第十三話 どうしてイルムガルドがメイデスたちといるんだよ

「魔王軍がここに近づいている!


「それは本当なのかかいご主人様マスター


 玉座の間から出た俺は、ルナさんたちが使用している部屋に向かい、魔王軍が近付いていることを知らせる。


「ああ、俺たちは先行して先に城下町の外に出る。そして第一陣としてやってきた軍団と戦おうと思っているんだ」


 魔王軍から城下町を守ることを伝えると、彼女たちは互いに顔を見合わせる。そして無言で頷いた。


「分かった。直ぐに準備をするよ」


「数分で済ませる。ご主人様マスターは先に向かってくれ」


「分かった」


 先に行くように言われ、部屋から出ていく。そして城下町の外へと向かった。


 城を出て城下町を駆け、門の外に出る。


 しばらくすると遅れたルナさんたちが合流し、いつでも戦えるように臨戦体制に入る。


 さてと、まずは敵が大体どの辺りまで近付いているのか調べるとしますか。


「エコーロケーション!」


 探査魔法を発動し、周囲に超音波を放つ。


 これで跳ね返ってくる音をキャッチすれば、だいたいの状況を把握することができる。


 数秒待ってみると、音が何かに反射して戻ってきた。


 この感じ、3体、いや、4体か。全員がこちらに向かって来ている。跳ね返って来る音の大きさから考えても、動物の類のものではない。


 つまりは魔族の可能性が高い。


「ルナさん、メリュジーナ、もう直ぐ魔族たちがやって来る」


「分かったわ」


「相手が魔族であろうと、一歩たりとも城下町へは侵入させないのだから」


 敵が近付いて来ていることを知らせると、2人とも表情を引き締めた。


 思った以上に敵の到達が早い。城の兵士たちが来る気配がしないし、彼らの準備が間に合わなかったのだろうな。


 まぁ、元々は俺たちだけで魔王軍と戦うつもりでいたから別にいい。


 増援について思考を割いていると、奥の方から何者かが現れる。


 最初は遠かったので誰だかわからなかったが、近付いて輪郭がはっきりとすると、思わず目を大きく見開く。


 1人はロングの黒髪にボンテージを着用しており、鞭を握っている。そしてその女性の両サイドには少年の姿をした2体のパペット人形。


 メイデスとパペットーズであるパーぺとマーペだ。


 だが、もう1人の人物が、俺の鼓動に早鐘を打つ原因を作る。


 金髪のランダムマッシュの髪に赤い瞳の優男。


「イルム……ガルド」


 メイデスたちと一緒にいたのは、ゲルマンに連行されたはずの元育ての親だった。


「イルムガルド……どうして……お前がメイデスと一緒にいる?」


『ああん? 何だ? この体の持ち主の知り合いか?』


 どうして魔族たちと一緒にいるのかを訊ねると、イルムガルドは首を傾げながら意味の分からないことを口走る。


『アハハ、アーハハハハ!』


 困惑していると、突然メイデスが笑い出した。


 なぜ彼女が突然笑い出したのかも理解できず、状況が掴めない。


『その顔は現状を理解していないようであるな。教えてあげても良いが、今の方が余程面白い。なので、教えるのは止めよう。真実を知りたければ、おのれの知恵で真実に辿り着くのだな』


 メイデスが不適な笑みを浮かべてくる。


 どうしてイルムガルドが、メイデス側にいるのかを教えてもらえない以上は、自分自ら答えに辿り着かなければならない。


 くそう。どうして魔族なんかに加担するんだよ。いくら落ちぶれて腐っていたとしても、貴族だった頃のプライドくらい持っていそうなのに。


『おやおや? テオはまだ気付いていないようだな?』


『プププ、いつ気付くか楽しみだね。兄ちゃん』


 パペット人形のパーぺとマーペが上唇から上の部分を横にずらす。おそらく口角を上げているという演出なのだろう。


『まぁ、お前がこいつとどんな関係だったのか知らないが、お前から感じるこの感覚、俺を倒したハルトに似ているな。そうか。テメーがハルトの生まれ変わりとか言うテオか』


 イルムガルドがニヤリと口角を上げる。


 俺を倒したハルトと似ている? まさか、目の前にいるイルムガルドは!


「おい、どう言うことだ。どうして魔王がイルムガルドの肉体を使っている」


『お! やっと気づいたみたいだな』


『テオ君大正解! パチパチパチパチ』


 どうやら正解だったらしく、パーぺとマーペが拍手を送ってくる。


 敵側からしては褒めているのであろうが、俺に取ってはバカにしているように感じてしまい、拳を強く握る。


「イルムガルドの肉体から離れろ! ファイヤーボール!」


 怒りのボルテージが上がり、感情的になってしまった俺は、魔法を発動して火球を放つ。


 だが、敵に向かって飛んで行く火球は簡単に避けられてしまい、木にぶつかる直前で霧散して消える。


『ほう、攻撃が躱されたと分かった途端に自ら掻き消したか。確かにあのままでは火事になるかもしれないな。一応そのような判断はできる冷静さを持っておったか』


 直前で消える火球を見て、メイデスがポツリと言葉を漏らした。


『ハハハ! 楽しくなって来たじゃないか! ハルト……いや、転生後はテオだったな。あの時の続きといこうじゃないか』


「テオ君だけに戦わせる訳にはいかないわ」


ご主人様マスターはわたしが守る!」


『悪いが、魔王様の邪魔をさせる訳にはいかない』


『そうだな。俺たちもついに真の力を見せる時が来たようだな』


『そうだね。兄ちゃん! メイデス様に僕たちの活躍を見てもらおうよ』


 俺の前にルナさんとメリュジーナが立つと、敵の方もメイデスたちが前に出た。


『さぁ、テオよ。今度こそ決着をつけようではないか』

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