第98話
4月20日、金曜日、午前2時。
金箱の全回収とユニークの完全討伐を終了し、インドの攻略を終える。
銀箱3150と、茶箱923は、後で誰かに任せる。
ここも通常の世界で『抽出』を駆使したから、銀箱の数が半分以上減っている。
金箱からは『金運』と『良縁』が15個ずつ、『開運』と『子宝』が12個ずつも出て、あとは全て能力値を上げる品という、土地柄とでも言えば良いのか、物凄い
『良縁』と『開運』だけを残して、他の2つは全部ポイントに替える。
宝箱が偏っていた分、ユニークからは実に有意義な能力や品々を得た。
『ラーマーヤナ』や『マハーバーラタ』の登場人物、神を模したと思われる存在が数体居て、彼(彼女)らとは戦うことなく能力を与えられ、若しくはアイテムを残してくれた。
遭遇した際、まるで俺の能力を観察しているような視線を向けられ、それが済むと、赤い光を帯びていた彼(彼女)らの身体が青い光を纏うようになり、最後には微笑まれて、能力やアイテムを授けてくれた。
彼(彼女)らが消滅する際、心から感謝の意を表し、深く頭を下げたのは言うまでもない。
またその中に、日本でもお世話になった女性に似たお方が居て、俺の事を知っているのか、最初から友好的に接してくれた。
この方からは、『美と芸の素養』に代わる、『芸術に愛されし者』という能力を頂き、『身体能力・改』に収められた。
新たに得た特殊能力には他に、『強制支配・改』の中に収められた『性欲支配』と、『身体能力・改』に収容された『障壁』『美と富の誘引者』『言語理解』『
『性欲支配』は、『指定した対象の性欲を、自己に限定させる。但し、己の精神力が相手より1万以上高くないと成功しない』というもの。
術者が死亡するか解除するまでは永続的に続くので、あまり手荒な事をしたくない女性の捕虜や敵に対し、これを行った上で放置し続けるのは有効かもしれない。
因みに、この術が掛かった者が術者以外と性行為を行おうとすると、その相手を殺すまで攻撃してしまう。
『障壁』は、『指定した対象の周囲に透明な防御壁を張り巡らせる能力で、その範囲、強度、持続力は術者の精神力の高さに比例する』というもの。
『結界』との違いは、侵入者や侵入物を
『美と富の誘引者』とは、『所持者の周囲に、美しいもの、金銭や財宝を寄せ集める。但し、所有者が存在する物はこの限りにあらず。婚姻は所有に含まれる。人物の場合、対象が必ず18歳以上の異性であり、その相手より精神力が1万以上高くなければ成功しない』というもの。
これはアクティブな能力なので、俺の意思に拘らず、常に発動している。
因みに、『美しいもの』を人に当て
『言語理解』は、『習得行為を必要とする事なく、あらゆる言語の意味を理解し、また、話す事ができる』というもの。
『覗夢』は非常に特殊で、『対象者の夢を覗く事ができる』というもの。
この場合の『夢』とは、睡眠中に見るものではなく、将来の夢などとして語られるものである。
それを持たぬ者からは、何も見えない。
『雷槍』、実はこれが今回で1番の収穫かもしれない。
『狙った対象に、使用した精神力に応じた雷の槍を落とす』というこの能力は、魔法ではなく特殊能力であるため、通常の世界でも使用できる。
もし今の俺の精神力を7割用いて使用した場合、威力だけなら大型の核兵器並みの攻撃になるだろう。
放射能が残留する訳ではないから、使い放題だ。
きちんと睡眠を取れば毎日1回使用できるので、もし戦争にでもなったら使おうと思う。
『芸術に愛されし者』とは、『あらゆる芸術分野において、その収得速度が5割増しになる。但し、ここで言う芸術とは、世に広く認められた物を指し、主観的な物を含まない』というもの。
・・暇になったら、何か楽器でも習おう。
アイテムとして残していただいたのは、『飛行』2つ。
その他のユニーク達とは普通に戦闘になり、大小様々な魔宝石と、『子宝』『処女の血』『略奪』『解毒(S)』『生命力増加』などのアイテムを得たが、残しておきたい物はなく、『飛行』2つ以外は全てポイントに替えた。
美冬と朝の珈琲を飲む時間まではまだかなりあるため、通常の世界でロシアの鉱山資源に対し、『抽出』をして回った。
午前7時30分、朝食前の百合さんを訪問し、『良縁』のアイテムを7つ食べて貰う。
これで百合さんも、『幸運』関係の3つ全てがMAXになる。
その足で吉永さん宅を訪問し、彼女にも『良縁』のアイテム8つを食べて貰い、やはり『幸運』関係3つ全てをMAXにして貰った。
自宅に戻ると、今朝はザッハトルテを頬張りながら、珈琲を飲む美冬と目が合う。
そんな姿に笑みを漏らしながら、
「・・・」
え、それだけ?
