第4章 特訓と新エリア

第76話 秘密の特訓?(※ミリィ視点)

 ――ミリィSIDE――


 オキナさんの装備を受け取ったあと、リュートお兄さんと別れてから、リアルで翌日の朝。


 ランスと一緒のタイミングでドラクルへログインすると、何やら冒険者ギルドの様子がおかしいことに気付きました。何やらざわついているようです。


 ふと、近くにいた他のプレイヤーにランスが話を聞くと、どうやらリアルで日付が変わったくらいのタイミングで邪竜の復活が確認されたようで、それに伴う緊急依頼が貼り出されたのだそうです。


 その発見者の中にはどうやらリュートお兄さんも居たようで、この邪竜に関する情報を提供したルヴィアちゃんのことも含めて話題になっているようです。相変わらず、話題の中心にいるのでリュートお兄さんは凄いです。


「邪竜討伐かぁ……。うわっ、参加可能なのはレベル12からなんだってさ」


 ランスがその緊急依頼の紙を見て思わず叫んでました。どうやら、参加するにはレベル12になる必要があるそうです。


 私達は昨日までの2日間は午前中にしかゲームをプレイすることが出来なかったので、まだレベル6しかありません。今日と明日は夜中と食事時以外は遊べるでしょうが、このままでは参加は無理です。


「…………どうする?」


 私がランスにそう告げると、ランスは「うーん」と考え始めました。そして、ポンと手を叩きます。なにか思いついたのでしょうか? すると、「掲示板で聞いてみる!」と言い出しました。


 どうやらどこかのスレッドに質問を書き込んで、レベルを上げる方法を聞いてみるようです。そんなにうまく行くものでしょうか?


 しばらくしてからメニューを閉じたランスはキラキラした目で叫びました。


「格上と戦おう! この間のグレーウルフみたいに格上と連戦連勝すればすぐにレベルだって上がるってよ!」


 どうやらランスは格上相手と戦って一気にレベルを上げようとする魂胆のようです。いわゆるパワーレベリングというものですが……。


「……でもランス? リュートお兄さんは今日は居ないんだよ?」


 そうです。今日は1日用事があってログインできないとリュートお兄さんは言っていました。それはゲーム内での1日ではなくリアルでの1日です。


 そもそも私達があの時、グレーウルフと戦って勝てたのは、お兄さんが『リリーブテンション』というスキルを使って私達の緊張を解してくれて、なおかつ回復やサポート、アドバイスをしてくれたお陰です。


 更にいうと、ルヴィアちゃんが私達がグレーウルフ1体とだけ戦えるようお膳立てしてくれたというのも大きいです。基本的にグレーウルフは群れで現れるようですから。


 今の私達だけでは、たとえドラゴンを召喚してもあの群れのグレーウルフに勝てるとは思えません。


「うーん、やっぱ俺たちだけじゃダメだよなぁ……。せめて、盾役になってくれる人が居たらまた違ってくるんだろうけど」


 そう言ってランスはため息をつきます。ここで言う盾役とは、タンクという役割のことを指すそうで、味方に攻撃が当たらないように立ち回る人のことを指します。


 ランスも私も立ち位置が違うだけで同じ攻撃役らしいので、守ってくれる人が居るだけでかなり立ち回りが楽になるようです。全部、ランスの受け売りなので合っているかどうかは分かりません。


「――フフフ、話は聞かせてもらったわよ?」


 そんな話をしていると、ふと背後から聞き覚えのある声が聞こえてきました。私達が振り返ると、そこにはアイギスお姉さんが立っていました。


 いつから立っていたのでしょう。それよりも何で私達がここにいると分かったのでしょうか? ……謎です。


 因みにアイギスお姉さんは、前に見たときとは防具が変わっていました。かなり綺麗な装飾が入った白の鎧になってます。細かく入っている金色の装飾がすごくオシャレで似合っていました。


「アイギスさん! お久しぶりです!」


「……お久しぶりです、アイギスお姉さん」


「久しぶりね、ランスくんにミリィちゃん。今日はリュートくんは居ないのかしら?」


 周囲をキョロキョロと見回しながらアイギスお姉さんはそう聞いてくるので、残念ながら今日はお兄さんがログインしてこないという事を教えました。


 それを聞いてアイギスお姉さんは、少しだけ残念そうにしていましたが、すぐに切り替えたようです。相変わらず楽しそうな人です。


「まぁ、ちょうど良かったわ。今日はね、2人に秘密の特訓をしてあげようかと思っていたところなの!」


「「秘密の特訓?」」


 アイギスお姉さんの発言に、私とランスの声が被りました。何でしょうか、秘密の特訓とは?


 私達はよくわからないまま、アイギスお姉さんとパーティーを組むと、そのまま引き連れられて冒険者ギルドを後にします。


 そして、そのまま私達は北門の方へと向かっていきました。確か、北門の方はかなりレベルが高いとリュートお兄さんから聞いた気がします。


 ですが、アイギスお姉さんは特に気にすることもなく北門にいる門番さんにクラスカードを渡していきます。私達もクラスカードを見せますが、そこに表示されているレベルを見てか、少し険しい顔をしていました。


 ですが、アイギスお姉さんが一緒に居るからか特に何も言われずに通されました。


 そして北門の外ですが、そこは南門から出た所とはうって変わって岩が多い印象でした。かなり灰色の面積が多いです。これならまだ南門の先の方の景色が綺麗です。まぁ、素敵な景色であることには違いないのですが。


 それから私達はアイギスお姉さんを先頭に、先の方へと進んでいきます。その際に出現するモンスターに関しては、アイギスお姉さんが盾を構えて待ち構えると、勝手に吹き飛んでいきました。そして、それを繰り返すことで倒してしまいました。


 何をしたのか聞いてみると、どうやら『シールドバッシュ』というアーツと『引き寄せ』というスキルを組み合わせているらしいです。


 『引き寄せ』というスキルによって勝手にモンスターが盾に引き寄せられていき、そのまま『シールドバッシュ』によって吹き飛ばされるという流れになっているようです。


 アイギスさんはこれを『永久機関ね!』と言ってましたが、使うことでMPとSPが切れるので永久じゃないと思います。


 結局、アイギスお姉さんの目的地につくまで私達は全く攻撃することなく、モンスターとの戦闘を終わらせていきました。経験値は少しだけ手に入りました。


「さて、ここが目的地よ!」


 そして、私達はアイギスお姉さんの言う『目的地』に到着しました。しかし、そこはただの洞窟のような気がします。


 いや、よく見ると坑道だったようです。ただし、かなり古いのでもしかしたらもう使われていないのかもしれません。


 エリア名を確認すると『棄てられ坑道』という名前のようでした。やはり廃坑道だったようです。


「あの、ここで俺たちは何をするんですか?」


「フフ、ここでランスくんたちにはレベル12以上のモンスターと戦って、レベルを上げてもらいます!」


 そう告げるアイギスお姉さんの顔はとても楽しそうにしていました。


 ……どうやら、これからランスが言っていたパワーレベリングが始まるようです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る