第24話 偵察と密談

 その後、予定通りにバイトの候補先を見て回った二人だったのだが——

 それが終わった直後、京華が真っ先に異議を唱えていた。

「……おい。なんか、ちょっとおかしくないか?」

「……何……がかな?」


 場所は街中の大通りに面した路上。最後に入った店舗のすぐ外だ。もう日が暮れて薄暗くなってきている中、京華は相手に半眼を向けていた。

「……以前から興味があって、色々と調べてた。お前、さっきそう言ってたよな? それにしては……なんか、偏ってないか? 女子が前面に出て接客する職場に」


 この鋭い指摘に、乙葉は視線を泳がせながら言い訳を探す。

「……たまたまだよ。色々と調べてたからこそ、二人でもやれそうな仕事先がピックアップできただけだから……」

 すると、一方の京華はそこで雰囲気を変える。


「……百歩譲って、それは納得しよう」

「⁉」

「でもな……最後の……ここはなんだ?」

「……ここ……は……」


 乙葉が焦って言葉に詰まる中、京華は可能な限り胡乱な視線になって尋ねていた。

「ここは世間一般でいう……メイド喫茶なるものじゃないのか?」


 この詰問に——

「……おばさん……なんてものを混ぜてるんだ……」

 乙葉は小声になりながら脱力する。ちゃんと確認しなかった方も悪いのだが、まさか実の母親がそんな候補をリストに混ぜているとは、夢にも思っていなかった。そのため、傍にある店舗内へと、疑いもなく踏み込んでいる。すぐに出てきたのだが、先程から動悸が止まらなかった。


 ただ、一方の京華は、そんな事情など全く知る由もない。

「おい。人の話を聞いてるのか?」

「⁉」

「まさかと思うが……俺に、萌え萌えキュンとかやらせようとした訳じゃないよな……?」

「……よ、よく知ってるね、京華ちゃん……」

「……オムライスか? オムライスに、おいしくなるおまじないを掛ければいいのか⁉ 答えてくれよ、乙キュン!」

「乙キュンやめい!」

「——ぶぅ⁉」


 と、親友の顔面に掌を向けたことで、ようやく京華が落ち着く。一方の乙葉は思わず手が出てしまったことを恥じつつも、とにかく認識を改めようとしていた。

「……とにかく、最後のは単なる手違いだから。ケアレスミス。私だって、あんなのやる気は全くないよ……」

「……ほんとにほんとだな?」

「しつこい」


 この断言に、京華もようやく受け入れる。

「……だったらいいが……てゆーか、今日はなんか余計に疲れた……もう何も考えたくないな」

 そのまま自転車に跨って帰ろうとしていたが、そこで乙葉が最後の確認をしていた。


「……だね。ただ、私の方はすぐにバイト先を決める必要もないけど……そっちの懐具合は大丈夫なの?」

「……なるべく早く見つけようか」

「それがいいかもね……」

 どうやら、切羽詰まっているらしい。京華も自分の手で探すことにしたようで、乙葉はそれを可能な限りサポートする決意をしていた。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ちょうど同じ頃——

 乙葉と京華がいる路上を見渡せる雑居ビルの一室に、例の女子三人組の姿があった。カラオケボックスの個室を借りているのだが、まだ誰もマイクは握っていない。そのまま数分待っていると、やがて二人組の男がその部屋に入って来た。


「——よぉ、久しぶりだな三人とも」

「今日は何して遊ぶんだ?」

 両者とも、チンピラにしか見えない。顔馴染みのようではあったが、一方の女子達はあまりいい反応はしていなかった。


 一人が代表して口を開く。乙葉と京華へ真っ先に絡んでいた例のリーダー格の女子だ。

「……今日はちょっと二人に頼みがあってさ」

「頼み? いいぜ、内容と報酬によるけどな」


 男二人が我が物顔で中央の席に陣取っていたが、それには特に触れない。視線を逸らしながら、小声で本音を漏らすだけだった。

「……その下心がウザいんだよね……」

「ん? 何か言ったか?」


 男二人がなおも態度を変えない中、一方のリーダー格の女子は、ここで自身のスマホを取り出しながら話を進める。

「別に。それよりも……これ見てくんない?」


 その画面には——

 教室内で前後に向き合って座る乙葉と京華の姿が。今日、帰る間際に敢えて傍を通り、盗撮してきたものだ。それを男二人に見せると、両者ともに似たような反応をしていた。


「お! 可愛い娘じゃん」

「それも二人。この娘達が何?」

 一方の男が詳細を尋ねると——

 ここで、その女子は瞳に暗い闇を湛える。


「実は……こいつらをちょっと痛めつけてほしくてね」

「……へー……なんか訳あり?」

 男の片方が何気に聞いていたが、相手は無下に扱っていた。


「細かいことは気にしないで。それと、実行する際は、あたし達の名前も絶対に出さないでほしいんだよね。厄介なことになりそうだから……」

「と、いうと?」

「だから、細かいことは聞かないで」


 その女子が何かを思い出しながら苦虫を嚙み潰したような表情を作っていると、もう一方の男が代わりに聞き直す。

「……それで、見返りは?」

「……前と同じでいい? 成功報酬になるけど」

「いいけどよ……で、やり方は俺達が決めていいのか?」


 この確認に——

 リーダー格の女子は、嘘偽りのない本音を吐露していた。

「ご自由に。あたし達は、こいつらが泣き叫ぶ姿を見たいだけだから」


 これを聞いて——

「……ふーん……まぁ、前向きに考えておくか……」

 男二人は適当に了承する。その後、女子三人組は現時点で分かっている対象の情報を提供し、今後も意思疎通することをお互いに確認し合っていた。

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