第34話 グレーウルフ戦(※ランス視点)

 ――ランスSIDE――


 ルヴィアさんの突然の投げ飛ばしに呆気にとられてしまったが、リュートさんの掛け声のお陰で何とか敵の攻撃を避けることができた。


 任せてくださいと言った手前でこの有様は流石に恥ずかしい。


「すいません!」


「気にしないで、頑張って!」


 俺が即座に謝ったが、リュートさんはにこやかに激励してくれた。うん、気を引き締め直さないと……。


 俺は息をゆっくりと吐き、じっと目の前のグレーウルフを見つめる。


 恐怖状態でステータスが下がっているとはいえ、目の前の敵はかなり素早い。それはさっき不意に受けそうになった攻撃を見ればよくわかった。


 俺はふと後ろに下がっていたミリィの顔を見る。いつもならこういう時、不安そうな顔をしていた幼馴染が、今はとても真剣な眼差しで俺の方を見ていた。


 うん、あいつにカッコ悪いとこはもう見せられないよな!


 俺はグッと槍を握る手に力を込めて、目の前のグレーウルフに向かって駆け出していく。槍使いのアーツである『ダッシュ』を発動し、瞬間的に加速する。


 相手は俺が急に前に出てきたことで、びっくりしたのか後ろに下がろうとする。


 しかし、その背後に突然何が落下する音が響き、むしろそっちに驚いてグレーウルフは前に出てきてしまう。


 何があったのかと思えば、そこには細長い氷の槍のようなものが地面を抉って突き刺さっていた。どうやら、ミリィが『アイシクルランス』を牽制として放ったようだ。


 それによって退路を断たれたグレーウルフは俺に向かって飛び込んでくる。ただ、真っ直ぐに飛び込んでくるので狙いは付けやすい。


 俺はまっすぐ槍を構えると、自分から飛び込んできたグレーウルフに向かって槍を突き刺す。しかしその一撃は当たりどころが甘かったのか、表面を軽く斬りつける程度にしか当たらず、刀身はグレーウルフの毛皮を滑っていく。


「う、わわわ!」


 そのままの勢いでグレーウルフが噛みつこうとしてきたから、俺は慌てて槍をこれでもかと振り回す。


 結果、その勢いでグレーウルフの体のどこかしらに当たったのか、「キャイン」と犬のような鳴き声を出しながら、グレーウルフは後ろへと飛んでいく。


 その間、爪によって傷付けられたのか、体中に傷跡がいくつか残っている。


 気付けば思った以上にダメージを受けていたようで、160もあったHPが一気に100まで減っていた。


「……ランス!?」


 ミリィが後ろから叫ぶが、彼女は【黒魔術】を選んだので回復系の魔術スキルは覚えていなかった筈だ。


 俺は咄嗟にチュートリアル特典の初級ライフポーションを使おうとしたが、何故かその時に『ヒール』が俺に向けて発動した。おお、最大まで回復したぞ。


 ふと、後ろを振り返るとリュートさんがスキルを使ったような形跡が見える。ミリィにはおそらく『魔力供与』であろうエフェクトが生じている。


 かなりMPが多いらしいことは道中に聞いていたのだが、いったいどれだけのMPを持っているのだろうかリュートさん。


 確か、さっきルヴィアさんにも魔力を与えていたはずなのだが……。


「凄い、リュートお兄さん……MPが回復した……」


「あ、ありがとう、リュートさん!」


 俺が礼を言うと、リュートさんは手を振り替えしてくれた。


「どういたしまして。それよりもランス。素早い相手に対して、自分から攻めていくのは槍だと逆に不利になる場合がある。むしろ、ここは立ち構えて、向こうの力を使う方がいいかもしれないよ?」


 ふと、リュートさんがアドバイスをくれた。確かに長い槍だと、こちらから移動して攻撃する際に軌道修正がし辛い。それはさっきのスライム戦でよくわかった。


 避けられると、立て直すのにどうしても時間がかかる。まぁ、それは大剣や大斧でも同じだろうけど、リーチの分だけ地面に当たって咄嗟に動けなくなる……なんてこともある。


 ミリィも同様にリュートさんからアドバイスを貰っており、回復したMPを使って再度『ファイアボール』や『アイシクルランス』を、さっきよりも低い頻度で発動してグレーウルフに攻撃していたが、相手は素早いので当然ながらその攻撃は当たらない。


 ……いや、これはむしろグレーウルフが余計な行動をしないように牽制で撃っているのかもしれない。放つ頻度が少ないのも、最低限のMPで動きが止められるようにしているのかもしれない。


