第24話 デートの終わりに。

「いやーでもびっくりしたね。まさか急に鳥に食べ物を取られるなんて……こういうのって本当にあるんだね…」

 なつみさんがずっと笑ってて全然話が進まないので、僕が話を進める。

「ねーー?本当にそれよね。まあさ、一応ここはそういう事件が起こることもあるって聞いてたけどね」

「えっ!?知ってたの!?」

「うん、知ってた知ってた。って言ってもそんな毎日のように起こる事じゃないし、近くて景色綺麗でピクニックにぴったりなのも本当だから、本当に万が一、ワンチャン起きたら笑うなー、と思ってたんだけど、まさか本当になるとは思わなかったわ」

「いやもう、この根っからの配信者め!!」

 まさか、そこまで考えてこの場所を選んでたとは……恐ろしい子!

「けど、知ってたら教えといてよー」

 本当にびっくりしたんだから!!

「ごめんね。でもあくまでハプニングだから鳥が来るかどうかなんてわからないし、なによりもその……なぎさくんに伝えると、期待しちゃうか警戒しちゃうでしょ?」

「うっ……」

 それは……してしまう自信がある!

「その状態で鳥が来てもなんか嘘っぽいリアクションになると思ったのよ。まあでも、実際来てみたら知ってたアタシでも本気で驚いたから、知らせといても良かったかな、と今では思ってる。ほんとごめんね?」

「謝る仕草が可愛い!だからって許……許し……ます!!可愛いので許しました!」

 許さなかったらこっちの方が悪になるんじゃないかというレベルの可愛さを見せられた!ずるい!

「やったー、許されました!優しい彼氏ー!」

 カメラに向けてピースをするなつみさん。これを視聴者の皆さんに見せる事が出来たので、許した価値があろうというものです。

「じゃあ、今度は改めて、ちゃんと食べてね。あーん」

 もう一度あーんを促してくるなつみさん。

 僕は一度空を見上げて、周囲に鳥が飛んでないことを確認。

 よし、今度こそ!

「あーん」

 何か謎の緊張をしながらも……今度は成功!!

「――――美味しい!!!」

 本当に嘘偽りなく、素直に美味しい!!

 今日初めてのちゃんとした食事であることを差し引いても、完全に美味しい!

「はい、紅茶もあるよー」

「わ、おしゃれなティーカップ」

 持ち歩く用に割れないプラスチック製ではあるけど、デザインがしっかりしてる可愛いティーカップ。

 こんなものまで持ってきていたとは……抜かりない……!!水筒の蓋をカップ代わりにして飲めばいいと考えてしまう僕のような人間とは雲泥の差!

 しかも紅茶が美味しい!パンに合う!

 幸せ……と思いつつ、一つだけ引っかかってしまっている。

「でも、あれだね……こんなこと言うと怒るかもしれないけど……」

「なぁに?言ってみなさいよー」

「いやその……今、二回目のあーんの時にさ……もっかい鳥来たら凄い面白かったのにな……って、ちょっと……ちょっとだけ期待しちゃってたところあるよね。いやまあ、僕としては美味しいサンドイッチ食べられて嬉しかったんだけど、動画のネタとしてはね?」

 なつみさんがキョトンとして顔をしている。

 しまった失敗したか?そうだよね、せっかく作ってきた料理を二回も鳥に食べられたら嫌かもしれないよね。

 失敗したか……?