「人の顔をじろじろと見て、一体何してるの?」
一息吐いた美冬が、【分析】を使う仕種を見せる。
慌てて平常心を保ち、無心を心掛ける。
「・・隠すという事は、
「別に疚しくなんかない。
美冬の将来の夢を覗いただけだよ」
「そんな事もできるようになったの!?
・・何て表示された?」
「・・俺のお嫁さんだってさ」
「ははは、バレちゃった。
今となってはつまらない夢でしょ?」
「そんな事ないぞ。
素直に嬉しいよ。
・・ただ、それしかなくて、少し意外だっただけだ」
「今度あそこであれ食べてみたいとかの、とても小さなものは結構あるけど、絶対に叶えたい夢はそれ1つだけだから」
「俺の夢を聴きたいか?」
「うん」
「ダンジョン内にある、全ての金箱を回収する事だ」
「・・そこはさ、話の流れからして、『美冬のお
期待して損した」
「それは既に確定事項だから、夢ではない。
第一、俺は美冬を嫁に迎えるから、婿にはならない。
この場合は夫だな」
「あ、そうだった」
「南さんが考えている重婚制度では、複数の伴侶を持てるのは世帯主だけだ。
もしそれが女性の場合、その伴侶である男性は、世帯主の女性以外とは婚姻できない。
別々の家に住み、お互いが世帯主になって、年収や資産条件さえクリアすれば、男女とも複数の伴侶を持つ事は可能だが、そうすると、相手を独占したい俺みたいな一部の富裕層には面白くない。
だから、南さん達が俺で実践しようとしているように、夫名義のマンション1棟に、複数の妻達が其々の部屋で暮らすというスタイルが流行するだろう。
戸建ての家でも名義が同じなら可能だが、余程広い敷地がないと、複数の家は建てられないから分散する事になる。
お互いの移動時間や防犯の面からも、女性家族だけで離れて住むのは敬遠されるだろう」
「そうか。
男性だけでなく、女性もお金持ちなら重婚制度が使えるんだもんね。
でもそうすると、お互いに複数の夫や妻達がいる夫婦も存在しうるんだね」
「ああ。
実際、婚姻に至らないだけで、そういうカップルも結構存在するみたいだな。
俺は絶対に嫌だけど」
「和馬のお仲間さん達には、そんな事を考える人なんて誰もいないから大丈夫。
結婚する際、自分が重婚制度を利用するかしないかの誓約書の提出を義務づける制度にすれば、一般の人達も、後々揉める事もないでしょ」
「成程」
「何れにしても、この制度が確立すれば、更に家族の
同性同士の家庭だけじゃなく、お父さんやお母さんが複数いる家庭が生まれるんだもんね」
「良い事ばかりではないが、悪い事でもない。
自身の実父や実母と馬が合わない子供が、別の義父や義母の下で保護され、居場所を確保できる確率が増す。
家に居場所がなく、誰かとの繋がりを求めて街をさ迷う子供が減るかもしれない。
そういう現象は、家が貧しい者に限らないからな」
「・・・」
「子供の内は、護ってくれる存在が必要だ。
安心して暮らせる場所が必要になる。
努力するにしても、経済力の無い子供では、やれる事が限られる。
俺は両親に恵まれ、愛されて育った。
その庇護の下で、自身の才能を伸ばす事ができた。
だが、親に恵まれない子供、親に先立たれた少年少女にはそれは難しい。
だから、ダンジョン探索が一段落したら、何かしらの施設を経営しようと思う。
孤児院とかじゃ駄目だ。
どんな奴でも受け入れる訳じゃない。
そういう役割は宗教団体に任せる。
創るなら、全寮制の学校だろうな。
幼小中高大学までの一貫校で、真面目に努力さえすれば、学費や生活費の一切の面倒を見る。
俺の金だけで、全て賄ってやるよ。
今のこの国は、自由にし過ぎると、学生なのに、義務であるはずの勉強すらしない奴が多過ぎる。
義務教育の『義務』は、国が無償で学ばせるだけではなく、学生がきちんと学ぶ事も意味しているはずだ。
税金をがっぽり取られる側からすれば、そうあって欲しいし、そうであるべきだ。
どうせこの国1番の税金を支払うなら、その分で、己の理想とする生徒達を育て、世に出す。
真面目に勉学に励むなら、自由時間も保証するし、月々の小遣いだって支給してやる。
教師陣や世話役達にもそれなりの高給を支払って、優秀な人材を集め、心身共に健康で有能な学生を毎年一定数社会に送り出し、この国を内側から変えてやる」
「南さんが喜びそうな考えだね。
私も賛成するよ。
衣食住が不安定だと、安心して暮らせないもんね」
「本当は、これでも相当甘いんだけどな。
祖父母の代には、逆境や極貧の生活を送りながら、そこから抜け出すべく、必死に努力した人が多かったと聞く。
『蛍雪』とはよく言ったもんで、真にそうなりたいと願うなら、何でも利用して身を立てようとするはずだ。
親が少しでも稼ごうと懸命に働くその側で、やる事ないからスマホでゲームしてるなんて馬鹿は少なかっただろう。
そういう発想をするやつがな。
・・俺は別に、そうしていても自分達の金で暮らせる奴まで非難したりはしない。
他人に迷惑をかけないなら、どう生きようとそれは当人の自由だ。
だが、俺達富裕層の税金から施しを受けながら、あまつさえ探索者を見下し、国家予算や資源を無駄に食い潰す奴らが大嫌いなだけだ」
「和馬ってさ、もしかしていじめられた事あるの?
