第十五話 不死身の正体
「分かったぞ! お前の異常な回復力の正体が!」
カオスの異常な回復力の正体に気付き、咄嗟に声を上げる。
『私の不死身の正体に気付いた? 寝言は寝てから言うのだな。私は回復してはいない。不死身であるが故に肉体が自然再生されていくだけだ』
確かに、やつの言う通り、回復はしてはいない。だけど、別の手段を使って傷を治した。
俺の頭の中に浮かんだ仮説が正しいかどうか。今からそれを確かめさせてもらう。
「お前が嘘を吐いているかどうか、これで確かめる。ウエポンカーニバル!」
魔法を発動し、武器を作るのに必要な物質を集める。そしてそれらに質量を持たせるヒッグス粒子を纏わらせ、武器の形にすると、上空に剣や槍といった得物を展開させる。
「こいつを食らえ! ウエポンアロー!」
上空に展開した全ての得物の刃先をカオスに向け、そして矢のように飛ばす。
『そんなものでこの私が倒せると思っているのか!』
射出された武器はやつに飛んでいく。だが、カオスは爪を伸ばすと、致命傷になりそうな箇所を切り裂こうとする得物だけを弾き、ダメージを最小限に抑える。
『ハハハハハ! この程度の傷、直ぐに直してくれる!』
笑いながらカオスが声を上げると、やつに与えた傷が一瞬で塞がる。
その光景を目の当たりにし、俺は口角を上げた。
やっぱりな。予想通りだ。
「今ので確定したな。お前は回復魔法を一度も使っていない。だが、代わりに時を操っていた。だから傷を受ける前の状態に戻ったんだ」
『ハハハハ! アーハハハハ!』
やつの異常な回復力の正体を告げると、カオスはいきなり笑い声を上げる。
『中々の観察眼だ。その通りだ。私は時を操り、ダメージを受ける前にまで戻った。だけど、どうしてそれに気付くことができた?』
「最初に変だと思ったのは、お前がメリュジーナの火炎を受けたときだ。最初の回復が始まった時、違和感を覚えていた。どうして髪の毛まで元に戻っているんだ? ってな。人体を回復魔法で癒す場合は、体内の細胞を活性化させて傷を修復していく。だけど、髪の毛に対しては工程が違ってくる」
カオスのサラサラヘアーに指を向け、説明を続ける。
「本来髪の毛と言うのは、一度抜け落ちてから新しい髪の毛が生えてくる。だけどお前の回復は、髪の毛が抜け落ちて一時的にでもハゲになることはなかった。それが第一の違和感だ」
『まさか私の髪の毛の変化で普通の回復ではないと見切るとはな』
「それ以外にも普通の魔法とは違うと確信できる部分はある。砂浜でストライクをボコボコにした時、あいつは全ての歯を失った。だが、お前が現れてやつの失った歯を再生させた。年齢から考えても、永久歯である歯を元に戻すなど、いくら強力な回復魔法でもできないことだ。そのことを考えても『時』を操っているとしか思えなかった」
『なるほど、これは一本取られました。ですが、時を操ると分かった段階でどう対処すると言うのですか? 私はこの力を使えば、一瞬であなたたちを葬り去ることもできるのですよ?』
確かにやつの言う通り、時を操る魔法は尋常ではない。俺も存在は聞いたことはあるが、実物を見たのは初めてだ。
でも、だからと言って全然恐怖を感じてはいない。
「時を操るからと言って、それがどうしたって言うんだよ。確かに凄いな。でも、それだけだ。なんなら拍手を送ってやるか? パチパチパチパチ」
口で擬音を言いつつ、実際に拍手をしてあげる。だが、俺の態度がやつに怒りを覚えさせたようで、額に青筋が浮き出ていた。
『この私をバカにしやがって! お前、状況を理解していないようだな! 私が時を操れると言うことは、一瞬でお前たちを殺害することだってできるんだぞ!』
「そうだよ
カオスの言葉に同調し、メリュジーナが声を上げる。
「だって、全然怖くないのだからしょうがないじゃないか。なら、今すぐにやってみせろよ。その時に俺が死んだ時は、あの世で謝罪会見でも開いてやるから」
バカにするような口調で挑発する。だが、カオスは歯を食い縛るだけで時を止めようとはしない。
「できないよな。お前が使える時を操ることができる能力の範囲は狭い。もし、世界中の時を操れるのなら、ストライクを使って俺を倒すなんて、時間を無駄に浪費するようなことはしない。その力で直ぐに俺を殺していただろうからな」
完全に時を操るなんて超強力な能力を持っていたのなら、俺はこいつと出会ったその瞬間に殺されていたはずだ。でも、そんなことをしないと言うことは、おそらく杖を持っている段階で、限られた範囲にいなければ使うことができない。
そして時を操る能力は、使用者が生きていなければ発動することはない。ウエポンアローで無数の得物を飛ばした時、カオスが致命傷になる箇所だけを防いでいたのが、その証拠となるだろう。
もし、時間差でも発動する代物であれば、最低限のダメージに止めるなんて芸当はしないはずだからな。
おそらくやつは、時の魔法を開示したことで、恐怖心を植え付けようとしたのだろうが、相手が悪かったな。俺でなければ、真に受けていたかもしれない。
タネが分かった手品は面白くなくなるし、怖くないとみんなも分かって安心しているだろう。
「その杖がおそらく時を操る力を秘めている。それを奪えは、こいつはただのザコだ」
『くそう! くそう! くそう! どうしてこうなってしまった! 途中までは私の計画通りにことが進んでいたと言うのに!』
「悪いな。カオスがグレイ家をターゲットに決め、ルナさんが俺と出会った段階でお前の運命は決まっていた」
『くそう! この杖が完成していたらこうはならなかったのに! せっかく金を集めて時の研究を極め、全世界を私のものにする夢が! だが、命あればまだチャンスはある。今回は負けを認めてやる。だが、この研究を成功させて必ずお前を殺す! さらばだ!』
カオスの背中からコウモリのような羽が生え、上空に舞い上がる。
「逃す訳がないだろうが! アスフィケイション!」
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