第99話

 4月22日、日曜日、午前3時。


満ち足りた表情で眠る美冬をベッドに残し、シャワーを浴びてダンジョンに入る支度を整える。


目的地は、昨日から探索を開始したサウジアラビア。


サウジアラビア王国のダンジョン入り口数は、合計2万7385個。


ユニークは23体、金箱は601ある。


この国も、規模の割には金箱の数が多いが、その分、銀箱は通常の世界で『抽出』を使わなくても3810しかなく、茶箱も1342個だ。


昨日に続き、金箱の回収から始める。


今日中に全てを回収し終え、ユニークまで全部倒し終えるだろう。


開け続ける金箱から、『金運』と『子宝』が出ること出ること。


午前9時に一旦切り上げるまでに、金箱は全て回収したが、その内、29個が『金運』で、17個が『子宝』だった。


その他、『開運』や『炎耐性(S)』、『略奪』『生財』『洗脳』などが1つか2つずつ出たが、『洗脳』の2つ以外は全部ポイントに替える。


残りの506個はどれも各能力値の何れかを上げる品で、それらは全部ストックした。


9時10分、事務所に出勤前の理沙さん達の自宅を訪問し、2人に『洗脳』のアイテムを食べて貰う。


それから家に戻り、美冬がまだ寝ているのを確認し、シャワーを浴びて南さん達がやって来るのを待つ。


昨夜ゆうべも3時間掛けてお相手したから、家を訪れた2人の機嫌や肌艶はとても良い。


彼女達を岐阜に送り、やっと起きて来た美冬の支度を待って、オーストラリアに送り出す。


その後、自分は再度サウジアラビアに跳び、ユニークの討伐を始めた。



 6体目と7体目のユニークが居る場所を訪れた時、そこで待っていたのは2人組の女性達だった。


黒いニカブで全身を包み、額の一部と目元しか見えない2人。


何だか訳ありみたいだから、『回想』を用いて其々の過去を覗いた。


今から1200年以上昔の、何処かの王国の末姫と、その奴隷で友人でもあった、元貴族の娘。


17歳になった姫に縁談が持ち上がり、その相手が30以上も歳の離れた醜悪なデブであった事に絶望した彼女は、王族の地位を捨て、他国に逃亡する決意をする。


元々、活発で気丈な性格であった姫は、剣の腕も確かで、時々隠れて付き人の奴隷と狩りもしていたから、城から抜け出すのは訳なかった。


だが、逃亡途中で賊に襲われていた商隊を見過ごす事ができずに加勢し、その商隊の生き残りが国に戻ってそれを報告した事で、2人に追手がかかる。


3日目、隠れる事のできない砂漠で追手に追い付かれた2人は、十数人を相手に善戦したが力尽きた。


生け捕りにしろとの命令を受けていた追手達だが、彼女達の凄まじい剣技に手加減できず、致命傷を負わせてしまっていた。


そのまま帰れば処刑される事が明白な追手達は、やられた仲間の死体だけを現場に放置し、虫の息の2人を離れた場所の砂に埋めて、正体不明の賊に襲われ、2人も連れ去られたと嘘の報告をしたようだ。


そこまで見た時、赤い光を纏っていた彼女達が攻撃してくる。


両手の半月刀で左右から襲って来る2人の内、右側の女性に『金縛り』を掛け、左の女性は威力をかなり抑えた『放水』で吹き飛ばす。


動けない右側の女性の衣服をぎ取り、その容姿を確認する。


黒髪の美しい顔に、胸が大きく、腰の締まった褐色の肌。


黒いブラ代わりの布も切り裂くと、豊かな双丘が飛び出してくる。


だが、彼女はまだ抵抗を諦めていないようだ。


あれ?


イスラム圏の女性って、素肌を見せるのは夫か家族だけじゃなかったか?


こうすれば大人しくなると考えていたが、違うのだろうか?


