第百三十三話 スターベル

 指揮官を撃破したので、全ての敵が逃げ出した。

 絶空は地上に降りたが、破壊し尽くされてはいない。


「おい。あの無能を良く無傷で仕留められたな」

「なんかファナに惚れ込んだみたいで。楽勝でした」

「最後まで無駄だらけの行動を取ったようだ。そこの女。でかした。

後日褒美を貰え。あれでもベルータス七将の一柱だ」


 確かに遠隔攻撃だし、必中矢で爆発とか粉砕とか厄介だ。

 威力こそ無いが、かき乱す役としては十分機能する。


「それより、この乗り物破壊しなくていいんですか?」

「動力部や操作する場所などは避けて攻撃した。

これを奪って後ろからベルータスを急襲する」


 成程! その手があったか。けど、このでかい奴を俺たちだけで

動かせるのか? 


 俺たちは絶空に乗り込む。残っている兵士がいないか確認したが、誰も乗っていなかった。

 ベルローゼさんが舵を取ると、絶空がゆっくり動き出す。

 流石に敵艦だから落ち着かないが、ファナとレウスさんを封印から出して見張りを頼む事にした。

 ようやくリルとサラの様子を確認する。二人はアクリル板の中で横たわったままだった。


「ベルローゼさん。二人はこの中です」

「……なんだこれは。アーティファクトの中にいると思っていたがどういう状況だ?」

「俺の中に封印したんです。勿論外には出せます」

「非常識な奴だと思っていたがここまでとは。この二人を封印したという事は、貴様が

こいつらの主として認められたという事だ。だが助けたのは貴様だ。フェルドナージュ様

も納得するだろう」

「二人を救えればそれで十分。事が済んだら解放しますよ」

「それは難しいだろうな。一度取り込んだ者の解放。それはすなわち死だ。生涯を共に

過ごすしかなかろう」

「そうだったんですか……けどそれならそれで構わない。俺にとってもこいつらは世話に

なった大切な友です。一緒に生きていきます」


 初めて知った。だが後悔などは全くない。

 ファナもレウスさんもリルもサラも。皆と一緒に生きていけばいい。


「だが、貴様は今後フェルドナージュ様により一層気に入られるな。甥と姪を同時に

抱える以上、ただの剣客にしておくことはできん」

「ええ。地上でやることもありますが、地底での本拠はフェルス皇国。一つにお仕えする

という形は難しいですが、地底、地上、それぞれに一つの地域を拠点として活動していく

つもりです。地底ではフェルス皇国が俺たちの故郷。必ず守り抜いて見せます」

「それでいい。貴様を認めてやろう。貴様はまだ、妖魔の闘い方を知らぬ素人だ。

ベルータスの件が片付いたら、直々に指導してやる。有難く思え」


 まじで? 俺も黒星の鎌とか使えちゃうの? これで主人公の仲間入りか? 


「勘違いしているようだが、俺の技は適性が無ければ使えない。

あの技はそうそう適性があるものではない。諦めるんだな」


 心を読まれた! あの主人公技、使いたかったのにな。

 派手な遠距離攻撃はお預けか。人生そう甘くはない。

 リルとサラを一度外に出して彼らの装備を付けさせる。

 こうしておいた方が身体能力も上がって回復が早まるかも知れない。

 二人は今、妖魔装備を全てはぎとられたのか、何もつけていない。

 ボロボロの衣類だけだ。サラはちょっとはだけているのでファナの着替えを

着せてある。

 念のため幻薬をもう一度使って再び封印した。


「どちらも妖魔の力を相当失っている。今の貴様より弱い位だ。ベルータスの狙いは

外れたようだがな。二人とも持っていた装備は幻想級のアーティファクトまでだ」

「やはり神話級アーティファクトは一つ見つけるだけでも大変なんですね」

「ああ。地上で見つかれば奪い合い、殺し合いに繋がる。貴様が経験したようにな。

ただ、あれを見極めるには特別な力がいる。アーティファクトかどうかだけなら

破壊を試みればわかるがな」

「そうですね。俺にもアーティファクトかどうかまでしかわかりませんでした。

普通に使う分には便利って事くらいしか。

「強力な装備は持ち主の能力に左右される。だからこそ貴様に指導してやる気になった。

無能に興味は無い」


 ベルローゼさん程の方に興味を持たれるのは非常に嬉しい。

 敵国に黒星のベルローゼなんて恐れられる程の人物だ。

 どんな厳しい特訓でも甘んじて受けよう。

 地上ではシーザー師匠にも恵まれた。

 俺は不運だと思うが、良い師に巡り合う運はあったらしい。


「見えてきた。あれがベルータスの巨大空中船スターウィユベール。通称スターベルだ。

本人の名前から取ったんだろう」

「なっ……でかさの規模が違いませんか?」

「それはそうだろう。あれ自身が奴そのものの能力だ。四皇の一柱だけあり、バカげた力の

持ち主だ」


 ふざけてるのか? あんな規模の船……都市一つ程の大きさだぞ。

 あんな規模で移動するとかありかよ。

 目の前の想像を超える規模の敵の強大さに、言葉を失った。

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