第74話 邪竜討伐の緊急依頼(※ウルカ視点)

 ――ウルカSIDE――


 謎の衝撃で気を失っていた私が、リュートから起こされた際に聞かされたのは、まさかの邪竜復活という事実だった。


 どうやらこのイベント、どう転んでも邪竜が復活するのは確定路線だったようね。結果として、ゴブリンの命を糧にしたけど、一歩間違えれば村人たちが犠牲になっていただろう。そう考えると最低の事態は避けられた形ね。


 ただ、村の近くで邪竜が復活するとなるとどのみち村人たちの命は危険に晒される。その為、早急に対処する必要があった。


 村に帰還した私達は、村人たちに仲間を救った英雄として迎え入れられるものの、即座に邪竜復活の事を伝える。悪いけど、こんなことでぬか喜びをしている場合ではないのよ。


 私達は村の長を始めとして、複数人の村人たちと話をすることになり、邪竜復活について一番詳しいであろうルヴィアが彼らに説明をしていった。


 彼らはその7日という猶予から、今のうちにファスタに向けて逃げる準備を行うという。同時に村は完全に封鎖されるみたいね。


 しかし、全ての村人が避難に応じるかというと、それはないでしょうね。彼らがわざわざこの村に住むのは、何もファスタの街には住めないからという理由だけではないから。


 昔からの愛着のある土地を捨てられないという思いもあるでしょう。だからこそ、出来うるだけの避難という形で収まることとなったわ。


「私達はファスタの街の冒険者ギルドにこの話を持っていく必要があるわ。間違いなく、これは緊急依頼になる筈よ」


 私は過去にベータテストで一度だけあった、暴竜の討伐依頼の事を思い出し、パーティーメンバーに説明していく。特にその当時を知らないリュートや、シルク、スミレにはちゃんと説明する必要があった。


 このようなゲームイベントによって出現した強力なドラゴンの場合、冒険者ギルドにその発生を報告すると『緊急依頼』というものが張り出される仕様となっている。


 勿論、そうでないものも多いだろうが、今回は暴竜討伐のときとあまりに条件が一致したので、間違いなく行われるでしょうね。


 緊急依頼はパーティーの枠を越えた、総勢100名のプレイヤーによるレイドバトルとなる。その依頼を受注したプレイヤー全員で力を合わせて、敵となるドラゴンを倒す……というのがその緊急依頼の流れね。報酬がかなり美味しいけど、かなりの高難易度戦になるのは目に見えて分かるわね。


 なお、発生者は必ず参加するよう、最初から人数に組み込まれているから、今回は私達のパーティーとおそらく同じイベントに関わっていたユートピアやメイヴィたちのパーティーも強制参加となる筈だ。当人たちには申し訳ないが、頑張ってもらうしかない。


 勿論、レベルが低くてどうしても参加したくないという場合は最悪ログインしなければいい。ただ、その場合はログインできなかったプレイヤーの分だけ欠員が生じることとなるのだけど。


「しかも問題があって、今回はまだこっちの時間でゲーム開始から7日しか経っていないのよね」


「つまり、ほとんどのプレイヤーがまだ育ちきってないってことか」


 リュートの意見に私は肯定の意味を込めて頷く。


 ベータテストの際に発生した暴竜討伐に関しては、ベータ期間のほぼラストとなるタイミングで発生した為、多くのプレイヤーが参加することができた。


 しかし、今回はまだゲーム開始からそう時間が経っていない事もあって、プレイヤーレベルもそこまで上がってはいない。


 ベータテストの時は終盤だけあって、最低でもレベル18はないと参加すら出来なかった。流石に時期的にそこまででなくても、レイドバトルになるだけの相手だ。おそらくはギルド側で特定レベルにならないと受けられないよう制限をかけることだろう。


 おそらく、現時点の高レベル帯であるレベル12辺りがその制限のボーダーな気はする。ベータテスターで私達みたいに北門をずっと攻略している勢は、その多くがそのレベルの前後に落ち着いているはずだ。まぁ、その数は決して多くはないだろうけど。


 そうなったときに、果たしてどれだけのプレイヤーが参加してくれるのか……。幾ら、SSSSランクのルヴィアが居たところで、契約者のリュートがベータテスターでない以上、どうしても経験の差であまり頼りにすることはできない。


 果たしてうまくいくかどうか……悩ましい限りであった。まぁ、後7日もあるのだからそれまでにレベリングしようと思ってくれればいいのだけど。


 その後、リュートは翌日の用事の準備とログイン時間の限界もあってログアウトする必要があり、またシルクとスミレも親との約束であまり遅くまでゲームができないことからログアウトしなくてはならなくなった。