正直、イスラム教についてはうとくてよく分らない。


その時、もう1人の女性が物凄い勢いで迫って来た。


透かさず彼女にも『金縛り』を掛け、動けなくする。


その彼女の衣服を同じ様に剝いでいくと、先に動けなくした女性が必死に暴れ出そうとし、逆に今服を剝いだ少女は諦めたように大人しくなった。


その少女をよく見ると、もう1人の女性と違って髪が栗色で、瞳が蒼く、肌は褐色というより小麦色。


西洋の血でも入っているのか。


大きな胸が、誇らしげに俺を威嚇してくる。


「抵抗しなければ、これ以上危害を加えるつもりはない。

俺の眷族になれば、2人とも普段は自由に過ごさせてやる」


剝いだニカブを再び2人に着せてやりながら、首から上だけを露出させて、『金縛り』を解いた上で、アラビア語でそう語りかける。


通じたかどうか分らないが、暫く少し離れた場所で様子を見る。


お互いに顔を見合わせていた彼女達は、話が纏まったのか、2人同時に俺を見て、顔を指差した。


マスクを取れという事か?


『地図』上で人の位置を確認し、周囲3キロ以内に魔物しか居ない事を確かめると、徐にマスクを脱ぐ。


姫と呼ばれていた少女が破顔し、それを見て、もう1人の女性が俺にひざまずく。


どうやら受け入れて貰えたみたいなので、2人をその場で眷族化した。


彼女達のステータス画面を開くと、きちんと名前が表示されている。


1人は元姫だが、名字に当たる記載はない。


______________________________________


氏名:アミーラ


生命力:19758


筋力:14826


肉体強度:15271


精神力:20673


素早さ:17812


特殊能力:『略奪』


親愛度:48


______________________________________


______________________________________


氏名:シャリーファ


生命力:22167


筋力:15764


肉体強度:16023


精神力:19325


素早さ:16004


特殊能力:『隠密』


親愛度:34


______________________________________


一転して親しげに側に寄って来た2人に、カタログを開いて商品を購入する。


先ずは切り裂いた下着の代わりに、黒いブラとパンティーを2組ずつ。


同じく黒の水着(ビキニ)を1着ずつ。


黒のロングドレスと黒いサンダル。


バスタオルとハンドタオル2組。


嗜好品は、アミーラに野菜と鶏肉を挟んだサンドイッチ、シャリーファにはスパイシーな鶏の唐揚げを各50個ずつ。


今はそれしか選べない。


特殊能力は、『破魔』『結界』『生命力増加』『自己回復(S)』『状態異常無効』『毒耐性(S)』『飛行』『加速』『地図作成』を買い与える。


『地図作成』は、ランクを3段階目まで上げる。


魔法は『治癒』『火球』『給水』『造形』『鎌鼬』を付与した。


「ニカブは着ても着なくても良い。

2人の判断に任せる。

2人には暫く、この国でテロリストや狼藉者の男共を狩って欲しい。

ここはそれ程治安が悪い訳ではないから、もう少ししたら別な国に移って同じ事をして貰う。

それ以外は自由に過ごして良いから」


そう言うと、2人は少し物足りなげな表情をする。


「ん?」


首をかしげると、アミーラが自分の左手の薬指に、右手の指で輪を作る。


「指輪が欲しいのか?」


2人して頷く。


再度カタログを開いて該当ページを2人に見せると、アミーラが純金のリングを、シャリーファが純銀のリングを指差した。


彼女達にそれを与えると、各々おのおののリングをアイテムボックスから取り出して指に嵌めた2人が、其々に俺に軽いキスをしてくる。


にっこり笑っているので、こちらも『有り難う』と微笑んだ。


それから俺は探索を再開し、2人は一緒に何処かへと向かって行った。


因みに、彼女達を維持するのに必要な精神力は、1時間当たり2000だった。



 午後3時。


この国の主だった魔物を倒しながら、ユニークの討伐も終える。


そのユニーク達からは、『処女の血』『略奪』『愛欲の僕』『皇帝』などが手に入るが、残す物は何もなく、全部ポイントに替えた。


南さん達を迎えに行くにはまだ早いので、次はアルゼンチンに向かう。


サウジアラビアで倒した魔物は約1万7000。


たった2日だが、ここは女子がほとんど居なかったので、魔物の密集地域で『ハリケーン』を連発し、風の刃を伴ったその渦に、数百から数千の魔物を巻き込んで処分した。


ダンジョン内のブラジルの端から陸路で訪れたアルゼンチン共和国。


この国のダンジョン入り口数は、合計3万5419個。


ユニーク16体、金箱598と、国土の割にはそれ程多くはない。


午後6時まで、金箱の回収を始めた。

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