「……なぎさくん」

「は、はい!!」


「―――――――――――――実は、アタシもそう思ってた!あははっ!」


 ニカっと笑うその笑顔に心底安心すると同時に、また二人で笑った。

「いやぁ、なぎさ君もだんだん配信者の脳になって来たんじゃない?自分もお腹すいてるのに、それより動画としての面白さを期待してしまう!わかる、わかるよ!」

「それより、ってことはないよ。サンドイッチは本当に食べたかったし、食べて美味しかったから鳥に食べられなくてよかったし、最初の奪われたやつに対する悔しさもある!!……でも、そうなったら面白いなーも捨てきれなかった……!」

「うんうん、良いよ良いよ。なぎさ君はそのくらいがちょうどいいの。完全にこっちに来ちゃうとそれはそれでなんか違うもん。ちょっと俯瞰で見られるなぎさ君だから良いのよ」

 そういうものだろうか。自分ではよくわからないけど、なつみさんに褒められてる気がして嬉しい。

「じゃあ、ご褒美……ってわけでもないけど、もう一個どうぞ、あーん」

「あーん」

 もはや あーんを何の抵抗もなく受け入れてる自分にちょっと驚きつつも、この美味には逆らえない!

 ああ、美味しい、美味しい……心とお腹が満たされていく……!

 今日は本当に迷惑かけっぱなしというか、お世話になりっぱなしだ。

 何か恩を返したいんだけど……どうしたら良いんだろうか……?

 その刹那、眼前にはあーんをして幸せそうななつみさんの笑顔。

 ……なるほど、これか!

 早速行動に移すためにお弁当に目をやると、彩の為になのか入れてあるプチトマトが目に入った。

 よし!とそれを手に取って……イケメンモードスイッチオン! 

「じゃあ、僕からもお返し」

 僕はプチトマトのヘタの部分を摘まんで、なつみさんの口元に近づける。

「はい……あーん、だよ」

「ぎゃぱぷぱぱぱっ!!!!」

 なぎ遮断。ちょっとちょっとなつみさん、さすがに驚きすぎですって。

「どうしたの?あーん、だよ」

 自分がやりたがるのだから、やられる方も嬉しいに違いないのです。

「いや、それはだって、そんな小さなプチトマトだとその、指……」

 プチトマトと同じくらい真っ赤な顔になったなつみさんの唇に、プチトマトをそっと押し当てる。

「ほら、口開けて……」

 おめめがグルグルしてたなつみさんが覚悟を決めたようにギュっと目を閉じて、ゆっくりと口を開け、パクッとプチトマトを噛んでヘタから実を切り離す。

 その時、何か柔らかい感覚と同時に、プチトマトを噛みきった時に中の果汁が弾けて僕の指先が濡れた。

「おいしい?」

「……わかんにゃい……たぶん、すごいあまいかもしれない……」

「そうなんだ」

 なら良かった。

 けど、そんなに甘いトマトだったのか、一個しかないから僕も食べてみたかったな。

 と、その時に自分の指についたトマトの果汁が目に止まる。

 僕は味を確かめたくて、本当になんの気なしにその指をペロリと舐めた。


「本当だ、凄く甘いや」


 僕が味の感想を伝えて笑いかけると―――

「ぐぎゃらばばばばばばばじゃぷわぐ!!」

 どうしたどうしたなつみさん。なぎ遮断。

「だ、大丈夫!?何かあった!?」

「めちゃめちゃあったわよ!!」

「……え、ごめん……何があったの……?」

 普通に、お返しとしてあーんしただけなんだけど……。

「こ、この無自覚たらし!!女ったらし!」

「ええ!?な、なんで!?」

 私女なのに女たらしなの!?

 でもこれは なぎさ君としては良いことなのかな……?

 いやいや、女ったらしだと言われて男の人は喜ぶの……?わりと悪口では……?

 けど、なつみさんは怒ってるけど不機嫌な感じではないし……私のやったことは良かったのか悪かったのか……それはきっと、この動画が編集されて世に出たときに明らかになるでしょう。

 本当に悪かったらカットされるし、それをすり抜けても視聴者の皆さんにコメントで怒られるからね。

 編集と世間の声ら助けられてる初心者配信者なのでした。


 そこからは特にトラブルもなく無事に食事を終え、ピクニックVLOGの撮影は終わりを迎えたのでした―――――。


 なんだか今日、凄く疲れた!!

 主に私のせいだけど!!


 体調管理はしっかりしようと強く心に刻み込んだ日になりました。

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