第五章

第一話 信用を勝ち取るのは中々難しい

~テオ視点~




 騎士爵の爵位をアズール国の王様から授かり、俺たちは奪われた龍玉を取り戻すために、マーペに道案内をさせている。


『この道を真っ直ぐに行ってよ』


 魔力を封じる鳥籠の中に入れられているパペット人形のマーペが、腕を前に突き出しながらルートを伝える。


 さすがにこれだと効率が悪いな。せめて目的地がはっきりしていれば、一々道案内をしてもらう必要はない。


「なぁ、お前が教える道を歩いているだけでは効率が悪い。メイデスの居場所を好い加減に教えてくれないか」


『それはムリだよ。メイデス様は自由奔放、住処すみかもその都度変えているから、正確にどこにいるとかは言えないんだよ』


「それじゃあ、適当に進んでいるだけじゃないの。本当は私たちを罠に嵌めようとしているのではないでしょうね」


 マーペの言葉を聞き、ルナさんが問い詰める。


『そんなことはしないよ! 僕は兄ちゃんの魔力を追っているんだ。兄ちゃんはメイデス様の居場所を知っているらしいからね。僕と兄ちゃんは一心同体、互いの魔力が繋がっているから、兄ちゃんの居場所だけは分かる』


 語気を強めたルナさんの言葉に、マーペは怯んだ様子を見せながら罠ではないと言う。


『そうだ! だったら僕を手に嵌めてよ。そしたら僕を介して兄ちゃんとの繋がっている魔力線が見えるはずだから』


 身の潔白を証明するために、マーペが手に嵌めるように言ってくるが、そう簡単には信じることはできない。


 最悪の場合、操られてしまう可能性も出てくる。


「このままで良い。取り敢えずはこいつの道案内に従う」


 今のところは何も起きていない。状況が変化しない以上は、こいつの言う通りに歩くだけだ。


 マーペの道案内に従い、道を歩いて行く。すると、奥の方から何者かが走って来た。


 最初は人かと思ったが、そうではない。


 二足歩行のモンスターだ。鋭利な牙を持つイノシシの頭部に膨れ上がった筋肉、片手には棘のある棍棒が握られてある。


「あのモンスターはデスファンゴ!」


「マーペ、君ってやつは、やっぱり罠に嵌めたんだね」


『ちょっと! 偶然モンスターと出会でくわしただけで、僕を疑うなんて酷いよ! 僕は誘導なんかしていないって!』


 メリュジーナから疑いの目を向けられ、マーペは急いで弁明する。


『ブホオオオオオオオオオォォォォォォォォ!』


 メリュジーナとマーペが言い合いをしている中、俺たちを視認したデスファンゴが、筋肉の膨れ上がった足で駆け寄って来る。


 結構早いな。あの速度だと拘束魔法を使っても躱されてしまう。ここは無敵貫通魔法で一旦動きを止めるか。


「ショック!」


 魔法を発動した瞬間、敵の迷走神経を活性化させた。それにより心臓に戻る血液の量を減少させ、失神を強制的に引き起こす。


 回避不可能な魔法を食らい、デスファンゴは頭から地面に倒れた。


 だけどこの魔法は敵を倒すことは不可能だ。気を失うことはできても倒すには至らない。


 顔を上げて上空を見上げると、太陽は高い位置にあり、日差しを降り注がせている。


 これなら条件は揃っているだろう。工程を省いてあの魔法を使うことができる。


「ダストデビル!」


 太陽から降り注ぐ直射日光により、温められた地面から上昇気流が発生し、周囲から強風が吹きこむ。すると渦巻き状に回転が強まった塵旋風じんせんぷうが発生した。


 渦を巻きながら突き進む風は、デスファンゴを飲み込むとモンスターを上空へと吹き飛ばす。


 気を失っているデスファンゴは、そのまま重力により引っ張られ、イノシシの頭から地面に叩きつけられると顔面から血を噴き出す。


「ちょっと見て来るね」


 モンスターが完全に死んだのかを確認したいのだろう。メリュジーナがデスファンゴの死体に近付き、ジッと見つめる。


「ねぇ、ご主人様マスター。こいつ、頭の部分はイノシシだから食べられるかな?」


「食えないって!」


 お腹が空いているのだろうか? モンスターの頭部を見て、食用にできないか訊ねてくるも、食べられないと即答する。


 シルバーファングのように、全身が獣のモンスターなら食べられないことはないかもしれないが、頭部以外は人間の体をしている。どう見たって食べられそうにはない。


「テオ君ありがとう。まさかこんなところに、デスファンゴのようなランクの高いモンスターがいるとは思わなかったから、びっくりしちゃった」


 ルナさんが礼を言うと、鳥籠の中にいるマーペに視線を向ける。


「いい、次はちゃんとした場所に案内しないと承知しないんだからね」


『だから、今のは偶然なんだってば! 信じてよ!』


 必死になってマーペは訴えるも、ルナさんは冷めた視線で人形を見続ける。


 まぁ、俺たちはモンスターと人間。敵同士だ。そう簡単には信じることはできない。


『僕は本当に罠に嵌めようとはしていないんだって! お願いだよ! 僕を手に嵌めてくれたら本当のことを言っていることが分かる。操ったりしないから! 怖いのなら先っぽだけ、先っぽだけで良いから嵌めてよ!』


 必死になって訴える人形に、少々困り果ててきた。


 このままだといけないな。早く龍玉を取り戻さないといけないし、円滑に目的地に辿り着くためにも、こいつの提案に乗ってみるか。


 万が一何かやろうとしたら、その時は倒せば良い。


「分かった。なら、俺が嵌めてやるよ」


『優しくしてね。僕から嵌めることは頻繁にあるけど、嵌められるのは初めてだから』


 意味の分からないことをマーペが言うが、完全に無視してパペット人形を鳥籠から取り出す。そしてゆっくりと手に嵌めた。


 その瞬間、目に青い線のようなものが見える。


 これがマーペの言っていたパーぺと繋がっている魔力か。確かにこいつの言っていることは本当のようだな。


『おい、マーペ、作戦の方は上手く言っているだろうな』


『うん、順調だよ兄ちゃん。上手くこいつらの信頼を勝ち取って、メイデス様の元に連れて行っている。こいつら間抜けだよ。兄ちゃんがわざと僕を見捨てたように見せかけて、捕まった僕が誘導していることに気付いていないから』


 突然脳内に、2体の会話が響く。マーぺを嵌めていると、こいつらの念話のようなものが聞こえるのか。


 それにしても、マーぺはわざと捕まったのか。それにしても少し謎だ。念話ができるなら、メイデスの居場所を聞き出して教えてくれれば良いものの、どうして魔力線を追わなければならない。


 それもメイデスの策略のひとつなのか?


『了解した。それじゃ引き続き宜しく。またお昼に連絡するよ』


『うん、兄ちゃんも頑張ってね!』


 2体の念話が途切れると、パーぺを腕から離す。


 これ以上腕を突っ込んでいたら、怪しまれるかもしれない。


「一応お前が嘘を吐いていないことは分かった」


『信じてくれて何よりだよ。さぁ、目的地に向けてレッツゴー!』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る