『探索者を見下して・・』と偶に口にするけれど、実際にそうされた経験があるの?」
美冬が不思議そうな顔をする。
「あると思うか?」
「思わないけど・・」
「低能で、将来のビジョンなど何も持たない愚物どもの中には、今まで自分より優れていると認めていた人物が自己より下になったと誤認した時、あからさまに喜ぶ奴が出て来る。
面と向かっては口に出せないが、友人に話す振りをしながらとか、陰でこそこそ笑う奴がいるのさ。
・・中3になって進路を提出した際、動揺した教師陣の誰かから漏れたのだろう。
それまでの俺は、人付き合いが極端に悪いだけで、成績や運動能力は抜群に良く、金も有り余る程あり、容姿だって優れていた。
勇気を出して告白してくれた
全然嬉しくなかったけど。
そんな俺が、世間では貧困層、下層民扱いされていた探索者になると言い出した。
高校にも行かずにだ。
それはもう大騒ぎだったよ。
『到頭お金がなくなったんじゃないか』とか、『やっぱり心が
廊下で擦れ違う際、クスクス笑う奴まで居たな。
・・俺の両親が防犯マニアだった事は話したか?
実は
2人でアプリを開発したり、株に投資したりしながら、巨万の富を築いた。
そしてそれをやっかむ奴が非常に多かったんだよ。
俺がどんなに努力して残した成績でも、『家がお金持ちだもんね』の一言で済んでしまう。
『沢山習い事ができるんだから、当たり前だよね』で終わりだ。
『あれだけ体格に恵まれれば、強くて当然だろ?』なんて、武道の大会後に何度耳にしたか分らない。
だがな、奴らの言っていた事が本当なら、金持ちなら誰でも優秀な事になる。
体格さえ良ければ、皆が強いはずだ。
そう俺が考えて何が悪い?
口先だけの、努力の価値さえ理解できない馬鹿どもを、助けてやる義理などない。
こう考える事は悪い事か?
両親が亡くなって、本当に辛かった時に、それでも努力を怠らなかった俺なのに、何時までも過去を引き
「・・・」
「勘違いするなよ?
美冬の事を責めてる訳じゃないからな?
ただ、昔あったような事例に触れた時に、ついそうした言葉が口から零れてしまうんだ。
怒りや憎しみを、まだ完全に消化し切れていないせいだろう。
独り言や呟きで毒を吐くのは、ボッチだった頃の悪い癖だな」
苦笑いする俺を、美冬が抱き締めてくる。
「和馬は悪くないよ。
急がなくて良い。
ゆっくりで良いんだよ。
今の君のままで過ごしていれば、何時かはきっと、他者にももっと寛大になれる日が来る。
私やお仲間さん達は、何時だって君の味方だし、ずっと側に居る。
過去を思い出して辛くなったら、私達を抱く事で発散して良いよ」
「それじゃあ母親の胸に吸い付く子供と同じじゃないか」
「フフフッ、ちょっと似てるんじゃない?
和馬、マザコンだし、大きな胸が大好きでしょ?」
「・・今夜は美冬の胸ばかり攻めよう。
どんなに懇願されても、決して入れてやらない」
「酷いよ!
これ以上胸が大きくなったらどうするの?」
「ブラを買い替えれば済むだろ」
「・・・」
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