第六話 テオの出生後の話し③
~テオの母親視点~
「魔族ども、あんまりわたくしを舐めないでください。これでも、初代国王ハルト様の末裔なのですから!」
ワールダークの裏切りにより現れた魔族に向け、威厳を保ちつつ言葉を吐き捨てる。
『おう、おう。さすがあのハルトの血縁、威勢が良いじゃないか。でも、世代が変わる事に血は薄くなる。果たして、お前の中に、あの英雄の血が何千分の一残っているのかな? ワハハハハハ!』
魔族たちはニヤリと笑みを浮かべる。
確かにハルト様は多くの側室をお持ちでいた。王族の歴史には側室の子が王家を継いだこともある。私はその分家、魔族たちの言うように、ハルト様の血は薄いかもしれない。けれど、この国の女王として、魔族に屈する訳にはいかないわ。
初代国王のハルト様の誇りに欠けて、必ず魔族を追い返す。
「オギャア、オギャア、オギャア」
『おやおや、赤ん坊が泣いているぞ』
『そのガキもハルトの血縁か?』
『どっちにしろ、殆どハルトの血を失っているザコだ。女王もろとも、あの世に送ってやる』
『良かったな。己が崇拝するハルトに会えるぞ。アハハハハハ!』
『さぁ、死んでもらおうか。アイスランス』
魔族の1人が魔法を発動し、氷の槍を生み出すとこちらに向けて放つ。
「あんまり舐めないでよ。ファイヤーボール」
魔法を発動して火球を生み出し、飛んで来る氷の槍に当てる。敵の氷を溶かして水に変えることはできたが、水の冷却効果によって火球も消え、相殺にとどまってしまう。
『腐ってもハルトの血縁と言うだけはあるな。俺の魔法を相殺するとは』
『だが、いくらなんでも多勢に無勢。一度に全ての魔法を相殺することなどできまい。ファイヤーボール』
『ウインド』
『アイスランス』
『ロック』
『ライトニングボルト』
魔族たちがそれぞれ魔法を発動し、火、風、氷、岩、雷の魔法が同時に飛んでくる。
まずい。いくら何でも、全ての攻撃を躱すことも相殺することもできない。確実にやられてします。
テオちゃんごめんね。あなたを守って上げることができなかった。
死を覚悟し、両の瞼を閉じる。
「オギャア、オギャア、オギャア、オギャア、オギャア!」
『そんなバカな! 俺たちの攻撃を全て防いだだと!』
『ワールダークから聞いた話しでは、同時に複数の魔法を展開することなどできないと聞いたぞ』
魔族たちが驚く声が耳に入り、閉じていた瞼を開ける。
わたくしが全ての攻撃を防いだって言うの?
不思議に思いつつも、視界に入る光景を目の当たりにして思わず絶句する。
火球は水球により蒸発させられ、風魔法はより強力な風で気圧に変化を起こし、こちらに届かないようにしていた。そして氷の槍は火球により溶かされるも、火の玉は残り続けた。そして岩は届く前に粉々に砕け散る。
更に雷はいつの間にか纏っている水により防がれていた。
「オギャア!」
テオちゃんが泣くと、打ち消した魔法が反応し、魔族たちに向けて放たれる。
『『『『『グアアアアアアアアアァァァァァァァァァ!』』』』』
砕け散った岩が風によって持ち上がり、炎を纏いながら魔族たちを攻撃していく。
もしかして、テオちゃんが魔法を使ったっていうの!
驚きを隠せないながらも、抱いている我が子を見る。
「きゃあ、きゃあ、きゃはは」
ニッコリと笑顔を浮かべながら、楽しそう笑っているテオちゃん。
『なんだ。今のは? 女王、その赤ん坊はいったい何者だ!』
テオちゃんの攻撃を受け、床にへばり付いている魔族が問う。しかし、わたくしは答える気などない。
余計なことを口走って、魔族に情報を漏らす訳にはいかない。
『くそう。だんまりか。仲間たちもやられた。もう、俺しか生き残っていない。回復魔法が使えるやつが死んだ以上、この傷では長くは持たないか』
殆どの魔族をテオちゃんが倒してくれた。これなら、どうにかハルト様が残している異世界の道具を守ることができる。
『だが、俺たちにはメイデスがいる! あいつなら、きっと魔王様を復活させる手段を見つけ出してくれるはずだ。後は頼んだぞ』
重症を負っている魔族が指をパチンと鳴らす。その瞬間、空間に歪みが発生して渦が現れると、周囲のものを吸引しようと風を発生させる。
あの渦はきっと転移系のもの。あの中に吸い込まれれば、どこに飛ばされるのか分かったものではないわ。
この場の空気の流れが代わり、渦の中に様々なものが吸い込まれる。
渦の中心の気圧を低くさせて、周辺の気圧を高くさせることで、強風を生み出しているのね。
ここは踏ん張りどころよ。頑張りなさいわたくし。
足に力を入れ、どうにか踏ん張ろうとする。けれど、まるで対象物を呑み込むまでは治らないと言いたげに、転移魔法は発動し続けていた。
この場の気圧に変化が起きているせいで耳が痛い。それに空気が薄くなっているのか、呼吸もしづらくなってきた。
なんとしても、テオちゃんだけは、守らなければ。
必死に耐えていたその時、背中に何かが当たる。振り向くと、壁の破片のようなものだった。
「しまった!」
背中に激痛が走ったことで、一時的に力が入らなくなった。
腕が緩んでしまい、大切な我が子を滑り落としてしまう。
「テオ!」
わたくしの腕から離れたテオちゃんは、床に激突することなくそのまま渦の中に呑み込まれていく。
対象のものを吸引し終わったことで役目を果たしたのか、転移魔法は消えてしまう。
『ハハハハハ! 残念だったな。あの赤ん坊がどこに転移したのか俺にも分からないが、海のど真ん中であることを祈って……いる……ガハッ!』
言葉の途中で血反吐を吐いた魔族は息たえたようで白目を向き、動くことはなかった。
魔族の死が確認できた後、わたくしの意識をそこで途絶えてしまう。
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