第52話 結果発表
「10、9、8、7、6、5、4、3!2!1!……ゼロ―!はいここまで!投票終了します!!」
なつみちゃんのカウントダウンと共に、10分間の投票時間が終了した。
その間に僕らは何をしていたかと言うと……まあ特に何もしていない。
しいて言うなら雑談をしていた。
本当は、10分間休憩しようかという案もあったのだけど、投票なんてしようと思えば1分もかからないので、残りの9分間視聴者の皆さんを退屈させるのも良くないということで、ひたすら雑談をしていた。
まあこの雑談が退屈かそうでないかは判断が難しいところだけど、配信を見続けてもらうという意味ではやって良かったと言えると思う。
そしてあっという間に10分は経過して、もう結果発表の時間となった。
「じゃあ、行くわね……アタシこれ、一回言ってみたかったのよ……」
何か妙にウキウキした表情でなつみちゃんは立ち上がると、一つ大きく息を吸いこみ――――
「結果発表ーーーーーー!!!!」
いつもより少し甲高い声で、全力で叫びあげた。
え?なになに?それなに?なんでそんなに全力で!?
しかし、コメント欄もめちゃめちゃ盛り上がってるし笑っている。
はまちゃん……?みんなハマちゃんって言ってる。
僕の知らないなにか流行があるらしい……テレビかな、動画かな……勉強が必要だ……!本ばっかり読んでるからね……!よくない、知識の偏り良くない!
まあでも、いま質問すると変な空気になりそうだから、あとで聞こう。
「はい、と言う事で結果発表なんだけど……まあ、システム的に直前に投票した人とかはもう結果見えちゃってる可能性もあるよねー……それは見なかったことにしてもらって、ドキドキして見守ってください!!アタシもまだちゃんと見てません!」
なつみちゃんは左手で持ったスマホに対して、右手で画面を隠してなるべく見ないようにしつつ投票結果が表示された画面を表示すると、それを胸元に押し付けて隠す。
「さあ、えー……じゃあ発表の前に、Cちゃんこっち来て。アタシの隣ね」
僕らはソファに並んで座ってるので、普通ならある意味主役のCちゃんは二人の間に座らせても良いと思うのだけど、そこは彼氏の隣に女子が座るの嫌がる人もいるだろうというなつみちゃんなりの視聴者さんへの配慮だと思う。たぶん。
間に割って入る、と言うのもなんかよからぬ想像をさせそうだものね。
僕、なつみちゃん、Cちゃん、と3人並ぶ。
「さてCちゃん、いよいよ結果発表だけど、どう?今の気持ちは」
「そうですね……先ほども言いましたけど、わたくしとしては出来る限りのことはやらせていただいたので、あとは皆様の判断にお任せします」
Cちゃんの顔には覚悟が見えるけど、どこか穏やかだ。
このあと……いや、もう運命は決まっているんだものね。
僕でさえこんなに緊張しているのだから、Cちゃんも……って、意外と平気そうに見えるんだよなCちゃんは……僕の方が緊張してるのかな……?
「じゃあ、今度こそ発表するよ……どるるるるるるる」
巻き舌が出来ないなつみちゃんの口ドラムロールは素直に可愛いけどそれどころじゃない。
「どるるるるりゅりゅるるりゅりゅ……」
いややっぱりかわいいな?ちゃんと言え無くてたまに「りゅ」ってなっちゃうのとかめちゃ可愛いな??
「どるるる……だん!!」
とか言ってたら結果が発表された!!
どうなった?
80%の賛成者が居ればCちゃんは正式にチームに加わることになる……はたして投票数は―――――
「――――賛成、79%!反対21%!」
えっ!?
79%……?
ということはつまり………つまり……。
僕もなつみちゃんも、あまりの結果に何も言えずに何度もスマホの画面を確認するけれど、結果は変わることが無い。
さっきまで爆速で流れてたチャット欄もその動きがかなり緩やかになる。
1%届かない、そのあまりに劇的で残酷な結果に、言葉が出ないのはみんな同じだった。
重苦しい沈黙を破ったのは、当事者であるCちゃんだった。
「ダメ、でしたか……」
その顔は、たったの1%なら甘えようという気配すらなく、ただただ結果を受け止めていた。
僕が何言うべきなのか……?
いやでも、本人が結果を受け入れているのに何を――――
悩んでる間にも、Cちゃんはゆっくりと立ち上がり、カメラに向けて深くお辞儀をすし、最後の挨拶を始める。
「……まず、皆様に謝罪をしなければなりません。先ほど二人からも語られた通り、わたくしは嘘をつきました。ただ見学に来た赤の他人がミスを犯した。それで終われば良い話だと考えてしまいました。……なぎささんの友人だということになれば、その友人を連れてきたなぎささんが悪い、ということにもなりかねない……だから……他人のふりをするのが最善だと、そう思ったのです」
少し自虐的に笑うCちゃん。
「でも――――なぎささんは、それを許しませんでした。なぜなら、真っすぐな人だからです。誰かを悪者にして物事を終わらせることを良しとしなかった……たとえそれが、本当は存在しない人間だとしても。それは……わたくしも読み間違えました。でも……そういう正直な人だから、皆さんにも……なつみさんにも好かれているのだと思います」
その時、Cちゃんの瞳から一筋の涙がこぼれた。
「わたくしも、そんなお二人が好きになって、このチャンネルが好きになって……少しでもお役に立ちたいと思ったんですけど……失敗しちゃったので、仕方ないですよね」
その笑顔の切なさは、人の心に細い針を刺すのに充分過ぎた。
Cちゃんの言うことがどこまで本当なのか、僕にも、なつみちゃんにも、そして視聴者の皆にもわからないけど……でも、全部が嘘で作られているにしては、その表情はあまりにも悲しみで満ちていて胸が痛む。
思わず、アンケートの結果なんて無視してしまいたくなってしまう……けど、それはあまりにも視聴者に対する裏切り行為だ。
僕はもう2度も重要な場面でストップをかけている。
最初はしぃちゃんを追い出して終わりにしようとしてた時、そして2度目はさっきの投票直前だ。
ここでもう一度止めたらそれは、視聴者のみんなが何と言おうと僕自身がCちゃんをチームに入れたいという事でしかなく、だったら最初から投票なんてするなという話になってしまう。
投票をするということは、みんなの意見に委ねたという事。
それを裏切るのなら、そこに信頼は無い。
だから――――これは、受け入れるしかない。
そういう、結果なのだ。
「……うん……僕としては少し残念だけど、結果が出たからにはそれに従います。みんな、本当に協協力してくれて、声を届けてくれてありが――――」
「なーーんか、気に入らないのよねー」
締めに入った僕の挨拶を止めたのは……なつみちゃんだった。
「うん、気に入らない。やっぱ気に入らないわ」
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