第16話 実験②

 先ずは鳴沢に俺の近くに居ると危ない目に遭うのだと把握してもらえる様に、遠くから付いて来る様に伝えた。

 しかし遠すぎて見えなくても困るので、取り敢えず50メートルくらいの距離から始める事にする。



 自宅のマンションを出て是政橋を渡っている時に、カラスが上空でケンカをしている。

 早速クレアセンティエンス(危険察知能力)が発動、逃げたカラスが俺の頭に突っ込んで来た。

 俺はしゃがんでやり過ごす。

 カラスはカーカーと鳴きつつバトルしながら遠ざかって行った。

 暫くして交差点で信号待ちをしていると上空の電線にハトが数羽留まっている。

 俺はおもむろにリュックから透明な下敷きを取り出し頭上に掲げると、ポタタッと鳥糞が2つ付いた。

 ふむ、今日の朝はこんなものか。



 学校に着くと下敷きを校舎出入口付近の水場で洗う。

 鳴沢に後ろから声を掛けられた。


「よく鳥糞が落ちて来るの判ったわね。」


「慣れたもんだ、鳥が頭上に居たら鳥糞が落ちて来るなんて当たり前だからな。」


「貴方の言う不幸って、この程度なの?」


「そんなワケ無いだろう、放課後もよく見ていろ。」


「じゃ、放課後は同じく50メートルでいいかしら。」


「そうだな、今日の距離は50メートルで、不幸を確認出来次第、5メートルずつ距離を詰めて行こう。」


「了解したわ。

 じゃ、また放課後ね。

 あ…放課後と言わず、もう教室でも話し掛けてくれて構わないのよ?」


「あぁ、話す機会があったらな。」


「そうね、貴方の席は私の所から少し離れてるから…。

 じゃあね。」


 鳴沢は寂しそうに微笑んだ。


 クソッ、俺は彼女にあんな顔をして欲しくてイジメを解決したんじゃ無い…

 誰か…早く鳴沢に寄り添う友達や彼氏が出来ないだろうか…

 それに今更だが、俺は彼女を危険に巻き込んで実験なんて事をしていていいのか?

 俺が鳴沢に近付く事で、彼女を物理的に傷付けるかもしれないのに…

 俺は今後、鳴沢に近付いてもいいのだろうか…?

 彼女の後ろ姿を見ながら、そう思わずにはいられなかった。



 結局放課後まで考えたが、俺は鳴沢から遠ざかる決心が付かなかった。

 俺は自分自身の中で、孤高と孤独を履き違えていたのかもしれない。

 今後の鳴沢との実験の結果次第で、彼女から離れてぼっちに戻るか、小学生以来ずっと居なかった友達になってもらうか決めようと思った。

 友達…なってくれるだろうか…?



 放課後、また鳴沢に離れて付いて来てもらう。

 今日は帰りにコンビニに寄って弁当を買おうと思い、コンビニの駐車場に止まっている乗用車の後ろを通ろうとしたら危険察知が発動した。

 俺は数歩乗用車から離れると目の前で乗用車が猛烈にバックし、コンビニの雑誌売場付近にガラスをブチ破って突っ込んだ。

 俺に飛んで来たガラスの破片等は全てチカラで防いだので怪我は無いし、周りに巻き込まれた人は居ない。

 運転手は老人の様だ、きっとギアを入れ間違えたのだろう。

 急ぎ店内に入って中を確認するも、怪我人は居ない様だ。

 店員は1人がオロオロとし、1人は110番で警察に通報している。

 俺が店の外に出ると鳴沢が近寄って来た。


「佐竹君、大丈夫だったの!?

 怪我は無い?」


「あぁ、大丈夫だよ、いつもの事さ…。

 これで解ったか?

 俺の言っている不幸体質の意味が。」


「…信じ難いけど、この目の前の光景が今後も続けば信じざるを得ないわね…。」


「どうする?今後もこの実験を続けるのであれば、鳴沢も危険な目に遭うかもしれない。

 …もう止めておくか?」


「いいえ、続けるわ。

 むしろ確信めいたものを感じるわ。

 私が貴方の傍に居れば、貴方は不幸体質で無くなるって事を…

 何故かしらね。」


 彼女はそう言って俺に笑顔をくれた。

 

『フォー、アナタが神かニャ!』


「…ん?何か言った?」


「イヤ…何も。」


 びっくりした、俺間違えて心で思った事をテレパスで彼女に送ってしまったのかもしれない。

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