 結構この大学は海外から来ている学生が多いからなのか多国籍な料理が結構多く、種類もかなり豊富だ。結構これを目当てに新歓に来ている在学生も多いらしい。


 これは料理研究会というサークルが、生協の協力の下に用意したものらしい。結構この大学の料理研究会は有名なサークルらしく、他の大学からもわざわざこのサークルに来る人が居るほどだとか。


 しかし、料理研究会か……。高校の頃も似たような部活に入っていたし、ここなら新しいメニューの勉強に良いかもしれないな。検討しておこう。


 そんな新歓が繰り広げられている広場の中、僕は料理を食べながらとある人物を待っていた。そう、前にも言った高校時代の先輩を待っている。


 先輩はこの新歓の実行委員をしているらしく、結構忙しそうにしていたのだが、ようやく時間ができたのか僕の元に挨拶しに来てくれるのだという。


 わざわざそんなことしてくれなくていいのにと思いつつも、最後に会ったのはオープンキャンパスの時だったので、確かに久々に会うことになるのか。中々向こうも忙しそうにしてたので仕方ない。


 そうして待っていると、1人の女性がこちらに向かって走ってくるのが見える。相変わらず勢いが凄いな、周りの人がどんどん避けている。


「おーい、琉斗! 待たせたな!」


「特に待ってないですけど……相変わらずお元気そうで何よりです、鈴葉すずは先輩」


 彼女は水瀬みなせ鈴葉といい、僕の高校時代の先輩である。


 在学中は陸上部に所属しており、また生徒会長もやっていた凄い人だ。純粋にカリスマ性がある人なんだろうと思う。


 ただ、学校の成績はあんまりだった。多分、そういう点ではちょっと抜けているのだと思う。


 口調はぶっきらぼうで男勝りだが、その顔はかなりの美人だ。また、スタイルは陸上をやってるだけあって、かなり引き締まっている。長い髪はポニーテールにしている。僕の知り合う人、ポニーテールの人が多いな。


 僕の通っていた高校は一年の時から生徒会に所属するメンバーが必要で、それに教師からの推薦で僕が選ばれたことで関わりを持つようになっていた。


 その頃からも僕の所属していた調理クラブによく足を運んでおり、鈴葉先輩の幼馴染であった料理クラブの部長にめちゃくちゃ怒られていたのを覚えている。


 勿論、向こうは僕より2つ上なので彼女の在学中はたった一年しかお世話になっていなかったが、卒業後も陸上部の方に顔を出すついでに料理クラブにも顔を出していたので、色々話をさせてもらっていた。


 ぶっちゃけ、この大学を選んだのも鈴葉先輩から色々話を聞くことが出来たためである。


 なお、料理クラブではただ食べに来ているだけだったので、僕以外の先輩のことを知らない後輩部員からは『飯たかりの人』と不名誉な仇名を付けられていたりしたが、本人はおそらく知らないと思う。


「しかし、お前ちっとも変わらないなぁ……もうちょっと筋肉つけたほうがいいぞ?」


「アハハ……。まぁ、考えておきます」


 確かに、ドラクルのプレイ中はずっと寝たきりになるので不健康極まりないだろう。


 ただ、原理は詳しく知らないがグローブから発せられる電磁パルスやら何やらによって、一定間隔で筋肉が動かされる仕様になっており、フルダイブ中も血流が滞ったりはしないらしい。


 とはいえ、やはり適度に体を動かすのも大事ではある。流石に鈴葉先輩がオススメしてくる陸上部はガチのガチなのでやるつもりはない。


「そういえばお前、ドラクルってゲーム知っているか? ……って、お前ゲームやらなかったよな」


「え? 現在進行系でプレイしてますよ」


 まさかこっちの先輩からもドラクルの名前が出てくるなんて思わなかったので、驚いて普通に答えてしまった。


「お、マジか? 実は私もプレイしててな!」


 そう言って語りだす鈴葉先輩。どうやら先輩の一つ下の妹さんがベータテストをやっていて、その際にオススメだからとソフトの抽選を申し込まされたところ、見事当選したらしい。


 サービス開始後は取り敢えず頑張ってプレイしていたが、鈴葉先輩もこの手のゲームをやり込んでいたわけではないので、どうすればいいのか分からなくなっていったらしい。


 因みに妹さんは鈴葉先輩のことをガン無視してベータテストからの知り合いと楽しんでいるらしい。なんか、身に覚えのあるような話だな……?


「それで僕にどうすればいいのか聞きたかったって訳ですか?」


「まー、そういうことだな!」


 仮にゲームをやってなくても、その手の本とかを読んでると前に鈴葉先輩には話をした記憶があったので、そういう知識目当てで話しかけたのかもしれないな。


「しかし、色々出来るってのも、何をしていいのかよく分からなくなって大変だな!」


「ホントですね。だから、些細なことでいいので明確な目標を作るといいかもしれませんよ」


 僕がファスタの街から先にある森や、その向こうの村に行くのを目標としたように、何かしらの目標を作れば幾文かはやりやすくなるだろう。


 それこそ生産スキルで何かを作る、畑を切り開く、家を買うなどでもいい。


 目標を決めると、それを達成するためにどうすればいいのかを考えなければならないが、その場合は自分で考えるのもいいが調べるのも一つの手だ。


 せっかく掲示板という不特定多数と交流できる場があるので、そこを利用しない手はない。仮に書き込む勇気がなくても、そこに記載されている情報は大いに役立つ。目を通すだけでも十分有用だろう。


 まぁ、僕は自分で検証したい方なので、自分では出来ない事やどうしても調べたいことくらいしか調べないつもりだが。


「成る程なぁ……このゲームに関してはお前の方が頼りになるな、琉斗!」


「まぁ、これも僕の姉の受け売りなんですけどね」


 どちらかというと潤花の方がこういうのには詳しかったりする。まぁ、向こうはずっとやり込んでいるから当然といえば当然だろう。


「しかし、このゲームも不思議なもんだよな! ドラゴンの召喚って言って、まさか男が出てくるなんて思いもしなかったよ!」


「へっ、男……?」


「そうなんだよ! なんかSがいっぱい付いてたんだけどな? 結構強そうなんだけど、私の言うことを中々聞いてくれないんだよなぁ〜!」


 何やら憤慨している様子の鈴葉先輩だったが、聞き間違いでなければ、男って言ってなかったか? それってつまり、人の姿をしていた存在が召喚されということになる。


 Sがいっぱい付いているって、もしかしなくてもSSSSクアッドエスランクの事じゃないのか? もしくはそれの近くのSSSトライエスか、未確認のSSSSSクイントエスランクとか――は流石にないか。


 つまり、目の前の先輩も僕と同じSSSSランクか、それに近いランクの人型ドラゴンを召喚したプレイヤーだったということ……なのか?

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