第20話 百人一首の女王

 「お待たせ~」

 アキの声が和室中に響く。

 「「おつかれさまでーす」」

 和室中から、アキに対して声が掛けられる。

 「凄い人気...」

 凛大はどう言い表せればいいか分からない中そう呟いた。アキの先輩はそれを聞いて簡単に説明してくれる。

 「アキは、先月の地域の大会で圧倒的強さを見せつけて優勝に導いた。味方に強いやつがいるだけでやる気や安心感を感じる。みんなアキを信頼してるし尊敬してる。ただ彼氏がいないというのは誰一人信じていないけどね」

 アキは凄いやつだった。実力もあるし人間関係もすごくいい。『自分とは全く違うのかもしれないな』と凛大は思った。もちろんアキの先輩の最後の一言は知らない。

 「じゃあ、ちょっと遊んでいこう!」

 真っ直ぐ凛大の方に向かってきたアキは、凛大の手を引っ張って和室の端の方に連れて行った。他の部員の視線が凄い。「新入部員?」「彼氏?」など様々な考察が聞こえる。今後の学校生活が面倒くさそうだと想像する。

 接客用なのか知らないけど、部員とは違い座布団のある場所に座る。アキは喋りながら札を配りだした。the百人一首という感じの雰囲気。

 「確か、経験無いって言っていましたよね?」

 アキは突然敬語になる。目がなんとなく鋭い。さっきまでとは違い”カッコいい”という言葉がよく似合う。すると和室にいる他の部員の思考に違和感を感じた。

 『またアキさんやっちゃうのかな?...』『きっとまただろうな...』『このひとも結局入部しないんだろうな...』というマイナスな雰囲気。そしてアキの先輩の思考に答えが出る。

 『あの目はまた本気か...いつもそれで男子は入部しないのに...』

 「じゃあ、始めよっか?」

 凛大の思考を遮るように、アキは始めようとする。他の部員が読み札を一枚手に取ったとき...

 「ひとつ賭けをしよう。」

 凛大は笑顔でそう言った。アキは少し動揺する。

 「なんですか?」

 アキは少し不安そうだ。

 「僕を入部させたいんだよね?」

 アキは強くうなずく。

 「じゃあこうしよう。アキが勝ったら入部する」

 それを聞いてアキは一瞬顔が明るくなる。

 「ただし全力でやること。もちろん僕が勝っても入部しないとは言わない。保留って感じだ。地域トップの実力者にはいい話でしょ?」

 驚いた顔だったアキは落ち着いて問う。

 「何か適当なこと言ってその話取り消したりしませんよね?」

 アキはガチだ。手を抜くこともないだろう。

 「これだけ人が聞いてれば問題ないと思うよ?」

 それを聞いて、

 「それでいきましょう」

と、アキは一言だけ告げた。気づけば和室中の視線を集めている。そして始まる。


 「さ...」

 一音でバン‼という凄まじい音が響く。

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