第百三十六話 帰ってきた二人

「フェルドナージュ様。リルとサラが帰還しました。ルインも一緒です。突然の面会を

お許し下さい」

「許す。急ぎ童の下へ」

「はっ。三人とも阻喪の無いよう」

「ええ、心得ております。フェルドナージュ様。お久しぶりに御座います。お目通りを

お許し頂き有難うございます」

「よい。報告はフェドラートより受けている。其方たちには感謝しておる。

童の甥と姪を助けてくれた事、礼を言う」

「勿体なきお言葉」

「ベルータスの奴めが既に戦争をしかけるため出陣済みであること。

それに我が側近の一柱、黒星のベルローゼが足止めを試みておる事。

それから彼奴らはリルとサラを人質に、童が油断し本気を出せぬであろうと考えている事。

以上相違無いな?」

「はい。仰せの通りです。リルとサラも説明を」

「フェルドナージュ様。申し訳ありませんでした。我々が不甲斐ないばかりに。ですが

仕掛けだけは万全です。本来なら死すべきこの命。生きながらえてしまいました」

「ベルータス七柱のうち、死霊纏いのアンジャナ、拷問のミューズの二名を仕留めました。

ただ、赤刃のリベドラにサラを人質に取られてしまい、捕らわれた所をルインに救われました」


 おいおい、敵将の首二つも取ってきたのかい? 

 拷問のなんちゃらを打ち取ったから拷問で死なず済んだとかか? 


「赤刃のリベドラには気付かれないように起動式爆破憑依をかけてあります。

私が死ねば即発動だったのですが」

「よくやった。二人を失わず敵の戦力を削ぎ、尚且つこちらに先制の機会も生まれた。

ルインには後ほど多くの褒美を取らせる。二人にもだ」

「勿体なきお言葉。しかしフェルドナージュ様。お話せねばならぬ儀が御座います。

リルもサラも、私に一度封印されています。解放すなわち死と聞きました。

共に私の下で行動する事になってしまうでしょうが、お許し頂けますか?」

「……うむ。本来であれば二人とも死んだ身。今後は其方の配下として存分に腕を

振るわせるがいい……我が甥と姪を部下に持つ以上其方には剣客では無く、我が一将

として働いてもらいたいのだ。勿論其方には主がいる。その事は考慮し扱いは直属ではなく

自由にしてよい。フェルス皇国の一戦力として働きを期待する」

「承知いたしました」

「それとフェドラートより其方の主について聞いたのだが、童も少し興味があって

のう。この戦いが終わったら、少し手ほどきをしてやろうと思ってな。特に礼儀作法に

ついてはきっちりと教えねばな」


 背中にすごい汗をかいた。

 すみません。あれが可愛げがあるんだけどすみません。 

 喋り方はいいので作法だけお願い! と心で念じる。


「フェルドナージュ様。出陣の準備が整いました」

「うむ。其方たちには後日連絡を寄越そう。フェドラートの領域訪問許可だけは出して

おくように。領域から童の闘いを見れるようにしてやろう。ベルータスを血祭に

上げる様をそこで見届けるがいい。皆の働きによりどれほど童が優位に立ったのかをな」



 そう言うと、フェルドナージュ様は一匹の小さい赤目蛇を出して寄越し、玉座から腰を上げた。

 立ち上がるのは初めて見るが、威風堂々で美しすぎ、直視できない。

 妖艶を極めたまさに妖魔。ただ青銀蛇が沢山いてめっちゃ怖いです。


「カドモス、ピュトン。参るぞ」


 そう言うと、天井から蛇とは思えない美しい装飾の施された蛇が二匹、どさりと

降ってくる。

 無茶苦茶びっくりした。

 二匹の蛇はフェルドナージュ様の両腕に絡まる。 

 フェドラートさんの顔が真っ青で冷や汗が出ている。

 あれ、やばい奴だ。俺にはやばすぎてよくわからない。


 ――こうして邪剣のフェルドナージュ様が出陣された。

 その場を退出し、急ぎ足で妖兵エリア南東の泉を目指す。

 メルザはきっと心配しているだろう。


 ――泉へと戻り水面へ飛び込んだ俺は、久方振りに家に戻れる喜びと、メルザに会える事に

心が弾むのを感じるのだった。

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