 結果として残ったのは、私とコトノハ先輩の2人になったのだけど、先輩がログアウトしてログインスポットからのログインでファスタに移動できると教えてくれたので、私達は共にログアウトして15分待ってから再びファスタの街に向かう。


 この世界、夜時間になるとNPCの商店などは全て閉まってしまうのだけど、ギルドや宿屋、ジョブ案内所に神殿などの重要拠点は常に開いた状態になる。ゴーダンの武器屋も何故か開いてるのよね。武器屋なのに。


 私達が再ログイン後にギルドへと向かった際にも冒険者ギルドの中は煌煌と灯りが灯っていた。


「あら、ウルカじゃない。こんな夜中にどうしたの?」


 ギルドに入ってすぐに受付に向かうと、私のギルド登録試験を担当してくれた受付のイーリアが顔を出す。


 確か、彼女は受付嬢のように仕事をしているが、確かこのギルドの副ギルド長補佐という役職で、実はそれなりに偉い立場の人だったりする。


 私が来たときに彼女を見かけることはあっても話しかけることは無かったので、久々の再会にはなるのだが、今はそれを喜んでいる場合じゃない。


 私は代表して邪竜復活の件についてイーリアに説明すると、すぐに奥の応接室へと案内される。


 そこには無精髭を生やした、かなり快活そうな初老の男性が待っていた。


 おそらく、この街の冒険者ギルドのギルド長になるのだろう。名前はクライスというらしい。


 イーリアが私達から聞いた説明を再度クライスに伝え、そこに私達が補足をしていく形で話は続いていく。


「つまり、邪竜は7日後、『緋月の十四』の19時付近には復活すると」


「ルヴィアの見立てではそうなるわ」


「ふむ、その見立てたSSSSランクドラゴンがこの場に居ないので、確証は得られないが……。ふむ、私の権限で『邪竜討伐』の緊急討伐依頼を出しておこう。それまでリーシャ村付近の林道は封鎖だな」


 その後、イーリアにセカンダの街に対しても封鎖するよう命じるクライス。そう、次の拠点となる街はセカンダというのだった。


「さて、君らとそのユートピアという来訪者のパーティーに関しては、討伐参加者として組み込んでおくから、しっかりと準備を進めておいてくれ」


「分かりました」


 そして数分後、クライスの言ったとおりにギルドの掲示板には『邪竜討伐』の緊急討伐依頼が掲示されるようになった。


 ただ、その依頼の参加可能レベルは案の定レベル12と設定されたため、果たしてどれだけのプレイヤーが参加してくれるのかは分からなかった。


 さっき興味本位で公式のレベルアベレージを確認したら、だいたいレベル8を少し越したくらいだったので、これは多くのプレイヤーにレベリングを頑張ってもらう必要がありそうだ。


 まぁ、あとゲーム内でも7日はあるので、それまでに気になるプレイヤーたちはレベルアップを果たしてくれるだろう。今からでは上げられないレベルじゃないというのがせめてもの救いだった。


「まぁ、全く参加者がいないなんて状況にならないよう祈るしかないね」


 コトノハ先輩の言葉に全くの同意だ。まぁ、私達ももっと強くなる必要があるだろうし、これから頑張らないといけないわね。


 その後、1人で夜時間の敵を倒すために街の外に向かおうとしていたコトノハ先輩を見送る。どうやって外に出るのかは知らないけど、楽しそうだったので止めなかった。


 私は見送った後に受付に向かっていき、パーティーを代表して今日請け負った依頼の報告を行った。パーティーそのものは解散しない限りログアウト後も結成したままとなり、その際に報告するのは代表者だけでいいという仕様になる。その為に今回、リュートにはパーティーを抜けずにログアウトしてもらった形になる。


 受け取れなかったメンバー分の依頼料に関してはギルド預かりとなり、次に依頼を請け負う際に貰える仕組みになっているようだ。


 ベータテストの時は、受験シーズンもあって時間が合わずに急遽ログアウトしなきゃいけないメンバーも多かった為、この仕様にはとても助かっていた。


 リュートたちがログアウトする前に依頼用の素材を纏めておいたので、暁の花とアカルミ草に関しては問題なく提出できたが、状態が良かったのか結構な額になった。


 また、ゴブリンに関しては特殊クエストの件もあり、大量に倒したので余裕で上限に到達していた。上限が無ければとんでもない額になっていただろう。その点は残念だ。


 ……さて、やることはやったし、私もそろそろ明日のためにログアウトしましょうか。


 明日は、顔見知りのプレイヤーのレベルの確認とかをしないといけないわね。……アイギスとか、どうしてるのかしら?


 どのみち、リュートに頼まれた『アレ』の為には会わないといけないようだし、久しぶりに会いに行きますか……。

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