第230日目 6月6日

 森の入口に嫌われ者の魔女が住んでいた。その家の前に赤子が捨て置かれた。泣き声は一晩中続き村人たちが声の出処を見に行くと魔女が赤子を家に連れ込むところだった。それきり泣き声は一切しなくなった。

 数十年後、市場に見たこともない美しい娘が訪れた。透けるような白い肌とまっすぐ伸びた背筋。鳥の囀りのような可愛らしい声で美しい言葉を話した。誰もが一目で夢中になるほど完璧な娘だった。その娘のことを誰も知らなかった。

 村人たちは娘のあとをつけた。すると森の入口にある家に帰って行った。魔女の家だ。村人たちはあの時の赤子だと気づいた。生きていたのだ。魔女はどうしたのだろう。

 翌日も娘は市場にやってきた。村人たちは興味津々だ。誰が声をかけるか。娘に声をかけたのは村長だった。

 娘は17歳だと言った。おばあさんが自分を育ててくれたこと、おばあさんに感謝していること、そしておばあさんを世界で一番好きなのだと言った。可哀想な娘!村の誰もがそう思った。娘を守らなければ!魔女の家から連れ出してあげなければ!

 娘が市場にいる間に村の男衆が集まった。魔女退治だ!勢い勇んで魔女の家に突入すると中は荒れ果てていた。人が住んでいる形跡はなく床は朽ち果て穴だらけだ。まるで数十年前から誰も住んでいない廃墟のようだ。

 薄気味悪くなった男たちが一人又一人と村に帰って行った。最後に村長が村に帰り着くと男衆たちが大騒ぎしている。

「何事だ?」

「誰もいないんです」

 残った村人が居なくなっていた。ひとり残らず。

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