第35話 盗賊との遭遇

 グレーウルフとの戦いの後、ランスとミリィは強敵との戦いで勝利した事により気が抜けたのか、戦闘終了からしばらくして、その場に倒れ込んだ。


 『リリーブテンション』でもどうしようもないレベルの緊張感と高揚感で力が抜けてしまったようだ。僕もいつかはそういうのを体験してみたいものだ。


 ひとまず、これで依頼内容に関しては完遂したことになるので、これ以上奥に向かう必要はないだろう。この奥は……何だか嫌な気配がする。


 何となくだが、今の僕らの実力では太刀打ちできなさそうな相手が居るような気がする。ここは大人しく戻ったほうがいいだろう。まぁ、ルヴィアはやる気満々だったのだが。


「取り敢えず、お疲れ様。目的は達成できたから、ゆっくり街に戻ろうか」


「うぅ……すいません……」


 気にしないでと告げるが、この状態で他にモンスターが来ても非常に困ることになってしまうので、ひとまず僕はランスに肩を貸してあげることにした。


 流石に担いだり背負ったりするのは難しいが、それくらいならSTRが20の僕でもできる……筈だ。


 因みにミリィの方はルヴィアがお嬢様だっこして運んでいる。顔が真っ赤になって恥ずかしそうにしているので、あまり見ないでおいてあげよう。


「それにしてもよくリュートさん、俺が『強撃突』を覚えてるってわかりましたね。アビリティレベルまでは教えてなかったのに」


「あぁ。ランスのレベルくらいなら、だいたい技能の方はそれくらいのレベルにはなっててもおかしくないと思ったからね。後はグレーウルフが好戦的かつ自分から近くの敵に向かって攻撃を仕掛けてくるから、それを使えば問題ないかなって」


「いや、凄いっすね。……ていうか、もしかしてリュートさんって、全部の戦闘技能で覚えるスキルとかアーツを覚えてたりします?」


 そうランスが聞いてくるので、流石にそれはないと答える。その返事を聞いたランスは「ですよねー」と呟くが、何故か安心した様子だった。


「僕が覚えているのはベータテストで覚えることができたレベル10までのスキルとアーツだけだよ。流石にそれ以降はまだ未確認だから分からないな」


 まだベータテスター向けのアーリーサービスも開始して、現実では2時間と15分くらいしか経過していない為、アビリティなどのベータテストで確認できる範囲以上の情報は、まだほとんど出てきてはいないだろう。


 少なくとも、リアルでしばらく経過したあたりでその手のレベル上げを重視したプレイヤーたちの一部で、そのレベルに到達し始めるのではないかと思う。


 ただ、適正レベル帯でのレベリングじゃないと、経験値効率も悪くなるだろうから、もう少しかかるのかもしれない。


 まぁ、ずっと掲示板を見てるわけにもいかないから確認してないけど、もしかしたら既に次の街なんかは発見されていたりするのかもしれないな。


「てことは、レベル10までの基本的な戦闘技能のスキルやアーツは……」


「勿論、記憶してるよ。支援職を目指してたから、誰と組んでもちゃんとサポートできるようにしないといけなかったから」


 基本的にはドラゴン任せのつもりではあったが、ドラゴンには属性相性もあるので、1人でできることはたかが知れている。だから、ある程度どんな相手とでもちゃんと連携できるように覚えておこうと思ったのだ。


 とはいえ、結果としてルヴィアという今の所はどんなプレイヤーよりも強いであろう味方をつけることができたのだが、今回のように組んだプレイヤーをサポートする際には十分活用できるだろう。


 まぁ、生産技能など他のアビリティに関しては関連性のありそうなものしか調べてないし、戦闘技能や特殊技能の中にもベータテストには無かった初見のアビリティなんてものもあるので、全てを知っているかと言われるとやはりそうでもなかったりする。


「なんていうか……情報量凄いっすね」


「まぁ、昔からこういう記憶することは得意だったんだよ」


 そのお陰で暗記系のテストならそれなりに良い点を取れたのだが、僕の場合はそうでない系統のテストが致命的だった。


 読書好きなのに国語や現国の成績はそんなに良くなかったりする。僕の場合、想像力が他の人とは何故か違う方向に向かっているようで、長々と書いては「方向性が間違ってなかったら完璧だったんだけどな……」と先生に言われるのが毎度のことだった。


「なんていうか、リュートさんならあっという間にトッププレイヤーになりそうですよねー、ハハハ……」


 何やら変なものを見るような感じで此方を見ながらランスがぼやいていたが、流石に僕がトッププレイヤーなんかには入れないだろう。


 いくらルヴィアが強いとはいえ、その契約者である僕自身は攻撃力皆無かつ並の耐久しかないので、そんなプレイヤーたちと並んだらあっという間に負けてしまうだろう。


 全く、ランスもおかしなことを言うものだ。


 そんな風に話していると、ふと周囲に明るい木漏れ日が差し込むようになる。どうやら森の表側に辿り着いたようだ。


 しかし、元来た森の表側に向かって歩いていたはずが、どうやら違う場所に向かって歩いていたようで、そこは僕らが森の中に入ったセーフティーエリアが近くにある場所ではなく、古びた街道がある場所であった。


 地図によれば、この森の中にはファスタの街から続いている街道から分岐した道が通っているようで、それが近隣の村落やその先にあるであろう都市に繋がっているとされている。


 その道は、僕らが森に入った場所よりも街道を先に進んだ所から伸びているため、どうやら戻りながらうっかり先の方へと進んでしまっていたようだ。


 周囲を見るが、他にプレイヤーはいない。他のプレイヤーは表の街道を通じて別の町に行くかしているのか、もしくは街道からこちらに通じる道が封鎖されているかのどちらかだろうか。NPCも通っていない事を考慮すると、後者の方が正解かもしれない。


 この道は表にある街道とは違って簡単な整備しかされていなさそうで、道はかなりガタガタだ。これだと馬車や荷車だと通るのに少し大変そうではある。


 ただ、近隣の村落に向かう場合はこの道を通らないと進めないようで、僕が持っている地図だとこの道から村落へと通じている様子だった。


 因みにベータテストの時は開発中だったからか、現在と全く違うフィールドが使われている為、その時の情報は全く当てにならない。


「……ここって行く途中にリュートさんが言ってた村落に向かう道ですかね?」


「どうやら、そうみたいだね。間違って進んでしまったみたいだ。……おや?」


 そんな道の向こう側、森を抜けた先の方から何やら騒がしい音が聞こえてくる。金属と金属とがぶつかり合うような、そんな音だ。


 僕らがその音を気にしてその場所へと向かうと、そこには複数人の野蛮そうな格好の男たちが荷馬車に向かって取り囲んでおり、それを門番をしていた騎士にも似たような銀色の鎧を着た騎士がたった1人で凌ぎ切っているという、異様な光景だった。


「と、盗賊……!? それに騎士!?」


 ランスが驚いたように声を出す。まぁ、襲っている方はあからさまに盗賊ですと言っているような格好だったので、おそらく誰でも分かる感じだ。


 その状況は、どう見ても騎士の方が窮地に立たされている。不思議と今は凌ぎ切って入るものの、今にも近付かれてしまいそうだ。


 そんな荷馬車には商人であろう男性とその家族が乗り込んでおり、互いに身を寄せ合ってガクガクと震えていた。中には小さな女の子もいる。


「……リュートお兄さん、助けなきゃ!」


「あぁ、急ごう! ルヴィアは騎士の方に!」


「任せよ!」


 ミリィの声掛けに僕はすぐに呼応し、ルヴィアを先に行かせる。


 頼む、間に合ってくれ……!

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