 これもリュートさんの入れ知恵だろうか。凄い。


 俺は再度気合を入れ直し、グレーウルフの姿をじっと眺める。そういえば、さっき覚えたばかりの技がちょうど待ち構える技だった筈だ。


 よし。これなら、まだメタルオーの力は借りなくても大丈夫そうだ。


「よし、ミリィ! 俺の方にグレーウルフを呼び寄せてくれ!」


「……大丈夫?」


「大丈夫!!」


 俺がそう言うと、さっきまで俺の方に近付いたときに放っていた魔術スキルが止み、グレーウルフの背後に氷の槍が突き刺さる。


 それをきっかけにグレーウルフは、近くに立っていた俺の方に向かって駆け出してくる。


 それをしっかりと見定めてから、俺は【槍術】のアーツの使用をイメージする。勿論、それは『霧払い』ではない。


 『霧払い』は発動するのに槍を薙ぐ必要がある。そうすると、スライムの時のように薙ぎを使う動作のタイミングで敵に避けられてしまう可能性がある。


 それに、せっかく相手が向かってきているのだから、その勢いを使ったほうがいいに決まってる。


 だから、ぶっつけ本番だけどこの技を使うことに決めたんだ。


「そこだ! ――『強撃突』!!」


 俺はグレーウルフが俺の喉を噛みちぎろうと飛びかかって来たのをギリギリまで引き付けると、その牙が開ききった瞬間にアーツを発動し、勢いよく槍を前に突き出す。


 すると、そのまま槍の先端がグレーウルフの左前足の付け根にストンと突き刺さり、その瞬間に突きによる激しい衝撃がグレーウルフを襲う。


 その瞬間、グレーウルフが痛そうに吠え叫び、衝撃によって後ろに吹き飛ばされたことでその体から刃が抜ける。年齢制限で血は全く出ていないけど、傷跡が残っている。


 どうやらグレーウルフはその一撃でかなりHPを削られたみたいで、追撃されないように槍が届かない範囲まで下がっていった。意外と賢いのかも。


 【槍術】のレベルが上がったことで覚えていた『強撃突』は、目の前に向けて渾身の力で突きを放つというアーツで、威力は高いのだが移動中には使用できないという制限があった。


 まぁ、だからこそリュートさんのアドバイス通りに敵が攻撃してくるタイミングで使った訳なんだけど、それが見事にハマって大ダメージを与えることができた。


「グルルル……」


 前足の片方を動かせなくなったことで、まともに動けなくなったのか、グレーウルフはこちらに対して睨みつけることしかできないようだ。


「……ランス、リュートお兄さん。私がトドメをさしていい?」


 ふと後ろからミリィが声をかけてくる。確かにここまでミリィは牽制のためにしか魔術スキルを使ってないから、ドカンと攻撃したいよな。


「うん、いいよミリィ。思いっきりやっちゃえ!」


「それなら、魔力を渡しておこうか。――『魔力供与』!」


 リュートさんは何かを飲みながら答えていた。あれ、それって初級マナポーションでは? 流石に、渡しすぎなのではないですか……?


「……ん! 任せて。リュートお兄さんに教わったタイミングで…………『アイシクルランス』!  それから『ウインドカッター』! そしてトドメの……『ファイヤーボール』!!」


 ミリィの楽しそうな声と一緒に放たれた氷の槍と風の刃は俺の真横を通り抜けて、正確にグレーウルフに向かって飛んでいく。そして少し遅れて炎の球が飛んでいく。


 グレーウルフは咄嗟にそれを避けようとしたが、片足がまともに動かせない為に避けきれず、まずは氷の槍が土手っ腹に思い切り突き刺さり、その後飛んできた風の刃によって全身が切り裂かれていく。


 そして最後は火の玉をモロに受けてしまい、やがてその炎が全身に燃え移り、しばらく経ってから体が粉々に砕けて、粒子のようになって消滅した。


 割と虫の息だったとはいえあまりの猛攻に、アドバイスしたリュートさんも流石に少し引いてしまっていたようだが、取り敢えず止めをさすことができたミリィはすこぶる機嫌が良さそうだ。


 まぁ、君が嬉しいのならもうそれでいいよ……。


 俺たちが受け持っていたグレーウルフの消滅と同時に戦闘は終了した。どうやらルヴィアさんは俺たちが倒してしまうよりも前に、2体のグレーウルフを倒してしまったようだ。流石はSSSSランクドラゴン……。


 だからリュートさんもこっちに支援を出せたのかな? 流石だなぁ。


 僕らもあれくらいは無理だとしても、もう少し強くなれれば、メタルオーと並んでも足を引っ張らないくらいになれるだろうか? どうだろうかな?


〈レベル4になりました。アビリティポイントが追加されます〉


〈レベル5になりました。アビリティポイントが追加されます〉


〈レベル5に到達したことで、死に戻りの際のデスペナルティが解禁されます〉


〈レベル5に到達したことで、ドラゴン召喚時の召喚コストが軽減され、ドラゴンの召喚時貢献度が少なくなりました〉


〈レベル5に到達したことで、ボーナスアビリティポイントが5ポイント追加されます〉


〈ジョブ『槍使い』がレベル3になりました。それに伴いジョブアビリティ【連撃】がレベル2になりました〉


〈アビリティ【槍術】がレベル3になりました〉


〈アビリティ【ダメージ強化補正】がレベル2になりました〉


 その際、俺はかなりの量の経験値を獲得し、ついさっきレベルが3になったというのに、気付けばレベル5まで上がっていた。


 どうやら、相手にしたのはたった1体だけでも、一応群れの一部ということでルヴィアさんが倒した2体の分の経験値もいくらかは貰えたようだった。


 その際の怒涛のアナウンスにより、ジョブやアビリティの方もレベルアップしたことを知る。というか、レベル5でデスペナが発生するのか。知らなかった。


 後、ドラゴン召喚のコストと召喚した際のドラゴンの貢献度が少しだけ減少した。もしかして、これってレベルを上げればドラゴンと共に戦いやすくなるということに……なるのかな?


 後、ボーナスアビリティポイントを手に入れたが、この5ポイントはかなり大きい。何に使おう?


 側に来たミリィに聞くと、向こうも同じくレベル5に上がったらしい。ただ、その際のアナウンスが結構煩かったようで、少しだけ不機嫌だった。まぁ、長かったもんなぁ……。


 因みにリュートさんはどうだったのかと聞くと、あれだけ『魔力供与』や『ヒール』を使ったのに、ルヴィアさんの貢献率には勝てず、今回もあまり経験値は貰えずにレベルは上がらなかったらしい。


 なんというか……ドンマイです……。

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