第十二話 メルザの領域

 泉を抜けてメルザの領域に戻ってきた。

 日が暮れてもうすっかり夜だ。

 

 この領域には小さな洞穴が三つしかない。

 それ以外は湖につながる道と、木で囲まれたスペースがあるくらいだ。

 ここに種をまけば小麦が実るか? 


 俺は種をまいてメルザの居住洞穴に戻る。

 メルザは気に入ったワンピースを乾かし、元の服に着替えていた。


 当面の問題は食料とあのでかいイノシシみたいなやつだな。


 あいつ以外の化け物がいたら、それはそれで厄介だ。

 そういえばメルザはお金を使えば町で買い物ができると言っていた。

 この世界の事をまだよく知らない。

 元々住んでいた場所も何処だかよくは知らなかった。

 貧しい家でほぼ家から出ずに過ごしていた。

 俺が捨てられたあの日は、馬車か何かで遠くに連れていかれた気がする。

 揺れが酷かった事くらいしかわからない。 

 完全に無気力だった。


「なぁメルザ。前に町があるって言ってたよな。

それってどんな所なんだ? ここから直ぐ行ける場所なのか?」

「ジャンカの森の先だ。ゴサクに案内してもらったんだ。

お金もってねーからよ。追い出された。町に入りたきゃ金持ってから来いってな」


 そうすると、あの化け物をどうにかしないと辿り着けないか? 

 そのゴサクってやつが気になるが、今なら武器もあるし明日行ってみるか。


 ――パモを連れて別の洞穴の中にでかけろりんを出してもらう。

 俺たちは焼きガエルを食べて、その日は眠りについた。


 ――――そして翌朝。 植えた小麦の種を見にいくと、もう成長しきっていた。

 ただ植えておくだけで、一日で成長するって早すぎるだろ。

 食べられるようになるまで、もっとずっと時間がかかると思ったが……とりあえず刈り取って、でかけろりんを置いた洞穴にしまっておく事にしよう。

 小麦粉にするにも道具が無い。


 メルザの居住洞穴にあるのは布団とわずかな衣類。鍋とスープの入れ物に薪が少し。

 木で作ったさじくらいしかない。


 メルザは朝が弱く、まだ眠っている。

 俺はシミターを持ち、道で少し振るう練習をした。

 燃斗は使えたが、他の……特に土斗が使いたい。

 ……やっぱり駄目か。あれが使えれば色々造れれそうな気がするのに。

 メルザに説明しても「よくわからねぇ物は造れねぇ!」と言われた。

 イメージが大事って言ってたしな。

 さて、戻ってメルザを起こすか。


 寝床に戻るとメルザは布団にしがみついて寝ていた。

 冒険から帰ってまだ一日。疲れているんだろう。

 もう少し寝かせておくか……。


 そういえばメルザは左腕を失っているが、その腕をよく見たことはなかったな。

 怪我か事故で失ったのだろうか? 

 それにメルザの親はどうしたのだろう。

 

 俺たちはまだ、互いの事は全然知らない。

 だがしっかりと信頼しあっているのだと思う。

 だから、過去の事は少しずつ知っていけばいい。

 俺はこいつのために生きると決めたのだから。


 ――――それからしばらくして、ようやくメルザが起きた。


「んぁー、もう飯の時間かぁー? ……おぅ。おはよう、ルイン!」


 満面の笑みでおはようを言うメルザ。俺も笑って挨拶する。


「メルザ。食事が終わったら今日はまたジャンカの森に行こう。

昨日話していたゴサクって奴のところに案内してもらえるか?」

「あぁ、わかった。カエル肉にも飽きたしスッパムも食いたいしな!」

「ぱみゅぱーみゅー」


 パモも起きていたようで、ご機嫌な様子だ。

 メルザはささっと食事を済ませていつの間にか赤薔薇ワンピースに着替えていた。


「そうだ、昨日の宝箱にあった、この落月の短剣はメルザの腰につけておくぞ。

それとお金は預かっておくからな」


 メルザの腰部分に落月の短剣をつけてやる。


「いいのか? これ結構値打ち物だぞ? ルインが持っていた方が安全じゃないか?」

「大丈夫しっかり固定したから。メルザが暴れても落ちない」


 革袋の紐部分を外してメルザにしっかりと巻き付けておいた。

 これで準備は万端。

 俺たちは洞穴を出て、再び湖からジャンカの森へと向かうのだった。


 

 ――――そしてジャンカの森に辿り着いた俺たち。


 メルザがスッパムの実を欲したので、前回同様取ってやる。もちろんパモの分もだ。

 メルザは「パモに詰めるだけスッパムを詰めようぜ」と言い、パモもそれを了承。

 三十個程スッパムの実を吸い込ませた。


「町はどっちにいけばいいんだ? ここからだと遠いのか?」

「まずはゴサクのとこにいかねーと。ここからじゃよくわからねーんだ」


 そういうと、メルザが先導して歩き出した。

 あの化け物が出た方向とは別の道だ。出くわさないことを

祈りつつ、俺たちはゴサクとやらがいる方へと向かっていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る